ローカル5Gの本格普及の足音は着実に近づいている。
デロイト トーマツ ミック経済研究所(以下、ミック経済研究所)の調査レポート「ローカル5Gソリューション市場の現状と将来展望2024年度版」によると、2024年度のローカル5G市場は、前年度比33.5%増の227億円。2028年度には573億円に達する見込みだ(図表1)。
図表1 ローカル5Gソリューション市場推移(2022~2028年度)
同社 上級研究員の江口智章氏は、「コスト面のハードルは依然として高いが、それでもミッションクリティカルな用途でローカル5Gを活用していこうという動きが広がりつつある」と語る。三井情報 サービスプロバイダ営業本部 サービスプロバイダ第二営業部 第一営業室 室長の原豊晴氏も、「広大な敷地を有し、かつモバイル網の電波が届きにくいエリアでローカル5Gの導入が進んでいる」と話す。
ミック経済研究所によれば、なかでも製造業の比率が高く、売上ベースで市場全体の約4割を占める。製造現場では、AGV(自動搬送ロボット)やAMR(自律走行搬送ロボット)などの活用が進んでおり、こうしたロボットの制御には、高速かつ高信頼なネットワークが求められるからだ。ただ用途によっては、既設工場では稼働中の生産ラインとの兼ね合い等からローカル5Gの導入が難しく、新設工場での採用が目立つ。
例えば、NECプラットフォームズの掛川工場では、部品などを運搬する17台のAMRの制御にローカル5Gを活用し、生産性向上や省人化を目指している。「数台程度のロボット制御であればWi-Fiで十分だが、数十台~100台規模になると、ローカル5Gが不可欠になる」(江口氏)
大規模なプラントや発電所でも、省人化などの観点からドローンやロボット活用のニーズは大きい。「具体的には、ローカル5Gでドローン等を制御し、保安・点検業務に活かすという事例が注目されている」と矢野経済研究所 ICT・金融ユニット モビリティ&コミュニケーショングループ 主任研究員の早川泰弘氏は説明する。
発電所にローカル5Gを導入した九州電力は、現場の円滑な情報伝達などを目的に、ローカル5Gを活用した新たなコミュニケーションの形を模索している。今年4月には、ローカル5GとiPhoneの直接接続に成功。どう活用するかは検討中だというが、高精細な映像や音声データを従業員間でリアルタイムに共有することも可能になるだろう。
将来的にはローカル5Gの利用用途を拡大し、AI画像認証による入退管理やロボットを活用した車両誘導、ドローンを使った巡視・点検などについても検討を進めるという。
化学メーカー・デンカの大牟田工場も、モバイル網の電波が届きにくいエリアに位置しており、スマートデバイス等を用いた現場業務をスムーズに行えないという問題を抱えていた。そこで工場の一部にローカル5Gを構築し、ハンディターミナルをはじめとするモバイル端末の活用や目視検針業務の効率化など、労働生産性の向上に取り組んでいる。
当然、デンカは“その先”も見据えている。大牟田工場へのローカル5Gの導入を支援した三井情報 同室 マネージャーの石舘豊氏によると、「デンカは将来的に工場をデジタルツイン化し、『良品廉価なモノづくり』の実現を目指している」。ローカル5Gを用いた設備のリアルタイム監視や予兆保全、ロボット等による生産ラインの自動化などを推進し、自社製品の品質向上とコスト削減を両立させていきたい考えだ(図表2)。
図表2 三井情報が描くスマートファクトリーの姿