インターネットトラフィックの増加は止まらない。令和6年度版情報通信白書によれば、2023年11月時点で日本の固定系ブロードバンド契約者の総ダウンロードトラフィックは34.5Tbpsと、前年同月と比較し18.1%増えた。
このトラフィックの多くを占めるのが動画配信だ。動画の視聴品質(QoE)を保つことは、動画配信サービス事業者などのコンテンツブロバイダー(CP)と、ISPなどのネットワーク事業者の双方にとって大きな課題だ。
動画をはじめとするコンテンツをインターネット上で流通させるにあたり、CDN(コンテンツデリバリーネットワーク)の活用は今や不可欠になっている。CDN事業者はCPのコンテンツをキャッシュサーバーに複製(キャッシュ)する。エンドユーザーに最も近いキャッシュサーバーから配信することで、効率的な処理を行うというのがCDNの基本的な仕組みだ。
しかし、ISP、特に地方の中小事業者の場合、ユーザーからの動画コンテンツ視聴の要求に応えようとしても、近くにキャッシュサーバーがなく、大都市圏のキャッシュサーバーからコンテンツを取得することも少なくない。そうしたISPにとって、このネットワークコストが重荷になる。
こうした問題を解決しようとする取り組みがオープンキャッシング(Open Caching)だ。
オープンキャッシングは、米国を中心に活動する動画配信事業者の業界団体・Streaming Video Technology Alliance(SVTA)が標準化を行う、ISPとCDN事業者の新しい形の協力モデル。仕様はインターネットの技術標準であるRFCを基に策定され、ドキュメントが公開されている。現在、SVTAの仕様に準拠した運用に必要となる対応するハード・ソフトを、米国のQwilt社が開発・サービス化している。
国内でCDNを展開するJストリーム プラットフォーム本部 エンジニアリング推進室 兼 プロダクト企画部アーキテクトの髙見澤信弘氏は、「これまでのキャッシュサーバーはCDN事業者が判断し設置場所を決めていたが、オープンキャッシングではコスト削減や視聴品質改善を目的とするISPが自らの判断で置けるのが大きなポイント」と話す。
オープンキャッシングの基本的な仕組みを図表1に示す。
オリジンコンテンツは、2階層のキャッシュサーバーを介して配信される。1層めはShieldと呼び、地域ISPやCATV事業者が多く存在する日本においては、主にインターネットエクスチェンジ(IX)に設置される。そして、2層めをEdgeと呼び、ISP内に設置され、エンドユーザーが直接アクセスする。この2つのサーバーをSVTAではOCN(Open Caching Node)と総称している。
これらのキャッシュサーバーのトポロジーや正常性を、OCC(Open Caching Controller)が常時監視している。例えばあるEdgeがダウンした場合、OCCが事前の設定に基づき他のEdgeや上位のShieldからコンテンツを配信するように制御する。
このコントロールの容易さもオープンキャッシングの特徴の1つだ。基本的にはQwilt社のオペレーターが遠隔で各ノードの保守を行うが、コンテンツを保有するCP、ノードを設置するISPにはダッシュボードが提供され、トラフィックの状況を確認することができる。
米国が先行している取り組みだが、国内では2023年にJストリーム、IX事業者としてJPIX、ISPとしてケーブルテレビ(栃木)らの各社が参画し実証実験を実施。QoEやトラブル発生時の切り分けやすさなどの面において、その有効性が確認されたという。