通信事業者はなぜ「オール光」を目指すのか 国内キャリア3社の戦略と理想像 

光と電気のいいとこ取りで発展してきた通信事業者ネットワークが、そのバランスを大きく変える節目を迎えている。

光信号による通信は長距離・大容量伝送を得意とし、さらに電力消費と遅延が小さいという利点を持つ。この特性を最大限に活かすため、通信事業者は、電気信号への変換(光電変換)を極力なくして光信号のまま通信する「オール光ネットワーク」の構築・展開を進めている。

なぜ、今「オール光化」なのか。背景には光技術の進化と、大容量化・低消費電力化ニーズの高まりがある。

「便利でも、社会が許さない」

光による通信はこれまで、上記の特性を活かせる長距離・大容量伝送や、特に広帯域な通信が求められるサーバー間等に用いられてきた。

対して、電気信号には扱いやすさという武器がある。ネットワークの中継点や端末と接続するエッジでは、光信号を電気信号に変換してスイッチング/ルーティング、通信サービスの分岐・集約を行っている。

光レイヤーとIPレイヤー(電気信号)を使い分けるこのネットワーク構成は、双方の長所が活かせるうえ運用もしやすい。数十年にわたってインターネットやモバイルの発展を支えてきたが、ここに来て限界が見えてきた。

トラフィック量が急増する中で、際限なく電力を消費し続けることが許されなくなったのだ。象徴的なのが、AIの普及である。「オールフォトニックネットワーク」の構築を進めるKDDIで先端技術統括本部 先端研究開発本部長を務める大谷朋広氏はこう話す。

KDDI 先端技術統括本部 先端研究開発本部長 大谷朋広氏

KDDI 先端技術統括本部 先端研究開発本部長 大谷朋広氏

「AIの時代は、データをどれだけ効率的に集められるかが勝負。だが、電気を使って環境を破壊しながらそれをやるのでは、社会的なミッションは達成できない」

NTTがIOWN構想で「オールフォトニクス・ネットワーク(APN)」を推進する理由の1つもこれだ。APNの目標性能は伝送容量125倍、電力効率100倍、エンドツーエンド遅延を200分の1にするというもの。AIの社会実装を支えるインフラとしてAPNを位置づけている。

AI時代の基幹網を作る

ソフトバンクもAIと人間が共存する社会の通信インフラとして、光電変換不要の「All optical network(AON)」の構築を進める(図表1)。同社の要件に合わせて富士通が開発した光伝送装置「1FINITY L211」等を用いてコアネットワークの構築を開始。2023年10月に全国展開を完了した。

図表1 All optical networkとIPネットワークの融合

図表1 All optical networkとIPネットワークの融合

狙いは、「AI共生社会の土台となる超分散コンピューティング基盤を作る」ことだと、モバイル&ネットワーク本部 ネットワークサービス統括部 統括部長代行の佐藤智昭氏は説明する。解消すべき課題はやはり電力だ。

ソフトバンク テクノロジーユニット統括モバイル&ネットワーク本部 ネットワークサービス統括部 統括部長代行 佐藤智昭氏

ソフトバンク テクノロジーユニット統括 モバイル&ネットワーク本部 ネットワークサービス統括部 統括部長代行 佐藤智昭氏

AIを動かすには途方もない電力が要る。現在はデータセンター(DC)が首都圏と関西に集中し、人もデータも同じエリアで電気を消費している。これを解消するには、「人よりも動かしやすいデータを分散すべき。かつ、再生可能エネルギーが使いやすい地方にDCを置くほうが効率的だ」(同氏)。この考えから昨年、地方にDCを整備し、データ処理と電力消費を全国に分散する次世代社会インフラ構想を発表した。

だが、分散には弊害もある。集中型に比べて計算処理が遅くなったり、拠点間で処理結果が反映されるのがズレたりといったことが起こる。分散したDCが1つのコンピューターのように動くためには、大容量かつ高品質で高効率な通信網が欠かせない。

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