今や我々の生活に不可欠な社会基盤となったインターネット。COVID-19の感染拡大による社会変化の中でも、その存在意義は増すばかりだ。例えば、オンライン教育の基盤としてインターネットは子どもたちの学びを支え、テレワークによる企業活動の継続にも貢献している。
しかし、世界を見渡せばまだ30億もの人々がインターネットにアクセスできない、あるいは接続が困難な状況にある。これを解決することは、人類に課せられた大きな使命だ。
さらに今後はIoTやAIの普及、VRやAR、超高精細映像の活用などが広がることで、ネットワークにつながるデバイス数と通信量は爆発的に増加する。そうした世界を支えるインターネットには、現状と比べても圧倒的に高い性能と機能、効率性が求められよう。
シスコシステムズ 執行役員 サービスプロバイダー アーキテクチャ事業担当の高橋敦氏
「この現状をどう変えるのか。あらゆる人、あらゆるモノをすべてつなげて情報格差やデジタルデバイドを解消することに、当社の開発陣は真剣に取り組んでいる」
そう話すのは、シスコシステムズの執行役員でサービスプロバイダー アーキテクチャ事業を担当する高橋敦氏だ。そして、この開発の方向性を示したのが、2019年末に同社が発表した技術戦略「Internet for the Future」である。
インターネットの経済性を再定義する
Internet for the Futureにおいてシスコがフォーカスしているのは、通信事業者/サービスプロバイダー(以下、SP)の経済合理性だ。
SPが置かれた状況は、年々厳しさを増している。年率35%と驚異的なペースで増加する通信トラフィックをさばくためには、ネットワークインフラの性能・機能向上が不可欠だが、それをCAPEX(初期投資)とOPEX(運用コスト)を抑えながら実現しなければならない。特に、CAPEXの5倍とも言われるOPEXの削減は喫緊の課題だ。
従来のアーキテクチャのままでは、それはなし得ない。インターネットの経済性を再定義しなければならない――。
OPEX高騰の主要因であるネットワークの複雑性を排除するために、シスコが訴えているのが、ネットワークアーキテクチャの刷新である。
インターネット エコノミクスの再定義を目指す
ネットワークの複雑性は、旧来アーキテクチャの「階層構造」に根ざしている。現在のネットワークはIPルーティング、オプティカル・トランスポート、オプティカル(ROADMなど)の3階層で構成され、それらを運用する組織ともどもサイロ化されている。高速・大容量化と俊敏性をさらに追求していこうとする今、「このバラバラのモデルが経済的に存続していけるかは疑問」(高橋氏)だ。
Internet for the Futureの最大の目的は、IPネットワークと光ネットワークの統合によってこの階層構造から脱却し、ネットワークをシンプル化することにある。同時に運用を自動化することで、究極的に洗練されたインターネットを実現しようとしている。