
――旅行事業を手掛けるHISグループでは、「通信事業」をどのように位置づけていますか。
猪腰 2018年2月に、MVNO事業を手掛ける新会社「H.I.S.Mobile」(以下、HISモバイル)を設立しました。
当時はスマートフォンが海外旅行でも必需品となりつつある過渡期で、日本から海外へ渡航する旅行者向けに、格安SIMをはじめとする多角的な通信サービスを提供していきたいという思いから、HISモバイルを立ち上げました。旅行と通信には深いつながりがあります。
また近年は、通信を含めた“非旅行事業”にも力をいれており、旅行業と非旅行業の売上構成比を1:1にすることを目指しています。
――HISモバイルのビジネス状況について教えてください。
猪腰 HISモバイルが最初に市場へ投入したサービスの1つが、「変なSIM」でした。現在は提供していないのですが、SIMカードに専用のシールを貼るだけで、世界150カ国・地域で1日200MBを500円(非課税)で利用できる点を特徴として、サービスを打ち出しました。
HISブランドの認知度があれば、ある程度の顧客を獲得できると考えていましたが、サービス初日の利用者数はわずか100人に留まり、思い描いていた成果は得られませんでした。その後はコロナも重なり、状況はさらに厳しくなりました。
ただコロナ明け後は、日本から海外へ渡航する旅行者からの需要が一定数ありました。その後も、日本人旅行者には、従来から需要のあったWi-Fiレンタルサービスを展開し、訪日外国人向けにはプリペイドSIMカードの販売を拡大していきました。こうした取り組みにより、現在は経営黒字を継続できています。
――昨年9月には、新料金プラン「自由自在2.0プラン」の提供を開始されました。契約者数はどう推移していますか。
猪腰 自由自在2.0プランの契約者数は着実に増え続けており、これまで一度も前年を下回ることなく伸長しています。料金は100MB未満で月額280円、3GBで月額770円(いずれも税込)と非常にリーズナブルな価格帯で提供しています。価格に敏感な方々を中心に支持を集めており、この料金体系が契約者数増加の最大の要因だと分析しています。
ただ、ユーザーの“安さ”に対する反応が以前ほど強くなくなったこともあり、成長率は落ち着いてきました。今後は、新たな施策を打ち出す必要があると考えています。
――具体的には、どんな施策を検討されているのですか。
猪腰 現状では、価格の安さを前面に押し出していますが、今後はHISグループのリソースを活用し、HISモバイルならではの特典をさらに充実させていきたいです。例えば、HISの旅行商品やホテルをお得に利用できるサービスを提供するなど、HISグループとの連携をより一層強めていきます。
――コンシューマー向けMVNO市場には、JALやメルカリなど、異業種参入が相次いでいます。こうした動きをどう見ていますか。
猪腰 JALやメルカリは、競合他社からシェアを奪うというよりも、自社顧客に向けたサービスを充実させていきたいという考えを持っていると理解しています。そのため、我々への直接的な影響は特に感じていません。むしろMVNO市場が盛り上がり、お客様に「まだ安いプランの選択肢がある」と認識していただくことで、MVNO市場の拡大につながると考えています。