鉄道事業者は、列車運行の監視・制御や災害対策のために、線路沿いに光ファイバー網を整備してきた。
この光ファイバー網には未使用の心線が一定数存在する。ここ数年、各社はこれを貸し出すビジネスを強化している。
鉄道事業者による光ファイバー心線貸し出しは、2000年前後に始まった。関東では東京メトロや東急、関西では近鉄や阪神が先行し、JR東日本も2007年に提供を開始している。ただ、当時は通信事業者各社が自社網の整備を急いでおり、鉄道系光ファイバーを利用する動きは限定的だった。
しかし、コロナ禍以降の通信トラフィック急増や、AIの急速な発展により状況は変化。通信事業者やデータセンター事業者で高品質なネットワークへのニーズが強まり、鉄道事業者はこれに光ファイバー心線貸し出しで応えようとしている。
“鉄道ならでは”の光ファイバーの強みは、主に3つある(図表1)。
図表1 鉄道事業者が貸し出す光ファイバー心線の特徴

まず、品質の高さだ。鉄道の線路は高速運転を前提に、地形の制約を受けつつも極力直線的に設計されている。これに沿って敷設された光ファイバーは、駅間を最短距離で結んでおり、一般的な道路ルートと比較し曲がり角や分岐も少なく、直線距離に対する伝送損失が小さい。
次に高い安定性である。通信事業者の光ファイバーは経路が浅い地下管路や、架空線を多く含むのに対し、鉄道系の光ファイバーはトンネルや専用管路内に収容され、引き込み部分を除けば露出空間が極めて少ない。このため、自然災害の影響を受けにくく、道路工事による切断事故が起こる恐れもほぼない。鉄道工事は緻密に計画されているため、突然のケーブル断が生じることは稀だ。
そして信頼性とセキュリティの高さだ。光ファイバーは鉄道設備の一部として、監視体制が24時間365日稼働している。万一の際に迅速かつ安全に作業するノウハウも豊富だ。鉄道敷地内は立ち入りが厳しく制限され、物理的セキュリティの水準も高い。