スマートシティと聞くと電気・ガス等の「エネルギー管理」を思い浮かべる人が多いかもしれない。エネルギー消費を街全体で効率化するエコな都市――と。実際、スマートシティプロジェクトの多くは環境問題の解決を主要テーマとしてきており、日本では特にその傾向が強かった。
だが、最近はスマートシティの取り組みの幅が格段に広がっている。エネルギーだけでなく、交通や防犯・防災、医療などの様々なインフラにIoTを適用し、街の運営の効率化や住民向けサービスの質向上を実現しようとする試みが始まっている。
それはまさしく、街・都市運営のデジタルトランスフォーメーションと言える。街で起こっているコトを可視化することで街の課題を把握し、リアルタイムな対処を可能にするのだ。
国内外で多くのスマートシティプロジェクトを手がけるNECで未来都市づくり推進本部マネージャーを務める村田仁氏は、「街で何が起こっているかが分かれば、今まで見えていなかった本当の課題がわかる。行政はより適正な施策が行えるようになり、また、その施策がうまくいっているかも理解できる」と話す。“IoT時代のスマートシティ”は都市の運営、つまり我々の暮らしを大きく変える可能性があるのだ。
(左から)NEC 未来都市づくり推進本部マネージャーの山中淳史氏と村田仁氏、
グローバル事業開発本部 部長の冨依豊氏
<海外の先進事例>中小都市にも広がる欧州スマートシティ化で先行しているのは欧州だ。
2000年にプロジェクトが始まった、スマートシティの草分けであるスペイン・バルセロナ市は、IoTを活用した住民サービスにも注力している。
ゴミ箱の満空状態をセンサーで検知して回収作業の効率を高める「スマートガベージ」や、通行量を測定するセンサーと連動して街灯の明るさをリモート制御する「スマートライティング」などだ。市民生活をより快適にしつつ、ゴミ収集の経費や電気代の削減を実現している。
また、駐車場の空き状況を可視化して来訪者に情報を提供する「スマートパーキング」は、渋滞緩和や観光客の増加、市の駐車場収入の増加につながっている。バス停では、デジタルサイネージにバスの運行情報や行政情報を配信。これらサービスを提供するための共通インフラとして同市はWi-Fiを用いており、IoTプラットフォームにデータを集約して分析・処理、制御を行っている。
IoTを都市開発に活かしている例もある。
2015年に「インテリジェントで持続可能な都市への転換」を目指すスマートシティ政策を発表したフランスのパリ市では、Wi-Fi/Bluetooth電波の利用状況やカメラ映像の解析によって動線分析を行ったり、ノイズセンサーによる騒音の分析、環境センサーによる大気成分や温湿度の分析を行うことで、再開発計画策定のためのデータを収集している。
こうした大都市のみならず、近年は中小規模の都市、そしてアジア等の新興国にも広がっている。
スペイン北部の観光都市サンタンデールは、市内に1万2000個ものセンサーを設置して街の見える化を行っている。人口は20万人弱ながら、その設置数は欧州最大級だ。NECが提供するIoTプラットフォームにデータを集約し、スマートパーキングやスマートガベージ等のサービスを運用。公共機関における水道利用量の管理も行っている。
同市がユニークなのは、こうしたデータをすべて公開している点だ。「行政や民間がオープンデータとして利用することが可能で、市民もスマートフォンなどで見ることができる。“目安箱”のように意見を投稿できる機能も用意しており、まちづくりに市民の活動を取り込もうとしている」(村田氏)のだ。
一方、中国やインド等の経済発展が目覚ましい都市では、急激な人口増により交通渋滞や環境汚染等の問題が噴出しており、解決策としてスマートシティ化が進められている。
その中で注目されるのが、スマートシティの通信インフラとしてLPWA(Low Power Wide Area)を採用する動きだ。
インドでは2016年に通信事業者のタタ・コミュニケーションズとヒューレット・パッカード・エンタープライズが共同でLoRaWANによるネットワーク構築を開始。同国東部の工業都市ジャムシェードプルでは、電力や水道、廃棄物管理、パーキング、防犯カメラなど15種類の都市インフラの統合管理を行う計画が進んでいる。
中国の例では、人口130万人の江西省鷹潭市がある。ここは中国電信、中国聯通、中国移動の三大キャリアが初めてNB-IoTでフルカバーした都市だ。スマートメーターやパーキング、街灯、レンタサイクル、ゴミ箱など18事例が商用稼働しており、これを支援したファーウェイの発表によれば、2017年末時点で総接続数は10万に達しているという。