我が国では、電力や上下水道、鉄道、道路、ガス、通信などのインフラ維持が社会課題となりつつある。労働人口が減少するなか、インフラの安全性・健全性を保つためには、設備点検や工事におけるドローン・ロボットの活用、デジタルツインやIoT、AIなどを用いた自動化・省力化・効率化が欠かせない。
こうした新技術を活用したシステムの多くは、安定した通信の利用が前提条件となっている。図表1に示すように、現在の電気事業では、光ファイバーやマイクロ波固定無線などを活用し、発電や流通(送電・配電・変電)におけるデータ収集や制御を行っているほか、電力設備の運用・保全、電気回路や電力系統における異常・事故(短絡・地絡など)の検出・保護などのために通信が使われている。
図表1 電力安定供給を支えている通信

また、太陽光発電などの再エネ設備を需要家の近くに配置する「分散型電源」の普及が進みつつあるが、これらを効率的に運用するためには、設備の遠隔監視・制御が不可欠であり、蓄電池や電力負荷との協調も求められる。発電と消費のバランスを常に維持しなければならない電力供給には通信が不可欠であり、電力と通信の相互依存は加速的に進んでいる。
今後は電力供給の安定化に向けて、AIを用いた予測・制御、デジタルツインによる電力網のシミュレーション、ドローンやロボットを活用した設備点検・監視なども本格化すると想定される。しかし、各システムが必要とするネットワークの帯域や許容遅延、信頼性などは、システムごとに大きく異なる。
こうした背景から、これらのユースケースを支える高信頼な通信が欠かせない。また、多様な通信を柔軟かつ効率的に追加・統合できる拡張性のあるネットワーク基盤が必要になるだろう。
電力中央研究所では、2040年頃の電力インフラを支える高信頼な通信ネットワークの実現を目指し、「TOWER LINK構想」(Transmission towerbased Optical and Wireless Extremely Reliable Link)を立案して、全国の電力会社や大学、メーカーとともに、その実現に向けた研究開発を進めている。
TOWER LINKでは、既設の送電鉄塔に敷設されているOPGWと呼ばれる光ファイバーケーブル(送電線を雷から保護するために設置されている避雷用アース線(架空地線)の内部に、光ファイバーを収容したもの)に、APN(オールフォトニクス・ネットワーク)をはじめとするオール光ネットワークを適用することを想定している(図表2)。
図表2 TOWER LINK構想の概要

APNは、NTTが中心となって実用化を進めている「IOWN構想」の中核技術の1つであり、光波長パスを用いることで、ルーティングを電気信号に変換せずに光信号のまま行えるため、消費電力や遅延の低減につながる。
また、送電鉄塔には数十Gbpsのスループットで数kmの無線通信が可能なミリ波・テラヘルツ波のアンテナを取り付けることで、見通しのある鉄塔間で無線通信を行う。さらに、NTN(非地上系ネットワーク)を利用し、上空の通信経路を利用することも想定している。
つまり、TOWER LINK構想は、既存の送電鉄塔や光ファイバーに対して、①オール光ネットワーク(APN)、②広帯域無線、③NTNを適用することで、より高い信頼性を実現するネットワーク構想である。図表3に、TOWER LINK構想において重要な上記3つの通信技術の特徴を示す。
図表3 TOWER LINKで用いる通信技術
