今年3月、九州初となるローカル5Gの無線局免許を取得したQTnet。技術部 技術開発グループ副長を務める西村達志氏はその狙いについて、「ローカル5Gは地域の課題解決に寄与できる。いち早く着手することで知見を積み重ねたいという思いで取り組んできた」と話す。
同社は、九州工業大学と共同研究を行っている(図表)。産学連携によるローカル5G実証事業は全国初だ。
図表 九工大とQTnetによるローカル5G共同研究の概要
同大・戸畑キャンパス内にNSA構成のローカル5Gシステムを構築し、学生が多く集まる大学生協や中央広場、図書館等を5Gエリア化。研究用フィールドとしてこの環境を提供し、学生や、アプリケーション開発等を手掛ける民間企業も参加して実証を進める。「九州には地場のスタートアップも豊富。この地の利も活かしていきたい」と西村氏は話す。
ローカル5Gの用途については、九工大が掲げる“未来思考キャンパス構想”の一環として、学生向けサービスの拡充から始める予定だ。画像解析技術との組み合わせや、大学構内で運営している無人店舗への適用等を計画している。
公衆5Gとのハンドオーバーに期待戸畑キャンパスには28GHz帯の5G無線基地局3台、LTE基地局1台を設置。アンカーには2.5GHz帯の自営BWAを使用している。
コアネットワーク設備については、キャンパス内でEPCを運用しながら「一部の機能はSaaS型でサービス提供を受けている」。ベンダー名は非公開だが、コア設備と無線機は同一メーカーで構成しているそうだ。
置局設計を含め、システムの設計・構築・メンテナンス等はメーカー等の支援を受けて実施している。やはり、28GHz帯の無線運用には相応の技術・ノウハウが必要で、こうした支援を受けつつ「今後は自分たちでできる範囲を広げていきたい」と西村氏。実証事業を通して技術・ノウハウを蓄積し、将来的にはスマートファクトリーや遠隔医療・教育等の分野にローカル5Gソリューションを提供することを計画している。
実用化を見据えて、今年末に制度化される予定のサブ6帯・SA構成の導入も検討していきたいという。「NSA・28GHz帯は、ユースケースを検討するなかでどうしても基地局数が多くなりコストが増えてしまう。普及には、サブ6とSAが必要だ」(西村氏)
QTnet 技術部 技術開発グループ 副長 西村達志氏
もう1つ、実証を進めるなかで見えてきた課題がある。端末の少なさだ。アンカーとして使う2.5GHz帯LTEと28GHz帯の5Gに対応したローカル5G用端末は「まだ市販品がなく、調達コストが高い」ことが足枷となっている。
アプリケーション/サービスを開発してもキャンパス内でしか使えない点も問題だ。「ローカル5Gの普及には、公衆網とのハンドオーバーが不可欠。メーカー等には、これに対応できる端末の開発を期待したい」という。