携帯電話をはじめさまざまな機器間で無線通信を行う近距離無線通信技術「NFC(Near Field Communication)」に対する関心が高まっている。
2010年11月、米グーグルのエリック・シュミットCEO(当時)が「Web2.0サミット」でNFCに対応した自社のスマートフォン「Nexus S」を披露、NFCタグの読み取りを実演してみせたことで、「beforeシュミット、afterシュミットと言われるほど、世界中の携帯電話業界が注目するようになった」(業界関係者)という。
グーグルでは、Androidの最新OSバージョン2.3でNFCを標準サポートしている。世界のスマートフォン市場でAndroidは今や30%以上を占めるだけに、NFCの普及が加速すると見る向きは多い。
対する米アップルも昨年、「NFCの専門家を採用した」と一部のメディアで報じられた。2011年以降に発売されるiPhoneの新機種にNFCを搭載する予定とされており、次期モデルの「iPhone 5」にNFCが搭載されるかどうかが話題になっている。さらに、RIMは「2011年中にBlackBerryの多くの機器に搭載する」方針を明らかにしているほか、ノキアは2011年下期以降に発売するスマートフォンをNFC対応とする予定だ。
ここにきて、主要なスマートフォンにNFCが搭載されるようになったことで、国内でもNFCに対する関心が一気に高まっている。先日も、NTTドコモが夏モデルとして発売するサムスン電子製の「GALAXY S II」が海外版ではNFC対応となっていることから、日本版にもNFCが搭載されるのではないかとの期待が一部にはあった(今回は非搭載)。
非接触ICカード技術「FeliCa」が普及し、携帯電話を「おサイフケータイ」として決済や交通系に利用できる日本では、NFCによって何ができるようになり、どのような変化が起きるのかわかりづらい。
FeliCaとの大きな違いは、(1)カードエミュレーション機能だけでなく、Peer to Peer機能やリーダ/ライタ機能を備えている、(2)国際標準規格に制定されていること、の2点だ(コラム記事参照)。日本以外ではシンガポールや香港など一部の国で採用され、機能も限定的なFeliCaと比べてビジネスの広がりが期待されるため、国内の携帯キャリア各社はNFCの商用化に向けた実証実験を進めるとともに、対応端末の開発や標準化への貢献などに取り組んでいる。
日本の携帯キャリアのNFCに向けた取り組みと今後の市場展望、課題について見ていこう。
【コラム】 国際標準規格NFCとは? | ||
NFCとは、Near Field Communicationの略称であり、13.56MHz帯の周波数を使った近距離無線通信規格をいう。 NXPセミコンダクターズが開発した非接触ICカード通信規格「Mifare」(TypeAに準拠)やソニーが開発元である「FeliCa」が中心となって規格化を進めた技術で、2003年12月にISO/IEC18092(NFCIP-1)として国際標準規格に制定され、05年1月には拡張規格であるNFCIP-2がISO/IEC21481として国際標準規格に制定された。これにより、通信部分でTypeA/B、FeliCaを含む。 通信距離は、不正に読み取られることを防止する目的から最大10cm程度で、非接触ICカードのように「かざす」ことで、データをやり取りする。 NFCには、(1)「Peer to Peer」、(2)「リーダ/ライタ」、(3)「カードエミュレーション」という3つの機能がある(図表1)。
NFC対応機器間で無線通信を行うPeer to Peerは、通信速度が数百kbpsとやや低速となるため、アドレスデータの交換や画像のやり取りなど小容量データの送受信での用途が想定されている。 リーダ/ライタ機能としては、他のセキュア・エレメント(SE)上のデータをNFC対応端末で読み書きして情報やクーポンを取得する。電子マネーの残高確認や、携帯電話を店頭の決済用端末で利用することも検討されている。 カードエミュレーション機能は、おサイフケータイと同様に電子マネーやクレジットカード、乗車券などとして使う機能をいう。海外ではVisaやMasterCardがクレジット決済の実証実験を行っているほか、ニューヨークやロンドンなどの大都市では交通乗車券としての実証実験も実施されている。 |