AIは今や単なる仕事のサポートを超えて、人の代わりに動き始めている。そんな「AIを使いこなせる人が勝利する」時代だからこそ、AIと共に働くための従業員教育が問われている。
では、その教育体制はどのような現状にあるのか。
ガートナーが2026年4月に日本企業を対象に実施した調査によれば、従業員向けデジタル・スキル教育を主管しているのはIT部門が49.3%で最も多く、人事部門が45.2%、DX推進部門が29.8%と続いた(n=363)。
注目すべきは、IT部門以外の存在感が増している点だ。ガートナージャパン ディレクター アナリストの針生恵理氏によれば、これはスキル教育の位置付けが変わったことの表れだという。単なる「テクノロジーの使い方」から「人材キャリアやビジネス変革の中核」へと変化しつつある。

同時に、必要とされるスキルも変わった。首位はセキュリティ(71.1%)のままで長年変わらないものの、急速に順位を上げたのが生成AI活用(60.3%)、生成AIの利用ルール(55.4%)、データ活用・データ分析(43.8%)だ。いずれも単純な操作研修では身に付かず、よりビジネスに近い場所での研修が求められる。
問題は成果である。デジタル・スキル教育に積極的に取り組んでいる企業は62.3%に上る一方、自社の教育に満足していない従業員は55.1%と半数を超えた。
満足している層と不満を抱く層の差はどこにあるのか。満足している側は、学ぶ機会や環境の提供(64.9%)、研修方法が適切(48.6%)、仕事に役立つ内容(41.9%)を理由に挙げる。対する不満側の1位は、本業務が忙しくて時間が取れない(58.0%)。以下、評価に十分反映されていない(35.0%)、上司・経営層の理解や支援が不足している(34.5%)が続く。
図表1 デジタル・スキル教育の満足/不満足の理由

この「時間が取れない」という理由の背景には「評価に反映されない」「仕事に生かす機会がない」という構造的問題があると針生氏は指摘した。この構造を断たない限り、同じ課題が繰り返される。実際、一般従業員の育成がDX戦略に貢献したと答えた企業は6.6%にとどまり、半数超は基礎的なツール活用や特定部署内での活用に閉じている(n=412)。
では、成果の出る教育とは何か。
針生氏が前提に据えるのは、アジャイル・ラーニングの「7-2-1」という原則だ。学習の成果は、公式の学習が10%、コーチングやコミュニティなど関係に基づく学習が20%、現場でスキルを実践する経験に基づく学習が70%で構成されるという考え方である。
ところが、デジタル・スキル教育の実態は逆立ちしている(図表2)。
図表2 アジャイル・ラーニングの原則「7-2-1」と、企業が実施している施策の実態

企業が実施している施策の上位に並ぶのは、生成AI/デジタル活用事例の共有(42.0%)、外部プラットフォームのE-Learning(41.5%)、自社独自コンテンツのE-Learning(40.8%)、集合型研修(40.3%)だ。10%に当たるはずの公式の学習が上位を占める一方、70%を担うOJT/プロジェクト型学習は27.7%、伴走型支援は19.2%と低い。
これらを踏まえて針生氏は、生成AIが定着しない理由を次の5つに整理した。「実践の場がない」「仕事が中断する」「スキルが多様化している」「個人の取り組みを組織的な力へ変換できない」、そして「管理職の理解がない」だ。その対策として同氏は、(1)実践の仕組み、(2)パーソナライズ、(3)仕事へのインパクトの3つを解に据える。