建屋間を移動する自動搬送車が部品を運び、入庫後はAGV/AMRに引き渡し、ロボットアームによる自動組立、手作業工程、AIによる外観検査を経て、また自動搬送車で次の建屋へ――。

工場で日々繰り返されるこの工程は様々な機器・ソフトウェアで構成され、有線ネットワークあるいはWi-Fiでデータをやり取りすることで実現されている。自動搬送車とAGV/AMRを除けば、大半はイーサネットケーブルで接続されており、生産ラインの組み換えが発生するたび、その配線に多大な時間とコストが費やされている。

「これをすべて無線化できたら」というのは、多くの工場が抱く夢だ。だが、Wi-Fiでは電波干渉が頻発し、安定性に懸念が残る。

そこで期待されるのが、免許周波数帯を用いるローカル5Gだ。NTT東日本は2023年5月24日、製造業向け製品・システムを提供するパートナー各社と共同で、工場内をローカル5Gでオール無線化するソリューションの実証実験を開始することを発表した。

NTT東日本ブースでは、ローカル5G通信機能を搭載した自動搬送車を展示

ワイヤレスジャパン×WTP 2023のNTT東日本ブースでは、この実証の一部を再現したデモが披露されている。

Industry Alpah製のAMRとブレインズテクノロジーのAI検品システムを、NTT東日本が提供するローカル5Gサービス「ギガらく5G」に収容。自動搬送車で届けられた部品をAMRが自動搬送し、AI検品システムでチェックした後、AMRが出庫エリアへと自動搬送する一連の流れを再現した。

ギガらく5Gを活用した製造・物流工程の無線化イメージ

数百万の損失が出る“チョコ停”を失くせ！

工場では、工作機械や自動搬送ロボット等の不具合により、生産工程がストップするトラブル“チョコ停”が頻発する。

その損害額は大きく、文字通りちょこっと止まっただけで数百万が失われることも珍しくないという。Wi-Fiで工場ネットワークを無線化した場合、電波干渉によってこのチョコ停が頻発することが懸念される。

対して、ローカル5Gは電波干渉の発生リスクが非常に小さい。Wi-Fiと比べて導入・運用コストこそ高いものの、NTT東日本の説明員によれば、その安定性に期待を寄せる製造業は多い。「生産ラインの組み換えに伴う配線コストがなくなること、チョコ停による損害が増える心配がなくなることを考えれば、ローカル5Gの導入コストはすぐに回収できる」との声が寄せられているという。

Industry Alpah製のAMR。対象物に合わせて高さを調整、コンテナの出し入れも自動で行う

NTT東日本ブースで行われたデモでも、AMR、AI検品システムともにスムーズに仕事を完了していた。AMRには、今回の実証・デモに合わせて、Sub6帯で無線通信するローカル5Gモデムを組み込んだ。

また、製造・物流ライン上の各機器類を連動させ、一元的に管理する製造実行ソフトウェアもNTT東日本が開発。各工程を連動させるためのフローを、ローコードツール「Node-RED」を用いて直感的に作成できるようにすることで、生産ラインの組み換えを容易にする工夫も施している。

ローカル5Gでプッシュ・トゥ・トークが可能。左は国内空港等で使われている専用端末。右はローカル5Gスマホ

NTT東日本ブースには、このほかにもローカル5Gを活用したソリューションが目白押しだ。港湾やプラント、空港といった広大な敷地・施設をカバーする「広域LANソリューション」や、プッシュ・トゥ・トークができるローカル5G端末（上写真）、バスの自動運転など、様々な産業をスマート化するための取り組みが紹介されている。