今こそ考える「GNSSに頼らない時刻同期」 エンドからモバイルコアまで高精度に

私たちの生活を支える社会インフラの多くは、高精度な時刻同期によって成り立っている。しかも、その安定運用・安全管理、品質の担保のために、求められる精度は年々高まっている。

代表例が、ミリ秒単位以下で自動売買を繰り返す高頻度取引(HFT)だ。この領域では、AIや深層学習の活用が進んでおり、その演算処理能力に対応する高精度な時刻同期が不可欠だ。欧州連合(EU)が2018年1月に施行した新規制「MiFIDⅡ」は、少なくともマイクロ秒の精度を要求しており、米国で証券会社の行動を監視・規制するFINRAもマイクロ秒の精度を求めている。

日本も例外とは言えない。東陽テクニカ 情報通信システムソリューション部部長の徳道宏昭氏は、「国内やアジアでも今後、同様の規制が設けられる可能性がある」と予想。同部係長の松﨑紀比古氏も、「各トランザクションの時間は年々短くなり、その前後関係の管理が難しくなっている。しかも、取引はインターネットを使えば世界の至る所で可能。取引の正当性、透明性のためには規則が不可欠だ」と続ける。

防衛システムも同様だ。例えば安全な場所でミサイルを撃ち落とすには、正確で高精度な時刻同期が必須になる。

そして今後、「最も時刻同期がホットになる分野」(徳道氏)が5Gネットワークである。そこで求められるのは、100ナノ秒(ns)以下という極めて高い精度。このレベルの同期が運用できなければ、5Gの特徴であるリアルタイム性、低遅延が損なわれることになる。

東陽テクニカ 情報通信システムソリューション部 部長の徳道宏昭氏(右)と、係長の松﨑紀比古氏
東陽テクニカ 情報通信システムソリューション部 部長の徳道宏昭氏(右)と、係長の松﨑紀比古氏

「GNSSは安全」は神話に過ぎない 脆弱性対策が必要な3つの理由どのようにして正確な時刻を得れば良いのか。現在、一般的な方法として採用されているのがGNSSだ。GNSSは、米国のGPSや露GLONASS、EUのGalileo、日本の準天頂衛星(QZSS)等を使った衛星測位システムの総称。その安全性に疑いを持つ人は少ないが、徳道氏によれば「脆弱性がある」。GNSSの信頼性は「神話に過ぎない」とする理由は次の通りだ。

第1に、GNSS衛星の高度は約2万kmであるため、地表には微弱な信号しか届かず、ジャミング(電波妨害)に弱い。第2に、GNSS信号はカーナビなど民間サービスで利用できるようにするため暗号化されていない。「なりすまし攻撃や時刻情報の改ざんが容易にできてしまう」のだ。加えて、民間が利用できる衛星が限られることもあって、GNSS専用アンテナが衛星を捕捉できない時間帯が存在する。

第3の理由は、アンテナ設置の困難さだ。「設置場所の確保や工事の手間、費用負担が大きい」と松﨑氏。散雷等の外的障害要因の影響も受けやすく、信号が受信できなくなるリスクを排除できない。こうしたリスクが放置されているうえ、「GNSSの脆弱性をついた攻撃は年々増えている。高精度な時刻同期が必要なシステムにおいては、対策は不可欠だ」(徳道氏)。

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