<連載>欧州ICTレポートスタートアップの国エストニア

エストニアというと何を想像しますでしょうか。ネットで検索すると、中世の街並みが残る「おとぎの国」のような美しさと、行政手続きが100%オンラインで完結するなど高度な電子政府・IT環境が共存する国と紹介されています。私も当地を訪れて同じような印象を持ちました。

中世からの美しい街並みと観光の現状

街並みはガイドブック等で紹介されているように、石畳の路地や赤い屋根の家並み等小規模であるが綺麗で、観光客にとってフォトジェニックなスポットが多く、2017年には10万人を超える日本人観光客がありました(エストニア統計局調べ)。コロナの影響やロシア上空の飛行制限により一時的に渡航者数は減少しましたが、2024年には前年から33%増、2025年にはさらに45%増の約3万人弱と回復基調にあります。これに伴い、日本でのエストニアの認知度も徐々に高まっていると感じます。

電子国家「e-Estonia」の歩みと成果

一方、エストニアの真骨頂は、国を挙げて推進してきた電子政府「e-Estonia」の存在です。1991年、ソ連から再独立したエストニアは、インフラも行政システムもゼロからのスタートでした。そこで、限られた人的資源と財政を最大限に活用すべく、ITを活用した行政サービスの電子化に着手しました。2002年からは電子IDカードを国民に義務付け、住民票や税務、健康保険などあらゆる行政手続きがオンライン上で可能となりました。2024年12月には、全ての行政サービスが100%オンラインで完結する体制を実現しています。これにより、市民は役所に足を運ぶことなく、また市民・行政両者が煩雑な書類手続きから解放されています。さらに2005年には、世界で初めて国政選挙のインターネット投票を導入し、投票率の向上や選挙管理の効率化に成功しています。こうした先進的な取り組みは、人口約137万人という小規模な国だからこそ可能となった面もありますが、ITを活用した国づくりの先駆者として世界から注目されています。

起業家精神とスタートアップの躍進

さらに、起業家精神の旺盛な国としても知られています。人口あたりのユニコーン企業数は欧州最多であり、SkypeやWISE、Boltといったグローバルに成功したユニコーン企業を輩出しています。ユニコーン企業とは、創業10年以内で評価額10億ドル以上の非上場ベンチャー企業を指し、世界で現在約1300社が存在しますが、日本の6社(2026年2月時点)と比べて、人口約1%のエストニアが10社も擁しているのは注目に値します。スタートアップ支援も国策として強力に推進されており、2014年に世界初のe-Residency(電子居住権)制度を導入しました。これにより、国外の起業家がエストニアに居住せずとも法人を設立可能で、現在までに4万社以上がこの制度を利用して会社を設立しています(日本からは約480社)。また、2017年からはEU域外の優秀な人材を呼び込むためのスタートアップ・ビザを創設し、2023年には成長企業向けのスケールアップ・ビザも設けて人材確保に努めています。税制面でも革新的で、利益を内部留保すれば法人税は0%、配当時のみ22%が課税される制度を採用。企業は利益を再投資しやすく、持続的な成長が促進されています。

再独立35周年を迎えたエストニア

今年、エストニアは再独立35周年を迎えました。何もないところから国づくりを始めた自らのスタートアップの経験が、デジタル化や起業支援といった政策に強い意志と実行力を与え、国としてスタートアップの精神が醸成されている源なのではないかと思います。

※本稿は、筆者の個人的見解であり、所属組織の見解を示すものではない。

月刊テレコミュニケーション 2026年5月号の記事を再構成]

五十嵐徹(いがらし・とおる)

在エストニア日本大使館一等書記官。1999 年、郵政省(現総務省)に入省、2025 年6月から現職

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