<連載>AI運用のリアルソフトバンクのネットワーク運用変革 独自開発した“通信業界向けAI”を本格活用

ソフトバンクが通信業界向けAIモデル「Large Telecom Model(LTM)」を開発し、ネットワーク運用の高度化に取り組んでいる。現在は人を介した運用が前提となるが、通信品質の予測等でLTMを活用している。

基地局の増設や設備増強など、通信品質向上に向けた継続的な取り組みは、通信事業者にとっての使命であり、競争力の源泉でもある。生成AIの普及に伴い、GPUなどの計算資源やAIデータセンター、エッジコンピューティングなど、通信事業者の投資対象も一段と広がりつつある。

こうした成長投資を継続するためには、サービス品質を維持しながら、いかにコストを抑えるかが課題となる。そこで国内外の通信事業者は、AIを活用したネットワーク運用の自動化・効率化を推進している。

ソフトバンクも、AIを用いてネットワーク運用の高度化を進める1社で、昨年3月には通信業界向けAIモデル「Large Telecom Model(LTM)」を開発した。「ソフトバンクのエキスパートが行ってきた業務をLTMが代替し、運用効率化や省人化、OPEX(事業運営費)削減を目指している」とNWシステム開発本部 LTM AI開発室室長の稲葉宏輝氏は語る。

(左から)ソフトバンク NWシステム開発本部 LTM AI開発室 室長 稲葉宏輝氏、同社 同部 無線システム統括部 オペレーションシステム部 部長 傳田聡氏

(左から)ソフトバンク NWシステム開発本部 LTM AI開発室 室長 稲葉宏輝氏、
同社 同部 無線システム統括部 オペレーションシステム部 部長 傳田聡氏

LTMの特徴は?

LTMは、ソフトバンク子会社のSBIntuitionsが開発した「Sarashina」をはじめとする大規模言語モデル(LLM)をベースに、通信業界の専門知識を追加学習させている。

学習データには、基地局の位置やアンテナ角度、使用周波数帯といった設定情報のほか、電波強度やスループット等のパフォーマンス指標など、ソフトバンクが保有する各種データを活用(図表1)。また、ユースケースごとにファインチューニングを実施することで、各業務の要件に応じた判断・応答が行えるよう、AIモデルを最適化しているという。

図表1 Large Telecom Modelの概要

図表1 Large Telecom Modelの概要

これまでソフトバンクでは、用途ごとに個別のAIモデルを構築し、それぞれの業務に関係するデータのみを学習させて運用するのが一般的だったという。ただ稲葉氏によると、こうしたモデルは特定業務においては高い性能を発揮する「頭の良いモデルだが、学習データに大きく依存してしまうため、与えられたデータの範囲を越えた判断が難しかった」。

そこでLTMでは、実運用データやシミュレーションデータなど、あらゆる通信関連のデータを横断的に学習させた基盤モデルを構築し、そのうえで個別タスクごとにファインチューニングを行っている(図表2)。これにより、「多様な経験を積んだエキスパートのように、周辺知識も踏まえて判断できるようになる」(同氏)。

図表2 一般的な手法とLarge Telecom Modelの考え方の違い

図表2 一般的な手法とLarge Telecom Modelの考え方の違い

ソフトバンクでは、AIとRAN(無線アクセスネットワーク)の処理基盤を統合し、RANの運用効率化や省電力化、さらにはAIを活用した新たなビジネス創出を目指す「AI-RAN」を推進している。その取り組みの1つが、AIによってRANの性能向上を図る「AI for RAN」だが、これとLTMは両輪を成すものだ。

AI-RANの具体例としては、AIを用いたMassive MIMOのビームフォーミング最適化などが挙げられる。同じ設備でより多くのトラフィックを収容可能になり、AI for RANはOPEXとCAPEX(設備投資)抑制の両方に寄与する。対してLTMは、ネットワーク運用や保守業務の自動化・効率化を通じて、サービス品質の向上とOPEXの削減を目指す取り組みとなる。

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