「日本の信頼性という価値をAIで再現するため、『信頼できるAI』を創る官民投資を力強く推進していく」。今年2月に開催されたインド政府主催の「AIインパクト・サミット」にて、高市早苗首相はこのようなビデオメッセージを寄せた。日本がAIを国家戦略の柱と位置づけ、その取り組みを加速させていく姿勢を示した発言だ。
こうした方針のもと、日本政府が具体的な施策の1つとして掲げるのが、「ソブリンAI」の構築である。ソブリンAIとは、端的に言えば「主権(ソブリン)を確保したAI」を指す。つまり、国家や企業が自国・自社のデータと技術基盤を活用し、海外事業者への依存を最小限に抑えながら、AIを自律的に開発・運用する能力のことだ。
なお、ソブリンAIは国産LLM(大規模言語モデル)そのものを指す概念ではなく、あくまで国産LLMは構成要素の1つに過ぎない。データ基盤や計算資源、運用体制なども含めた広い概念として捉えられている。
ソブリンAIに注目が集まる背景には、いくつかの要因がある(図表1)。その1つが、データ主権・安全保障の確保である。海外事業者への依存が進むと、機密情報が国外へ流出するおそれがあるからだ。国際情勢の変化でサービス提供が停止し、経済活動に影響が及ぶ可能性も否定できない。

また、文化・社会的適合性の確立という観点も欠かせない。大和総研 経済調査部 主任研究員の田邉美穂氏は、「米国発のAIモデルでは、学習データの多くは英語が中心であるため、生成結果にも欧米の価値観が反映されやすい。今後は、日本の文化や価値観、言語観を理解したAIモデルの開発が求められる」と話す。


技術的自律性の確保やデジタル赤字の解消も重要な論点の1つだ。野村総合研究所(NRI) AXイノベーションセンター IT基盤技術戦略室 チーフリサーチャーの藤吉栄二氏は、米国のクラウド事業者への依存に加え、中国でもDeepSeekやQwenといったAIモデルが台頭している状況に言及。「デジタル赤字が続く日本において、ソブリンAIが産業として成功するかは不透明だが、経済安全保障の強化や技術力の確保という観点から、その取り組みは不可欠だ」と語る。
世界に目を向けると、米中ベンダーへの依存からの脱却を図るべく、ソブリンAIを国策として明確に打ち出している国が増加傾向にある(図表2)。

カナダは2024年12月、AI戦略「Canadian Sovereign AI Compute Strategy」を策定し、今後5年間で総額20億カナダドル(約2280億円)を投じる計画だ。内訳は、公共セクター向けスーパーコンピューティングインフラの構築に10億カナダドル(約1140億円)、AIデータセンター(DC)の新設・拡張を後押しする「AI Compute Challenge」に7億カナダドル(約800億円)、中小企業がGPUなどの計算リソースを活用できるよう支援する「AI Compute Access Fund」に3億カナダドル(約340億円)が充てられる。
英国も2025年1月にAI戦略「AI Opportunities Action Plan」を発表。政府・公共部門のデータを横断的に利活用できるようにするデータ基盤構想「National Data Library」を打ち出したほか、AI-DC特区「AI Growth Zones」の創設や、ソブリンAI戦略を企画・実行するための政府ユニット「Sovereign AI Unit」を新設する。