「2023年は大企業によるPoCが主体となるものの、商用導入も増え始める」
JEITA(一般社団法人電子情報技術産業協会)の共創プログラムの一環として設立された、5G利活用型社会デザイン推進コンソーシアム(以下、5G-SDC)は今年1月、ローカル5G市場に関する調査レポートを発表した。その中で、2023~24年の2年間を導入期と位置付けている。
2019年12月の制度化から3年余り。免許の申請・取得といった手続きの複雑さ、導入・運用合わせて1億円以上といわれる高いコスト、端末のラインナップ不足に、コロナ禍による企業の投資抑制という外的要因も加わり、ローカル5G市場は「黎明期」が続いてきた。
それが今年ようやく黎明期を脱け出し導入期に入るのは、ソリューションの低廉化によるところが大きい。
5G-SDCでは、早急にクリアすべきトリガー要素の1つとして「総コスト2000万円弱」の実現を挙げているが、2000万円以下で導入を可能にするソリューションが各社から提供されているからだ。
「具体的な構成で見積もりを比較して、うちの方が高いことはまずない」
こう語るのは、NTT東日本 ビジネス開発本部 第三部門 IoT サービス推進担当 担当部長の渡辺憲一氏だ。
同社が昨年5月に提供開始した「ギガらく5G」は、電波シミュレーションや置局・ネットワーク設計、免許取得などの事前手続きから、設計・構築・運用までをワンパッケージにしたローカル5Gのマネージドサービス(図表1)。
従来、5年間で総額1億円ほどかかる導入・運用コストを、約2000万円(最小構成の場合)と1/5程度に抑えられる。一括払いだけでなく、基地局などの設備・機器代も含めて月額利用料として支払うサブスクリプションも用意しており、その場合は月額30万円で利用することが可能だ。
「低廉化したローカル5G 市場でも競争力が高い」(渡辺氏)という価格は、NTT東のデータセンターに置いたクラウド5Gコア(以下、5GC)を共用するほか、大手ベンダーのキャリア5G向け基地局をダウンサイジングすることで実現している。
その一方、「ローカル5Gならではの機能は高い水準を維持している」とNTT東 ビジネス開発本部 第三部門 IoTサービス推進担当部長の増山大史氏は説明する。
一例が準同期TDDへの対応だ。
キャリア5Gは下り/上りの信号送信のタイミングを7対2の比率で一致させる同期TDDで運用されているのに対し、ローカル5Gでは多様なユースケースに対応するため、同期TDDと信号送信のタイミングは一致させたまま、下り/上りのパターンのみ一部変更する準同期TDDも採用されている。
ギガらく5Gは同期TDDに加えて、下りと上りの比率が4対4の準同期TDDに対応する。
ローカル5Gは、工場などの現場に4Kカメラを複数台設置し、遠隔から状況を把握したり、現場の作業員に指示を出すといったユースケースで活用が進んでいる。4Kカメラ1台で20M~30Mbpsの帯域を使うため、作業員がスマートフォンやタブレットから高精細映像を安定的に伝送するには、上りの高速通信が必須となる。
ギガらく5G は、基地局とルーターのそれぞれに4本のアンテナを搭載する4×4MIMOや、情報密度を高めて一度に運べるデータ量を増やす256QAM変調方式を採用することで、準同期TDDの場合、上り最大466Mbpsを実現する。4Kカメラであれば数十台の接続が可能だという。