LoRaWANは「大きく育てる」 農業や大型商業施設で導入

「海外とは攻め方を変えたことで、国内でLoRaWANが新たな広がりを見せている」。こう話すのは、セムテック・ジャパンの田中健仁社長だ。

半導体メーカー米セムテックが開発した無線の周波数変調方式「LoRa」を採用し、非営利の標準化団体「LoRa Alliance」で仕様が策定されたLoRaWANは、世界180カ国で展開されており、海外では電気やガス、水道のスマートメーターで高いシェアを占める。

セムテック・ジャパンは当初、国内でもスマートメーターでの普及を目指してきた。しかし、日本発の無線通信技術で大手電力会社がHEMS機器との接続インターフェース(Bルート)に採用しているWi-SUNをはじめ、SigfoxやLTE-Mなど、国内にはスマートメーター向けのLPWA規格が多い。「LoRaWANは数ある選択肢の1つにすぎず、思うように導入が進まなかった」(田中社長)という。

セムテック・ジャパン 田中健仁社長(左)、セムテック・ジャパン 技術担当課長 高根澤貴之氏

セムテック・ジャパン 田中健仁社長(左)、セムテック・ジャパン 技術担当課長 高根澤貴之氏

そうした中で最近、新たな導入事例が出始めている。

例えば、ある大型商業施設では、店内のCO2濃度や空調の管理にLoRaWANを採用。現在は全国に約1万ある店舗に順次導入されている。

LoRaWANは、コンクリートの壁に囲まれた屋内では通信が不安定になりがちだが、導入と並行して行われた実証実験では約200×500mの広い店内にゲートウェイを2台設置するだけで、フロアの隅々までCO2濃度などのデータを取得することができた。また、LoRaWANはノイズに強く、例えば万引き防止用RFIDタグの影響を受けないことも実証されたという。

「生鮮食品売り場の温湿度管理などにもセンシングの対象を広げていきたい。将来的には、系列のコンビニエンスストアや同業他社への横展開も期待できる」と田中社長は語る。

センサーデバイスの海外展開も

今回、採用の決め手の1つとなったのが、エナジーハーベスティング(環境発電)デバイスだ。

電機技術商社の立花電子ソリューションズが展開する「RICOH EH 環境センサーD201」で、リコーが開発した太陽電池モジュール「RICOH EHDSSC5284」を搭載し、室内光のような弱い光でも発電・蓄電を行える。電池の交換作業が不要で、CO2濃度や温湿度、照度を測定することが可能だ。

RICOH EH 環境センサーD201

「RICOH EH 環境センサーD201」は太陽電池モジュールを搭載し、室内光でも発電・蓄電を行える

LoRaWANのシステムは、センサーデバイスとゲートウェイ、ネットワークサーバー、アプリケーションサーバーなどで構成される。海外ではLoRaWANのSIerがエコシステムをまとめているが、日本にはそうした中心的なSIerがいない。しかし「LoRaWANを導入してもらうには、センサーデバイスからアプリケーションサーバーまで、さらには見える化のためのダッシュボードも組み合わせて、すぐに始められる状態で提供することが必要。そこで我々が“橋渡し”役となり、各パートを得意とする企業とチームを組んでいる」とセムテック・ジャパン 技術担当課長の高根澤貴之氏は説明する。その過程でD201のような優れたセンサーデバイスと出会え、実導入につながっているという。

こうしたパートナー連携の一環として、セムテック・ジャパンは、立花電子ソリューションズや日本ガイシ、テラスエナジー(旧SBエナジー)とともに、エナジーハーベスティングデバイス「BMF-IoT Tracker(LR1110)」を開発中だ。まだ試作段階だが、104×72×6mmと小型かつ薄型を特徴とする。身に着けたり持ち歩いても邪魔にならないことから、介護施設などにおける見守りでの活用を想定している。

BMF-IoT Tracker(LR1110)

「BMF-IoT Tracker(LR1110)」は、104×72×6mmとコンパクトかつ薄型を特徴とする

「日本はセンサー大国とも言われ、海外では探すことのできない希少なセンサー技術を持っている」と高根澤氏。エナジーハーベスティングデバイスは海外にほとんどないことから、LoRaWANを導入している国に展開することも検討している。デバイスメーカーにとっては、国内だけで販売するよりも販路が広がり、より多くの売上が見込めるという。

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