コロナ禍を経て、社会は「元に戻りつつある」と言われることもある。しかしZoomの日本法人、ZVC JAPAN 代表取締役会長兼社長の下垣典弘氏は、キーノートにおいて「元の通りに戻っているかと言えばなっていません」と断言し、いくつかのテクノロジーに後押しされて新しい働き方や新しい人との付き合いが生まれていると指摘した。
個人や組織の生産性を高める未来の働き方を実現する鍵はいくつかあるが、特に重要なのが「生成AI」だ。生成AIの市場は2030年までの7年間で世界では20倍に、日本でも15倍に拡大すると予測されている。
下垣氏は「Zoomは単なるビデオ会議だけでなく、人と人をつなぐコミュニケーションやコラボレーションのあり方を変えるテクノロジーを提供していきます」と語ったが、その製品のすべてに生成AIが無償で組み込まれている。「クラウド電話やチャットの履歴などのデータを1つのプールに保存しAIが活用していく時代を築くため、プラットフォーム上でAIのアシスタント、Zoom AI Companionを動かしています」(下垣氏)
特に急成長を遂げているクラウド電話「Zoom Phone」は、国内で20万ライセンスを突破する勢いで導入が進んでいる。最大の利点は電話代の削減だが、AIによる分析・活用といったメリットもある。
そして、イベントで新たに発表されたAIを搭載したコラボレーションプラットフォームである「Zoom Workplace」は、未来の働き方のためのコミュニケーションの合理化、従業員エンゲージメントの強化、生産性の向上、人と会うための時間の最適化という4つの軸を中心に、1つのプラットフォームで、ビデオ会議、電話、メール、チャット、カレンダー、スケジューラー、ホワイトボードなどが利用でき、新機能が追加されている。これらにもAIの力を取り入れ、人間は本来やるべき仕事や作業に集中できるようサポートしていく。
なかでも注目すべきは、AI Companionの新機能「Ask AI Companion」で、チャットやビデオ会議、メールなどZoomに保存される情報の中から必要なものを引き出し、提供できるようになった。さらに、今後はOffice 365やGoogle Workspaceの情報も参照可能にする計画があるという。
なお生成AIでは、英語に比べて日本語での精度が課題とされるが、ZoomではGPT-4に独自のLLMを組み合わせたモデルを開発しており、第三者評価でも高い評価を得ている。「間もなくこの新しいモデルをプロダクション環境に実装する予定で、AI Companionの効果をさらに体感いただけると思います」と下垣氏は述べた。
日本航空(JAL)グループは、全国各地の拠点に約160台以上のPBXを導入し、3500回線を運用してきた。約7200台の固定電話と1万1000台のiPhoneを組み合わせて様々な電話事務をこなしてきたが、PBXが老朽化してきたことに加え、個別最適ではなく大きなコスト削減を実現し、在宅勤務の壁をなくしたいといった複数の目的からクラウドPBXへの移行を本格的に検討し始めた。
その際に重視したのは、設備の手配や工事、運用などの関連業務を一気通貫で実現できることだ。また、オンプレミスのPBXと組み合わせたハイブリッド構成で徐々に移行できること、新たな使い方を周知する手間がかからず、シンプルに操作でき、場所やデバイスを選ばずに通話ができることも条件だった。
こうした要件を満たしたのがZoom Phoneだ。
コロナ禍以前からZoom Meetingsを活用しており、新たなソフトウェア導入の必要がなく、共通の操作性が得られることから、「ユーザーにとってストレスフリーで、スムーズに移行できることがポイントでした」(日本航空 デジタルテクノロジー本部 システムマネジメント部コミュニケーション企画グループグループ長 田上智基氏)。また、番号移行も含めた一連の作業をワンストップで行えて現場担当者の負担が少ないこと、ユーザーの期待感が高いことも決め手になったという。
JALの取り組みの真価は「古くなったものをそのままスライドするのではなく、Zoom Phoneの導入を機に、電話業務を変えてみませんかというメッセージを出した」点だ。現場と一緒に考えながら、Zoom Phoneの新しい機能を活かしたより良いサービスのあり方を検討し始めている。
2023年12月より天王洲の本社オフィスから移行を開始し、600台の固定電話機を200台に削減した定量的な効果もさることながら、「本来、電話で受け付けるべき業務は何か、いらないものは何か」を問い直し、一部の受付業務を廃止して効率化している。この成果を踏まえ、2024年度は全国の空港へZoom Phoneを展開していく計画だ。また、AI Companionやスケジューラー、Workvivoといった新たな機能についても、活用できるものはどんどん活用していきたいという。
全国15店舗を展開する大丸松坂屋は、社内業務のデジタル化の一環として約5000人の従業員にiPhoneを配布したことをきっかけに、電話システムの刷新に取り組み始めた。
同社もJAL同様、全国の各拠点に導入したPBXの老朽化に頭を悩ませていた。情報収集を進め、オンプレミスのPBXを入れ替えるよりもTCOが優れるだけでなく、機能も強化できることからクラウドPBXへの移行方針を固めた。「ビデオ会議で活用していて信頼感があったうえ、検証で通話品質が一番優れていたことからZoom Phoneを採用しました」(大丸松坂屋百貨店 本社 業務本部 業務改革部部長 佐藤隆氏)
大丸松坂屋では、店舗ごとの1台のPBXの下に約600ショップ、1000台規模の固定電話がつながっていた。まず札幌店で先行してZoom Phoneに移行を進め、雛形を作った。
導入後、現場から好評を博したのがチャット機能だ。それまで「大雪に備え閉店時間を早めます」といった通達事項は、紙や朝会での口頭伝達、緊急の場合は担当者がショップを回って伝えていたが、「Zoom Phoneのグループチャットでリアルタイムに一気に伝えられるようになり、非常に便利になりました」(佐藤氏)
また百貨店では、代表電話への問い合わせを電話交換が受け付け、いったん担当ショップも含めた三者通話で確認した後につなぐといった複雑な機能も求められるが、Zoom Phoneではそれも実現できる。ちょっとした設定変更や留守電設定も、その都度ベンダーに依頼して高額な費用を払うことなく、自分たちで対応可能だ。
2025年度を目標に全店舗で移行を完了させ、その暁には、店舗単位での電話交換だけでなく全国の店舗をまたぎ、さらに在宅のオペレーターを介した電話交換に取り組む方針だ。電話交換の完全AI化による新しい接客も実現していきたいという。
Zoom Experience Dayの会場には12社のパートナー企業がブースを構え、専用ハードウェアにはじまり、他のコラボレーションツールと連携したソリューションや構築支援サービスなどを紹介した。
またZoomのブースでは、基調講演で触れたAI Companion、Zoom Phoneを中心に、働き方がどう変わっていくかをデモンストレーションと共に紹介し、多くの来場者で賑わっていた。
百聞は一見にしかずと言われる通り、こうした展示を通して「未来の働き方」を目の当たりにし、体験できる一日となった。
<お問い合わせ先>
ZVC JAPAN株式会社(Zoom)
マーケティング部
E-mail:japan-marketing@zoom.us
URL:https://explore.zoom.us/ja/contactsales/