JAMSTECが放つ光無線 海中で1Gbps×100mの超高速通信

電波が使えない海中は、「通信のラストフロンティア」とも呼ばれている。

これまで海中での無線通信は、音波を利用したものが主流だった。しかし音波による通信は水中でも遠くまで届く反面、速度は数kbps~数十kbpsと非常に低速。また、音響ノイズの影響を受けたり、指向性が弱いため様々なところに反響してうまく送受信できないなど、環境に大きく左右されるという欠点もあった。

こうしたなか近年、発達してきたのが光学技術・光検出技術だ。そこでJAMSTC(国立研究開発法人海洋研究開発機構)は2008年から光を使った海中での高速無線通信の研究開発に取り組んできた。一般的なカメラ用の照明器具などを使う場合、光が届くのは3~5m程度だが、研究を続けるうちにエネルギーを集約したレーザー光を使うとより長距離に届くことが分かってきた。そして昨年11月、トリマティスと行った海中での光無線通信の実証において、距離100m超・1Gbpsの高速通信に成功した。

1Gbps×100m実現への道実験で使用した送信器にはレーザーダイオードを5個搭載し、5本のレーザービームを同時に出すことで有効経を大きくした。受信器にはPhotomultiplier Tube(フォトマル)を4つ配列する。

「フォトマルとは、簡単にいうと光を電気に変換してくれるもの。『なだれ倍増現象』といって、少しでも光が入ると雪のなだれ現象のようにどんどん広がる仕組みを持っている。これを4つ並べることで受光効率の向上と通信品質の劣化を抑えた」とJAMSTEC 研究プラットフォーム運用開発部門 技術開発部 主任研究員の石橋正二郎氏は話す。

実験に使用した試験機
実験に使用した試験機

海水には塩分やミネラル、目に見えない小さな塵や魚の糞など様々な成分が混ざっているため、遠くに行くほど光が減衰していく。光のエネルギーを絞って細いビームにすれば密度が上がり遠くまで届きやすいが、その代わり懸濁物や遮蔽物にぶつかれば届かなくなってしまう。

一方、光を広げるとどれかは届く可能性があるが、そもそものパワーが弱まってしまう。

「つまり1つの光源に対して1つの受光をするのではなく、マルチビーム・マルチアレイ化することで、『どれかは届くだろう』という形にした」

実海域での試験を行う前にまずは気中で試験を実施した。光を出す/出さないを切り替えることで、オンオフ変調を表現。これを成功させた後、水槽内でも同様の実験を行った。水槽では約20m先に飛ばしたレーザー光を鏡で複数回反射させることで100m以上の通信距離を確保。その状態で1Gbps相当のデータフレームパケットを送受信し、データフレームの品質が保持されていることを確認した。

水槽で行った試験の様子

そして2021年11月、これらの成果を踏まえて実海域・大深度での実証実験を行った。実験にはJAMSTECが持つ探査機「かいこう Mk-IV」を利用。かいこうは2階建ての構造で、ランチャーと呼ばれる2階部分は海上から有線でつながっており、ビークルと呼ばれる1階部分は切り離されて動き回る。

今回はランチャーに送信器を、ビークルに受信器を搭載し、ランチャーが水深約700mに位置した状態でビークルを段階的に水深約800mまで潜らせた(図表)。その結果、実海域でも1Gbps・100m 超の高速海中光無線通信に成功した。

「おそらく現段階では深海におけるトップの記録だ」

 

図表 実海域での試験の概要
図表 実海域での試験の概要

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