携帯4社の次世代インフラ戦略を読み解く[第10回]ソフトバンクのLTE戦略(中編)――iPhone/iPadの動向が2GHz帯の導入システムを左右

前編ではソフトバンクの次世代インフラ導入計画が流動的な理由を解説したが、この中編では(1)700/900MHz帯の取得、(2)2GHz帯へのLTE導入という2つのファクターを除外したうえで、同社のインフラ整備の「基本プラン」を見ていく。この2つをひとまず考慮の外におくと、次世代インフラ計画の骨格が非常にシンプルに浮かび上がるからだ。

[2010年~]1.5GHz帯へのHSPA導入

2009年に総務省が公表した資料には、ソフトバンクが次世代システムとして1.5GHz帯にHSPAの発展システムとなるDC-HSDPAを導入する計画が記されている。これは、(1)まず新規割り当ての1.5GHz帯10MHz幅に、現行のW-CDMA/HSPAを導入して当座のトラフィック対策に利用、(2)さらにこれを下り最大42Mbpsの高速データ通信が実現できるDC-HSDPAに進化させるという2つのステップを踏むものだ。

ソフトバンクは同社の主力帯域である2GHz帯に20MHz幅の割り当てを受けており、2GHz帯でW-CDMA/HSPAの搬送波(5MHz幅)を最大4波まで運用できる。しかしソフトバンクの加入者はすでに2200万を超えているうえ、iPhone/iPadユーザーの増加に伴うデータトラフィックの急伸も加わり、都心部では輻輳の発生も懸念されている。そこで、ソフトバンクは1.5GHz帯に新たに割り当てられた10MHz幅をまずはW-CDMA/HSPAの5波目、6波目として利用、ネットワークの容量拡大を図ろうとしているのである。

ソフトバンクは、2010年春モデルの「943SH」「941P」の2機種を皮切りに2GHz/1.5GHz帯対応のデュアルバンド端末の拡充を進めており、これら端末を普及させることで2GHz帯の混雑緩和を図る考えだ。これは、1.5GHz帯へのLTE導入が浮上する以前からソフトバンクが検討してきた「既定プラン」である。

ソフトバンクの1.5GHz帯へのW-CDMA/HSPAの導入は2009年12月、まず首都圏(神奈川県、茨城県)に4局を設置して始まった。さらに2010年3月、東名阪以外のエリアで1.5GHz帯を使ってソフトバンクが提供していたPDCサービスが終了。4月以降、全国で基地局の増設を本格化させている。

同社は1.5GHz帯へのW-CDMA/HSPAの導入を、可能な限り既存のPDC基地局のアンテナやケーブルなどをそのまま流用し、基地局装置のみを最新の小型軽量タイプ(主力はノキアシーメンスネットワークスの「Flexi」)に交換する形で進める考えだという。機器の購入費用を抑制できるだけでなく、高所での作業が不要になり、工事費も抑えられるからだ。

2009年に明かされたこの1.5GH帯活用プランに加えて、ソフトバンクは2010年3月に「電波改善宣言」と題して、大規模な基地局増設計画を打ち出している。

電波改善宣言
ソフトバンクモバイルの電波改善宣言のページ(http://mb.softbank.jp/mb/special/network/pc/

これは、2010年3月末現在で約6万とする基地局数を2011年度3月末までに12万(いずれも屋内基地局を含む)に倍増させようという計画である。上記の1.5GHz帯PDC基地局のHSPAへの転用と、ソフトバンクが支援を決めたウィルコムのPHS基地局16万局の一部の3Gへの転用や3Gとの共用化、屋内基地局の増設などで実現するという。

ソフトバンクは、2010年4月に開いた決算説明会で、「有利子負債の償却が完了する2014年まで大規模な設備投資を行わない」とする前年度決算時の方針を転換、2010年度の設備投資を過去最高の4000億円(固定系を含む、前年度比約1800億円増)とすることを明らかにしている。PHSの基地局ロケーションの利用が可能になったことに加え、2009年度の営業利益が過去最高の4658億円(前年度比130%)となるなど収益の改善が進んだことから積極策に転じた。

PHS基地局から転用、あるいは併設するのは、2GHz帯の基地局だと考えられる。(1)2GHz帯には、iPhone/iPadを含むソフトバンクの全端末が対応している、(2)アンテナ長がPHSと同等で基地局の改修が容易であるという2つの理由からだ。

12万局への倍増計画が実現すれば、同社のインフラは少なくとも基地局の「数」のうえではドコモと肩を並べる。これに加えてフェムトセルやWi-Fiスポットを家庭・店舗などに展開することで、iPhone/iPadユーザーの拡大に耐えられる大容量インフラを実現する考えだ。

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