「DXにおいては、業務効率化といった短期的な目的にフォーカスするケースも多かったが、中長期的な企業価値向上を目指すとなると、投資家からも環境への配慮や社会貢献が要求される。そのため以前から上場企業を中心にESG経営が行われてきたが、サステナビリティ情報の開示義務が強化されるなか、達成度を定量的に第三者へ示す必要性が高まっている。そこで、デジタルを活用してサステナビリティや脱炭素を推進するSX/GXが注目を集めている」
SX(サステナビリティトランスフォーメーション)やGX(グリーントランスフォーメーション)への関心が高まっている背景をこう解説するのは、富士キメラ総研の井手啓太氏だ。
今年8月、富士キメラ総研は調査レポート「2023SX/GXによって実現するサステナビリティ/ESG支援関連市場の現状と将来展望」を発行した。これによると、2023年度のSX/GX関連ITソリューションの国内市場規模は、前年度比21.9%増の3255億円(図表1)。高成長は続き、2030年度には8498億円に到達する。
図表1 SX/GX関連のITソリューションの国内市場
一体どんなSX/GX関連ソリューションが伸びているのだろうか。
井手氏がまず挙げるのは、温室効果ガス(GHG)排出量算定支援/可視化ツールだ。必要なデータをツールにしたがって入力していくと、自社のGHG排出量を計算してダッシュボード上に可視化してくれる。IoTセンサーと連携できるツールも少なくない。
政府は、2050年までにGHG排出ゼロを目指す「カーボンニュートラル宣言」を2020年10月に行った。これを受けて、東証プライム上場企業では、気候関連情報の開示が実質義務化された。
「自社がGHGをどれくらい排出しているのか。開示義務に対応するには、今まで計測できていなかった部分も含めて定量的に算出する必要がある。自社の排出量だけではなく、Scope3にあたるサプライチェーン全体の排出量の開示強化も進んでおり、排出量の算出にはデジタルの活用が欠かせなくなっている」という。
東証プライム上場企業以外でも開示の動きは広がっていることから、算出支援/可視化ツール(クラウドサービス)の累計導入社数は、2023年度に1万7000社と前年度比78.9%増、2030年度には25万社へ達する勢いだという(図表2)。
図表2 GHG排出量算定⽀援/可視化ツール(クラウドサービス)の国内市場
ただ、排出量の可視化は、カーボンニュートラル実現に向けての第一歩に過ぎない。実際に排出量を削減していくためには、各種規制や認証制度に対応しながら、自社の削減ロードマップを定め、それを達成するための施策を策定・実行していくことが必要だ。
これらを独力ですべて行える企業は少ないことから、「需要が非常に大きい」のが“伴走者”として脱炭素を支援するコンサルティングサービスである。2023年度の市場規模は500億円。算出支援/可視化ツールの29億円のおよそ17倍である。さらに2030年度には1300億円規模へと成長する見通しで、すでに大手コンサルや大手SIer、脱炭素系スタートアップなど、多くのプレイヤーがしのぎを削っている。
富士キメラ総研では、ESGの頭文字であるEnvironment/Social/Governanceに沿って、SX/GX関連市場を「環境系」「社会系」「ガバナンス系/ESG横断系」の大きく3つのカテゴリーに分類している。
井手氏は環境系の注目市場として、AI/IoTを活用した空調制御、電子契約ツール等のペーパーレス化、需要予測や発注自動化等による食品ロス削減も挙げる。「国内の低い食料自給率を考えると、食品ロス削減ソリューションは、廃棄時に発生するGHGの削減だけにとどまらず、日本の持続可能性にとって重要だと考えている」