2025 年5月の独メルツ政権の発足から約10か月が経過し(本稿執筆時点)、インフラや防衛支出の拡大、移民政策の見直し、労働・年金制度改革等、政策の具体的な方向性が次第に鮮明になってきた。
ICT分野では、デジタル主権(自国が重要なデジタル技術・データ・インフラの管理権を持ち、海外依存を減らすこと)の確立に向け、国家としての技術的独立性の強化が図られている。本稿では、その動向を概観する。
メルツ政権はデジタル政策の強化を明確に掲げており、政権発足に伴い初めての単独のデジタル省である「連邦デジタル・国家近代化省(BMDS)」を創設した。これまで複数省庁に分散していたデジタル関連部門が移管・集約される形で新設された同省は、デジタル行政、デジタルインフラ、デジタル経済等、デジタル政策に係る広範な権限を持つ。
この新設省の初代大臣にはカルステン・ヴィルトベルガー氏が任命された。同氏は大手小売企業のCEOを務めた民間出身の経営者であり、政治経験をほとんど持たないまま大臣に起用された点が異例の人事として注目を集めた。この起用は、官僚的手続きに依存せず、産業界の実務知識を生かして国内デジタル基盤を強化し、海外企業への依存を減らすことでデジタル主権の確立を加速させる狙いがあると考えられる。
2025 年11月、ベルリンにおいて「欧州デジタル主権サミット」が開催され、独仏両国が主導する形でEU加盟国の政府関係者、欧州企業、研究機関、専門家ら約900人が一堂に会した。本サミットは、米国や中国の巨大IT企業への依存が強まる現状を踏まえ、欧州として自立的なデジタル基盤を構築するための共通戦略を議論する場として開催された。
独仏両国は、規制簡素化、公正なデジタル市場、欧州発最先端AI育成等を戦略分野として提示。両首脳は、米中企業への依存の危機を指摘し、欧州の主権確保の必要性を強調した。
メルツ独首相は、デジタル主権は安全保障と防衛に密接に関連していると述べた上で、ドイツ連邦軍や欧州の軍隊が、防衛に必要なデジタル技術を備えていることの重要性を強調。さらに、独仏及び欧州各国の企業が主要技術への投資として合計120億ユーロ以上の出資を表明した点についても触れ、欧州が挑戦に応える重要なシグナルと位置づけた。マクロン仏大統領は、欧州技術企業の国境を越えた連携を戦略的必然と強調するとともに、公共調達と規制において欧州優先主義を原則とする必要があると述べた。
パネルセッションでは、規制簡素化やスタートアップ支援、クラウド・データ主権確立、AIや量子技術への投資等が議論され、保護とイノベーションの両立がデジタル主権実現の鍵と位置づけられた。
本サミットは、ドイツのデジタル主権政策を欧州レベルで具体化する試みであり、国内政策を超えて欧州全体で協力体制を構築する基盤となる重要なステップであると考えられる。
2025年5月に発足したメルツ政権は、デジタル政策の強化を掲げ、デジタル主権の確立に向けた制度的・国際協調的取り組みを積極的に推進している。デジタル省の設立や欧州デジタル主権サミットの開催は、単なる技術政策ではなく、国家・地域としての自立性と競争力を確保するための戦略的施策であり、今後の政策動向を理解する上で重要な指標となると考えられる。
※本稿は、筆者の個人的見解である。
[月刊テレコミュニケーション 2026年4月号の記事を再構成]