日本中の建機の集中操作も夢ではない――KDDI、大林組、NECが5G活用した遠隔操縦の公開実験

「5Gを活用することで、常設の遠隔操作拠点を設け、全国の建機を集中制御できる可能性が出てきた」――危険作業や苦渋作業の改善や人手不足の解消を狙い、建機の遠隔制御の技術開発を進める大林組は、5Gに強い期待を寄せる。実験では、5Gと4K画質の3Dモニターを活用することで、無線LANを使う従来システムに比べ15~25%の作業効率の改善が図れたという。

KDDIと大林組、NECは、国内では初となる5Gと4K画質の3Dモニターを活用して建設機械を遠隔操作する実証実験を2018年2月1日~14日に大林組東京機械工場(埼玉県川越市)で実施。2月15日、実験内容を報道関係者に公開した。

5Gを活用した建機の遠隔操縦実証実験のイメージ
5Gを活用した建機の遠隔操縦実証実験のイメージ

災害復旧などに代表される危険作業では、映像を用いてオペレーターが離れた場所から建機を遠隔操作する無人運転が求められる。大林組は、建機やその周囲に取り付けたカメラの映像を無線LAN経由で2K/1.2Kディスプレイに映し出し、建機を遠隔操作するシステムをすでに実用化している。

しかし、このシステムでは遠近感が掴みにくく、遅延も大きいなどの制約があり、「オペレーターが重機に搭乗して操作する場合と比べ、施工効率が6割程度に低下してしまう」(大林組 技術研究所 上級主席技師の古屋弘氏)問題があるという。また、無線LANを用いる場合、送信出力の制約などから、中継機を使っても作業現場から2km以内に遠隔操作室を設ける必要があることも、運用上の課題となっている。

今回の実験では、高速・大容量通信が可能な5Gを利用することで高精細な3D映像の伝送を実現。立体視を可能にするなど情報提供量の増大させることでオペレーターの負荷を軽減し、遠隔操作の作業効率を従来に比べ15~25%改善できたという。

さらに、「無線LANに代えて、無限大に距離を伸ばせる5Gを用いることで、常設の遠隔操縦拠点を作り、日本全国の建機を集中制御できる可能性が出てきた」と古屋氏は述べた。

実験では、重機に搭載された4Kカメラ2台、2K画質の全天球カメラ1台と俯瞰カメラ、作業現場近くに組んだ足場上の俯瞰カメラ1台の計5台のカメラの映像を、重機上の5G端末から400素子の平面アンテナを介して、28GHz帯の5G無線で約70m先に設置された遠隔操作室側の基地局に伝送。

遠隔操作室では、重機上の4Kカメラ2台から送られてくるステレオ映像を、3Dメガネをかけなくても裸眼で立体視できる4K対応の3Dモニターに映し出し、奥行きをより正確に捉えられるようにすることで、作業効率の大幅な改善を実現した。28GHz帯の伝送には、NECが開発したフルデジタル制御方式5G基地局が用いられている。

遠隔操作室から、裸眼で立体視が可能な4K画質の3Dモニターや、全天球カメラ、俯瞰カメラの映像で現場の状況を確認して建機の操作を行える
遠隔操作室から、裸眼で立体視が可能な4K画質の3Dモニターや、全天球カメラ、俯瞰カメラの映像で現場の状況を確認して建機の操作を行える。奥で説明を行っているのが、大林組 技術研究所 上級主席技師の古屋弘氏
遠隔操作中の建設機械、運転席には遠隔操作装置「サロゲート」が搭載されており無人で運用できる
遠隔操作中の建設機械、運転席には遠隔操作装置「サロゲート」が搭載されており無人で運用できる

5台のカメラから送られる映像データ量は計200Mbps。実験では米ベライゾンが固定通信サービスに用いている独自仕様の5G規格を用い、300MHz幅の搬送波で1Gbps超の伝送路を設定し、200Mbpsで安定した通信を実現した。

KDDI モバイル技術本部 シニアディレクターの松永彰氏は、「映像データは上りリンクで送られることになるが、4Gの上りの伝送能力は商用ベースで数十Mbps程度。5Gでないと対応は難しい」と説明した。

NEC ワイヤレスアクセスソリューション事業部 事業部長代理の田上勝己氏は、遠隔操縦で重要なファクターとなる遅延時間について、「無線部分の遅延は1.6ミリ秒。今後、標準の5G規格を用いることでターゲットである1ミリ秒をクリアしたい」と語った。

NECでは、建機の遠隔操作の実用化には、(1)現在100kgほどある端末の小型・軽量化、(2)マルチユーザーの同時通信、(3)広帯域化、(4)移動する建機を追尾して送受信を行う無線ビーム制御などの技術開発が必要になると見ているという。

実証実験で建機に搭載された5G端末装置(中央)。無線LANや小電力無線装置(右上)も実験に用いられている
実証実験で建機に搭載された5G端末装置(中央)。無線LANや小電力無線装置(右上)も実験に用いられている

大林組の古屋氏は、エンド・ツー・エンドの遅延時間について、「今回の実験では映像を贅沢に使ったこともありコーディックに起因する遅延が500ミリ秒ほど生じている。しかし、無線LANを用いた従来システムでは1秒以上の遅れが出ているので、高精細な映像を用いたにかかわらず、遅延が半分になったのは大きなアドバンテージだ」と説明。そのうえで、「商用段階では通信事業者や機器メーカーが努力され、遅延はさらに小さくなるのではないか」と期待を寄せた。

今回の実験では、5Gは上りの映像伝送のみに用いられ、重機の遠隔操縦については従来システムと同じく、大林組が開発した遠隔操作装置「サロゲート」との間を小電力無線で結ぶ形で行われた。この装置は操縦席に後付で設置し、レバーやベダルを物理的に動かすもので、動作時は「あたかも透明人間が操縦しているように見える」(松永氏)。

有人操作にも簡単に切り替えることができ、「危険な作業は遠隔操縦で、それ以外はオペレーターが搭乗することで、効率的に作業を進めることが可能だ」(古屋氏)という。

実験では、ハサミ型のアタッチメント(フォーククロー)を装着した建機を用いて、がれきの移動や繊細な操作が必要となるコンクリートの積み上げを、有人、従来システム、今回の5G利用の実験システムを切り替えて行い、効果を測定した。

大林組では、遠隔操縦システムの実用化により、災害復旧の作業の安全性確保や苦渋作業の軽減に加え、作業員の集約による人材不足解消や作業の迅速性の向上が図れると考えている。

「5Gには2.4GHz帯のWi-Fiのようなチャネル数の制約がなく、多数の機材を同時に動かせるといった可能性もある。コストにもよるが、5Gが実用化されれば、我々はすぐにでも使いたい」と古屋氏は意欲を見せた。

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