交通信号の制御に活用

VLCCが2008～09年度に実証実験を行い、実用性を確認したのが「可視光通信を利用した交通信号制御回線集約化」だ。現在、交通管制センターの中央機器と各交差点の交通信号機は、アナログもしくはデジタル専用線を用いて1対1で接続されている。このため、回線コストが嵩み、その削減が課題となっている。

近年、LEDを用いた交通信号機が普及していることから、日本交通管理技術協会からの依頼を受け、これを活用した可視光通信システムを開発した。具体的には、複数交差点のデータを1本の専用線で特定の交通信号機にまとめて伝送し、周辺交差点のデータは、信号機による可視光通信で伝送する（図表）。通信距離は300mだ。これにより、専用線のコストを大幅に削減できる。

図表　可視光通信による交通信号制御回線集約化

可視光で長距離通信を行う取り組みもある。VLCCが海上保安庁の海上保安試験研究センターから依頼され08年度から実験中の「灯台可視光通信」だ。現在、防波堤にある中型灯台の67割、灯浮標のほぼ全部がLED化されていることから、灯台や灯浮標からの光をイメージセンサーで受信し、港湾状況や海上交通情報、気象情報など船舶の航行安全に関する情報等を提供することを目指している。実験では1海里（1.852km）以上の通信を目標とし、千葉県の九十九里浜の海岸で2kmで1kbpsの通信に成功。現在も実用化に向けた技術検討、実証実験を重ねている。

車椅子の患者を自動誘導

今後、可視光通信ならではの用途として重要なキーワードになりそうなのが「位置情報」だ。

まず、中川研究所の「光ゲート式動線調査システム」が挙げられる。スーパーマーケットの店内などに番号を割り振った光ゲートを設置し、受信機を付けた買い物カートをお客に利用してもらえば、どの商品売り場を回ったのか、どこでどれだけ立ち止まったのかという動線情報を得ることができる。すでにスーパーマーケットチェーンのOlympicの協力を得て実証実験を行っている。

09年度の総務省プロジェクトとして、NEC、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科、中川研究所が共同で取り組んだのが可視光通信を利用したロボットの誘導技術だ。約2m離れた天井のLED光源をキャッチし、ロボットが自身の位置を1cmの精度で理解できるため、屋内でも思い通りの場所に正確に誘導できる（写真）。

LED照明の天井（左）とロボット。ロボットには光センサーとイメージセンサーが搭載され、可視光の光源の位置情報を基に自分の位置を把握している

屋内での位置情報取得はGPS利用が困難なため、無線LANを用いる取り組みも進んでいる。だが春山教授は「精度が課題で、数m程度の誤差がある」と指摘する。このため、高精度が要求される用途では可視光通信の存在感が増す。例えば、車椅子にシステムを取り付ければ、病院内で患者を自動的に診療室などに誘導可能といったように、これまで不可能だったことが実現できる。

さらに慶應義塾大と中川研究所は、三井住友建設と共同で可視光通信と写真測量技術を組み合わせて建築、土木などでの測量に適用した「可視光通信3次元位置計測システム」を開発している。LEDを光源として測量ポイントに設置し、2カ所からデジタルカメラで連続撮影することで、複数の点の3次元座標を一括かつ短時間で測量する。春山教授によれは「100m先の測量物に対して誤差5mmくらいの高精度で計測できる」という。同システムは「市販のデジタルカメラやPCで構成できるため安価」「夜間の無人自動測量が可能」等の特徴も有しているため、三井住友建設がすでに実用化している。

このように、可視光通信はまず、「高精度」をセールスポイントに位置情報ソリューションから普及を始め、電波の利用が難しい用途など、さまざまなシーンへの利用が進みそうだ。