NTT、高速移動体で60GHz帯無線LANと5G/LTEを通信断なく切り替え

NTTは2024年4月26日、60GHz帯無線LAN(WiGig)と5G/LTEをシームレスに切り替える技術を考案し、フォーミュラカーを用いた超高速移動環境下においてその実証実験に成功したことを発表した。

WiGigは60GHz帯を使用した無線LANで、1周波数チャネルで最大4.62Gbpsの無線伝送が可能であり、通信の大容量化手段として期待されている。ただ、無線LANは非移動体通信であるため、1つの基地局サービスを提供できるゾーンは5G/LTEなどの移動体通信システムより狭く、また完全に通信が途絶してからでなければ接続先の基地局や通信方式の切り替えができないという問題があり、ドローン、自動車、高速列車など、広範囲を高速に移動する端末で活用することは困難だった。

この問題を解決するためNTTでは、2021年に切り替えタイミングと切り替え先の基地局を適切に制御する「基地局切り替え制御」、2022年に無線端末側で基地局を自律的に切り替える「端末主導動的サイトダイバーシティ制御技術」を考案し、高速移動下でのWiGig活用における有効性を実証した(参考記事:NTTが60GHz帯無線LANの高速移動体向け伝送を実現、ドローン・車への適用が可能に|BUSINESS NETWORK)。

しかし、通信の途絶は移動体端末が非移動体無線通信システムのエリアを出るときにも発生するという問題が残っていた。そこで今回NTTは、非移動体無線通信システムと移動体通信システムのシームレスな連携を実現する制御技術を考案した。

非移動体無線通信システムと移動体通信システムをシームレスな連携を実現する制御技術

非移動体無線通信システムと移動体通信システムのシームレスな連携を実現する制御技術

この制御技術は、WiGigの通信電波そのもので高精度な通信距離推定を行える性質を利用し、端末側で推定距離に基づいて非移動体無線通信システムのエリア端に到達することを検知して、接続が切断される前に移動体無線通信に切り替える。これにより、通信断を回避しようとするものだ。

同技術の実証実験を、2024年2月21日・22日にレーシングチーム「DOCOMO TEAM DANDELION RACING」が提供するフォーミュラカーを用いて行った。

フォーミュラカーには、無線機能部として車両後部にWiGig無線部2個、コクピット内に5G/LTE対応スマートフォン1台を、機能制御部を車両左側のサイドポッド内に搭載。無線機能部がスループット測定用のダミーデータを5Mbpsレートで生成し、シームレス切り替え技術の制御に基づいて通信システムを切り替える構成とした。

実験に用いたフォミュラカーとシステム構成

WiGig基地局は鈴鹿サーキットのメインストレート(約600メートル)に6局設置し、コース内のそれ以外の場所では5G/LTEを用いることとし、地上側のサーバーでスループットを評価した。

実験の結果、同技術を適用しなかった場合、WiGigから5G/LTEの切り替えのタイミングでスループットが0bpsとなる領域が数10メートル程度(時間にして数百ミリ秒程度)発生した。これに対し同技術を適用すると、切り替え時の通信断が発生しなかった。

シームレス切り替え技術を適用しなかった場合のスループット

シームレス切り替え技術を適用した場合のスループット

シームレス切り替え技術を適用しなかった場合(上)と、適用した場合のスループット

実験に用いたフォーミュラカーは最高で時速278キロ、WiGigから5G/LTEの切り替え地点では時速254キロで走行しており、超高速の移動環境において同技術の有効性が実証されたとしている。

NTTはこの実験の成果を、様々な高周波数帯無線伝送システムを端末が移動する環境で利用する際に、GPSなどの外部の測位システムに頼らずにエリア端での特性劣化を回避して適切に他の無線システムを選択する技術として活用が期待できるとしている。

具体的には、以下のようなユースケースで5Gなどの移動体通信に加え、WiGigなどの非移動体無線通信システムをも活用することが可能になるという。

・高速移動する列車や車へのスポット的な映像データ等の大容量伝送
・車両ドライブレコーダの映像データや、LiDAR等による周辺スキャンデータといった車両におけるセンシングデータのゲート等での地上側への大容量伝送
・移動するドローンやロボット等の移動体映像データの地上ネットワークへの大容量伝送

 

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