2024年1月、固定電話のIP網への移行に伴い、INSネット「ディジタル通信モード」もサービスを終了する。
INSネットは主に、EB(エレクトロニックバンキング)やFB(ファームバンキング)など、企業と金融機関の間で行われるオンライン決済業務に使われている。これは、全国銀行協会(以下、全銀協)が、企業が金融機関と接続するための標準プロトコルである全銀ベーシック手順およびTCP/IP手順の中でISDNや固定電話を適用回線としたことから広く普及し、今なお多くの企業がINSネットで利用している。現在、全銀協では全銀プロトコル(TCP/IP手順・広域IP網)などの代替手段への移行を推進しており、企業も金融機関との取引方法を変更する必要がある。
閉域IP網で伝送時間が94%削減 企業間通信にも利用可能全銀プロトコル(TCP/IP手順・広域IP網)に対応した後継サービスを紹介する前に、EB/FBサービスについて簡単におさらいしておこう。
EB/FBサービスには、①ブラウザを利用するインターネットバンキング、②企業の基幹システムと連携し、複数の取引を一括して自動処理するコンピュータバンキング、③専用ソフトウェアをPCにインストールして取引を行うパソコンバンキングの3種類がある。
このうちコンピュータバンキングとパソコンバンキングの回線にINSネットが使われており、IP化以降は既存の決済手段が影響を受けることになる。
このため新たなサービスへの移行が不可欠だが、コンピュータバンキングの後継サービスとなるのが、NTTデータの「AnserDATAPORT」だ。
図表 AnserDATAPORTの接続イメージ(画像クリックで拡大)
AnserDATAPORTは、企業から金融機関へのファイル伝送の際、INSネット/固定電話の代わりにNTTデータの閉域IP網「Connecure」を用いることで、情報漏えいなどのリスクを軽減し、セキュアな取引を実現する。
閉域網を利用するメリットは安全性だけではない。
INSネット/固定電話は大規模災害時にトラフィックが集中し、優先電話以外は繋がりにくくなるが、IP-VPNは常時接続となり、 INSネットや固定電話に比べて通信が利用できる可能性が高まる。
また、INSネットの通信速度が最大64kbpsであるのに対し、Connecureは最大1Mbpsと約15倍の差がある。実際の伝送実績では約30万件のデータを5分かからず送信しており、INSネットを使う場合と比較して伝送時間が94%も削減される。
保険会社やカード会社では、コンピュータバンキングにより口座振替のデータを伝送している。「引き落とし日は、数百の回線が午前9時から午後5時までつなぎっ放しの状態。AnserDATAPORTに替えるだけで、伝送時間が大幅に短縮されます」とNTTデータ 第四金融事業本部 e-ビジネス事業部 e-ビジネス営業統括部 e-ビジネス商品企画営業担当 課長の篠原伸彦氏は話す。
AnserDATAPORTは、企業だけでなく自治体も利用することが可能だ。
地方自治体の多くが、インターネットから切り離された行政専用の閉域網LGWANを採用している。
NTTデータでは、自治体向けLGWAN-ASPサービス「pufure(パフュール)」に金融機関向けのファイル伝送機能を追加しており、LGWANに接続したPCであれば、ブラウザ経由でAnserDATAPORTをセキュアな環境で利用することができる。AnserDATAPORTは2022年3月で都市銀行や地方銀行、第二地方銀行など合わせて約80の金融機関でシステム対応完了、2023年3月には約140の金融機関が取り扱いを開始する予定。対応金融機関一覧はホームページ(https://www.adp.ne.jp/)に順次掲載される。
ところで、INSネットは企業間の電子商取引にも用いられているが、IP化への対策が遅れている業界が少なくない。「移行後も1つの回線で金融機関以外にも接続したいというニーズが多く、Connecureを企業間で接続可能としてほしいという要望を多くいただいています」(篠原氏)。
そこでNTTデータは「AnserDATA PORT+C」として、Connecureを使って企業間通信を行えるサービスを新たに提供することとした。
金融機関へ接続するために敷設したConnecureを利用してセキュアなファイル伝送を実現できるため回線コストや回線維持にかかる負荷も削減される。