次世代ワイヤレス技術の実用化ロードマップとインパクト[第1回]【コグニティブ無線】電波利用のムダなくす、ホワイトスペース活用のコア技術

2020年までに200倍以上になるとの予想もあるモバイルデータ通信のトラフィック量。急増するこのトラフィックにいかに対処していくかはモバイルの今後にとって最重要課題の1つだが、その切り札と目されているのが「コグニティブ無線」である。

2010年代の電波産業、とりわけブロードバンドモバイル分野の展開を考えるとき、大きな問題となるのが周波数の逼迫だ。

高速化と定額料金の普及を背景に、モバイルデータ通信のトラフィックは今、急速な伸びを見せている。総務省の電波政策懇談会でも「2020年までにトラフィックは200倍以上になる」という指摘がなされた。

電波需要が増大するなか、まとまった帯域を確保するのは容易ではないが、この問題を打開する有力手段として注目を集めているのがコグニティブ無線である。

まず負荷分散用途で導入

コグニティブ無線は、端末や基地局が無線環境を「認識」し、利用する通信システムや周波数を動的に切り替えることで、周波数の有効利用を可能にする技術だ。

現在、(1)既存の複数の通信システムを状況に応じて切り替えて利用する「ヘテロジニアス型」と、(2)既存の無線システムに割り当てられている周波数を別の無線システムで活用する「周波数共用型」の2つのシステムの実用化が進められている。

このうち、比較的早期に日本で普及が始まるとみられるのが、(1)のヘテロジニアス型である。情報通信研究機構(NICT)が1997年から開発に取り組んでおり、現在NICTを中心にNTTドコモ、KDDI、ソフトバンクが参加する総務省の委託研究プロジェクトが進行中だ。

コグニティブ無線の標準化はIEEE1900で進められているが、2009年2月にヘテロジニアス型の基本仕様IEEE1900.4が策定された。IEEE1900の議長を務めるNICTユビキタスモバイルグループグループリーダーの原田博司氏が「寄与文書の50%以上は我々の提案」と話すように、技術開発を日本がリードする分野でもある。

ヘテロジニアス型の基本的な仕組みは、無線LANや3G、WiMAXなどの複数通信方式に対応できる端末で、利用可能な通信システムそれぞれの受信電界強度、スループット、パケット損失などのパラメーターを測定(Sensing)し、これらを事前に設定された条件と照合して、最適なネットワークを選択するというものだ。加えてネットワーク上に設置したデータベースの情報を照会することで精度の高い判断を行う運用形態も想定されている。

図表1は、無線LAN、3G、WiMAXのネットワークを別の事業者が運用している場合を想定したもの。各データベースが連携することで、どのネットワークに接続していても端末は同じ情報を得られる。同一事業者が3つのネットワークを運用している場合は、データベースは1つで済む。

図表1 ヘテロジニアス型のサービスイメージ
コグニティブ無線「ヘテロジニアス型」のサービスイメージ

原田氏はこの技術の利点を「負荷分散により、スループットの向上と周波数利用効率の改善が図れること。これを活用することで新たな周波数の獲得やインフラ投資を抑制できる可能性がある」と説明する。

すでに、商用導入の動きも出てきている。公衆無線LANサービスを手掛け、今年7月にMVNOとしてWiMAX事業にも参入したトリプレットゲートは、同技術を用いた「コグニティブ・モバイルルーター」をNICTと共同開発、2009年12月に投入する。

NICTが試作したIEEE1900.4対応のモバイルルーターのソフトウェアを利用して開発されているもので、WAN側に3G、WiMAX、公衆無線LANの3種類の端末を接続することで、ルーターがこれらの中から通信状態のよいネットワークを自働的に選択する。これにより異種ネットワーク間でのシームレスハンドオーバーを実現、同時に3GやWiMAXのトラフィックの一部を公衆無線LANに分散させることも可能になる。

この他にもMVNOの日本通信やWiMAXとCDMA2000の共通運用を目指すKDDIなどが、同様の機能をデータ通信端末に実装していくとみられる。

もちろん、この技術はまだ開発途上。端末やデータベースの機能分担や測定パラメーターの拡大などの技術課題がクリアされれば、さらに活用領域は広がる。最終的には、スロット単位で空き帯域を埋め、周波数利用効率を大幅に向上させるシステムの登場も期待されている。

月刊テレコミュニケーション2009年8月号から転載(記事の内容は雑誌掲載当時のもので、現在では異なる場合があります)

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