スマートホームの国際標準規格として、通信規格の標準化団体である米Connectivity Standards Alliance(CSA)が策定した「Matter」は、2022年10月の初版(Matter1.0)リリースから3年強を迎える。
この規格は、メーカーやプラットフォームの垣根を越えたデバイス間連携を可能にすることを目的としており、Matter対応デバイスは、Google HomeやApple HomeKit、Amazon Alexaといった主要プラットフォームから操作・制御できる。
Matterは、アマゾンやグーグルらが2019年12月に立ち上げたプロジェクト「Connected Home over IP(CHIP)」をルーツに持ち、2025年10月時点でCSAに加盟する企業・組織は860社以上に達する。
今年1月に米ラスベガスで開催されたテクノロジー見本市「CES 2026」では、昨年11月に電球や各種センサーなど計21種のMatter対応デバイスを発表したIKEAも初出展し、大きな話題を呼んだ。
グローバルでは、プラットフォーマーの動きも活発だ。アップルは、新OS「HomeOS」を搭載したディスプレイ型のスマートホームハブや、自社開発のセキュリティカメラを2026年以降に市場投入する予定で、いずれもMatter対応が噂されている。
アマゾンも、生成AIを搭載した「Amazon Alexa+」のβ版提供を北米でスタート。ユーザーの過去の発言や行動を記憶し、それを踏まえたより自然な対話を実現する。将来的には、例えば「寒い」と発するだけで空調が最適化されるなど、ユーザーの意図や周辺環境を理解したうえで、Matter対応デバイスを制御できるようになると期待されている。
グーグルは、Google Homeに紐づくスマート家電などを外部アプリから操作可能にする「Home APIs」を提供する。中国の電機メーカーであるHisenseは昨年5月、同社のスマートホームアプリ「ConnectLife」とHome APIsを連携させ、Hisense製品とMatter対応のサードパーティ機器をConnectLifeから統合的に操作・制御できるようにする計画だ。
一方、国内の動向はどうか。欧米と比べて「Matterの普及が遅れている」との指摘はあるが、変化の兆しも見え始めている。CSA日本支部で代表を務めるX-HEMISTRY CEOの新貝文将氏は、「国内で流通するMatter対応デバイスは増加傾向にあり、各メーカーもそれに追随しようという動きが見られる」と語る。X-HEMISTRY調べでは、国内におけるMatter対応製品は130種類以上にのぼるという。CSA日本支部への参画企業も70社を超え、「月に1社程度のペースで増えている」。

こうした中で存在感を強めつつあるのが、通信事業者とICTベンダーだ。「国内MNO4社の中にも、Matterを活用した事業領域の検討を進めている企業が存在する。ケーブルテレビ事業者からの関心も高い」(新貝氏)。その背景には、2024年11月にリリースされたMatter1.4で、「HRAP(Home Routers and Access Points)」が定義されたことがある。
Matterでは、Wi-Fiやイーサネットといった複数の通信方式をサポートするが、なかでも低消費電力な無線規格「Thread」への関心が高まりつつある。ただ、Threadは主にデバイス同士のローカル通信を担う規格であり、外部ネットワークと接続するには、両者の橋渡し役を担う「ボーダールーター機能」を備えたデバイスが必要だった。HRAPにより、ホームルーターやアクセスポイント(AP)などにボーダールーター機能を統合できるようになった。
これを受け、あるICTベンダーは、通信事業者向けにMatterコントローラーとボーダールーター機能を実装したホームルーターを開発中だという。通信事業者やケーブルテレビ事業者は、自社が提供するホームルーターを、単なるインターネット接続機器ではなく、家庭内におけるIoTデバイスの中枢を担う存在として機能させることを狙えるというわけである。
米CSAには、ベライゾンやケーブルテレビ事業者らが設立した非営利のR&D(研究開発)組織・CableLabsなどが参画している。新貝氏がCSA加盟の狙いについて両者にヒアリングしたところ、次のような回答が返ってきたという。「これまでの通信ネットワークは“速度競争”に軸足を置き、増速を重ねてきた。しかし、消費者は必ずしも通信速度の向上だけに魅力を感じなくなってきている。スマートホーム市場が成熟している米国では、Matterを次の事業の柱とするタイミングが到来した」