「5Gの技術を自営無線として産業用途で利用したいと考えている企業に対して、エリアを限定して個別に免許を与えようという構想が欧州を中心に出てきている。だが、具体策は海外でも手探り状態。作業班の議論を通じて、日本における『ローカル5G』の姿が明確になればと思っている」
総務省 電波部 移動通信課 課長補佐の中川拓哉氏は、5Gの技術検討を行っている情報通信審議会(情通審)新世代モバイル通信システム委員会に新設された「ローカル5G 検討作業班」の議論にこう期待を寄せる。
「ローカル5G」は、エリアを限定し5Gを自営無線として利用できようにする、新しい無線システムである。
総務省は、2018年11月3日に公表した5G用周波数の割当指針案で、4.5GHz帯に200MHz幅、28GHz帯に900MHz幅の「自営用等で利用できる割当枠」を確保する方針を表明、ローカル5Gの実現に動き出した。作業班ではこの帯域の割当に向けて、帯域を現在利用している公共無線や衛星通信との共用条件や、隣接する公衆5Gと干渉を起こさないための技術条件に加えて、中川氏の発言にある「ローカル5Gをどのようなものにするか」についても検討する。
図表 日本で検討されている自営5G用周波数帯[画像をクリックで拡大]
12月12日に開かれた第1回会合では、①想定されるユースケースや割当の対象(自営利用に限定するのか、それとも電気通信業務も行えるようにするのかなど)、②割当単位(屋内に限定して免許を与えるのか、学校や工場などの構内を単位とした利用を認めるのか、屋外でも使えるようにするのかなど)が論点として示された。
作業班の議論は2019年12月まで行われるが、前述の候補周波数のうち、28GHz帯の100MHz幅(28.2-28.3GHz)については、すでに既存システムとの干渉検討などが完了していることから、先行して議論を進め、ローカル5Gの早期実用化を目指す。検討スケジュールでは、2019年2月までにこの帯域に関する議論を終え、情通審の答申などを経て、8月には制度改正を終える計画だ。
スケジュール通りに行けば、2019年度後半にはローカル5Gの利用が始まることになる。残りの周波数帯についても2020年6月の制度改正が予定されており、ローカル5Gの活用が本格化することになると見られる。
ローカル5Gの導入を検討している国は日本だけではない。
エリクソン・ジャパンの藤岡雅宣CTOによると「ドイツはすでに割当手続きをほぼ終了。スウェーデンやイギリスでも作業が進んでおり、フランスでも動きがある」という。ドイツでは3.7GHz帯と26GHz帯に「ローカル5G」向けの帯域を設けており、大手自動車メーカーが導入に意欲を見せている。総務省がローカル5Gの実用化を急ぐのは、こうした海外の動向に歩調を合わせるためだ。
欧州とは枠組みが異なるが、米国では自営LTEで利用されている3.5GHz帯共同利用帯域(CBRS)で、自営5Gを運用しようという動きも出てきている。議論の行方次第では、こうした帯域共同型のシステムが日本のローカル5Gで使われる可能性もある。
もっとも総務省の中川氏は「技術の進歩によって、将来新しい枠組みが導入される可能性はあるが、現在の5GシステムにはCBRSのような帯域共用の仕組みは入っていない。当面は、地域毎に個別に免許を付与する形になる」と語る。