ビジネスの明日を動かすICTトレンドApple Pay、Android Pay、おサイフケータイ…、モバイル決済の最新状況を読み解く

なぜ日本ではモバイル決済が普及しないのか? Apple Payによる決済でAppleは何を狙っているのか? AppleとGoogleの戦略は違いは? 最近改めて注目が高まるモバイル決済について徹底解説します。


FinTech(フィンテック)という言葉を耳にするようになって、どれぐらいの時間が経ったでしょうか。一時期は、「猫も杓子もフィンテック」というぐらいの盛り上がりを見せていました。

しかし、金融関係の仕事に関わっている方以外は、「フィンテックと言っても、自分にはあまり関係ないかな」と思っていた方も多いのではないでしょうか。

ただ、金融関係の仕事に携わっている方も、そうではない方も、すべての方は「消費者」という側面を持っています。

フィンテックのなかでも、すべての消費者に関係してくるであろうサービスが「モバイル決済」です。今回は、そんなモバイル決済の最新状況について見ていきましょう。

モバイル決済とは?モバイル決済には、正式な定義があるわけではありませんが、一般的には、「スマートフォンなどのモバイル端末を使って決済を行うこと、あるいは、そのようなサービス」とされています。そして、モバイル決済は、大きく2つに分けることができます。

「モバイルPOS決済」と「モバイルペイメント」です。これらは、「誰が使うか」という利用者の観点で異なっています。

まず「モバイルPOS決済」ですが、これは企業やお店など、事業者が利用するものです。顧客から支払いを受ける際、タブレットなどのモバイル端末で支払いを受け付けます。

iPadなどのタブレットに専用アプリをインストールし、POSレジ代わりにしてしまう「タブレットPOSレジ」などは、NTT東西など大手キャリアからベンチャー企業まで、多くの企業がサービスを展開して競争しています。

小規模の小売店、飲食店などでも導入しやすく、店舗ビジネスに携わる方から注目されているサービスではありますが、今回の記事では、一般の消費者向けのサービスを中心にお伝えしたいと考えていますので、以降、「モバイルPOS決済」には触れません。

そして、もう一方の「モバイルペイメント」が、一般消費者が利用するサービスとなります。つまり、スマートフォンなどを利用して支払いをするサービスの総称です。

以降、この記事では消費者向けのモバイル決済(つまり、モバイルペイメントのこと)について言及します。便宜上、「モバイル決済」と書きますが、実際には「モバイルペイメント」に絞って言及することをご承知おきください。

世界におけるモバイル決済の利用状況2017年6月、日本銀行は「モバイル決済の現状と課題http://www.boj.or.jp/research/brp/psr/psrb170620.htm/)」という調査レポートを発表しました(こちらのレポートでも、「モバイル決済=モバイルペイメント」と捉えて書かれています)。

これによると、調査時期や調査方法に多少の違いはあるものの、日本・アメリカ・ドイツのモバイル決済の利用率は、それぞれ6.0%、5.3%、2%とされています(調査時期:2016年~2014年)。

一方で、ケニアでは、2015年時点で、携帯電話加入者の約76.8%がモバイル決済を利用しているとのことです。また、中国の都市部の消費者を対象に実施された調査によると、98.3%が過去3か月間にモバイル決済を利用したとされています。

従来から金融サービスが整備されている先進国では、モバイル決済はあまり普及していない一方、金融サービスの整備が遅れている新興国などでは、広く受け入れられている状況が見えてきます。

モバイル決済のパイオニアだった日本モバイル決済の元祖と言えば、2004年に開始された、日本の「おサイフケータイ」です。

おサイフケータイはNTTドコモの登録商標でしたが、普及を目指すためにライセンスを解放し、以降、auとソフトバンクも「おサイフケータイ」の商標を使うようになりました。

また、2006年には「モバイルSuica」も開始され、当時のいわゆるガラケー(フィーチャーフォン)を改札でタッチすれば、電車に乗れるようになりました。

Suica
Suica(http://www.jreast.co.jp/suica/

ここで、おサイフケータイとモバイルSuicaの関係を説明しておきます。まず、おサイフケータイとは、FeliCaチップ(後述)を搭載した携帯電話用のデジタルウォレットという位置づけです。モバイルSuicaは、おサイフケータイの中に登録して使うIC乗車券/電子マネーとなります。現在では、nanacoモバイル、モバイルWAONなどの電子マネーも、おサイフケータイに登録して使うことができます。もちろん、各種クレジットカードにも対応しています。

欧米では、モバイル決済が本格的に登場するのは2010年代に入ってからなので、日本は圧倒的なパイオニアだったのです。

しかしながら、前述のとおり、現状はとても普及している、とは言えません。

我が国の市場規模を確認しておきましょう。我が国では、クレジットカード全体(モバイルでない、一般のカードも含みます)の年間決済金額は約50兆円。そして、少額決済中心の電子マネー(こちらも一般のカードも含めた全体)の年間決済金額は、2016年度に5兆円を超えたそうです。

この電子マネー利用者のうち、モバイル決済の利用者の割合は、どの程度なのでしょうか。

我が国では、電子マネーの規格が乱立しているので集計が難しいのですが、1つの指針として、Suicaカードの発行枚数と、モバイルSuica利用者数の数値を比較してみましょう。

2016年度時点で、Suicaカードの累計発行枚数は約6000万枚、モバイルSuica利用者数は380万人で、割合にすると6.5%程度です。

この数値を、そのまま電子マネー全体におけるモバイル決済利用者の比率と考えるのは乱暴かもしれませんが、前述の日銀調査レポートの数値(6%)と近い値になっています。そこで5兆円の6%程度だと仮定すると、我が国のモバイル決済の年間決済金額規模は、3000億円ほどと考えることができます。

一方、中国でのモバイル決済の年間金額は、報道により差があるのですが、100~300兆円といわれています。もちろん、人口の差もあるのですが、それにしても規模が違いすぎます。

なぜ、こんなにも差が付いてしまったのでしょうか。

もともと、我が国は現金決済の比率が非常に高い社会ですし、保守的な国民性ということもあるでしょう。

それに加え、我が国のモバイル決済で利用されている規格も、モバイル決済が進まない理由の1つになっている可能性があります。

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西俊明(にし・としあき)

慶應義塾大学文学部卒業。合同会社ライトサポートアンドコミュニケーション代表社員/CEO。富士通株式会社で17年間にわたり、営業、マーケティング業務に従事。2008年、経済産業大臣登録・中小企業診断士として独立し、2010年、合同会社ライトサポートアンドコミュニケーション設立。専門分野は営業・マーケティング・IT。Webマーケティングやソーシャルメディア活用のテーマを中心に、8年間で200社以上の企業や個人事業主のマーケティングのコンサルを実施、180回以上のセミナー登壇実績をもつ。著書に『あたらしいWebマーケティングの教科書』『ITパスポート最速合格術』『高度試験共通試験によくでる午前問題集』(技術評論社)、『絶対合格 応用情報技術者』(マイナビ)、『やさしい基本情報技術者問題集』『やさしい応用情報技術者問題集』(ソフトバンククリエイティブ)、『問題解決に役立つ生産管理』『問題解決に役だつ品質管理』(誠文堂新光社)などがある。

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