<特集>SDN&NFV導入後のリアル:企業ネットワーク編(1)JR東日本の「SDN導入」ビフォーアフター

鉄道業界初となったSDNの導入から3年以上――。東日本旅客鉄道(JR東日本)はSDNによって、どんな効果を獲得し、またどんな課題を乗り越えてきたのか。JR東日本の「SDN導入後」を取材した。

JR東日本は現在、ICTを活用した駅利用者向けの新サービスを拡充している。

特に先進的な取り組みが行われているのが山手線エリア内だ。公衆Wi-Fiサービスはもちろん、東京・上野・新宿・品川・池袋の5駅では、スマートフォン等からロッカーの空き情報が確認できる「Suicaロッカー空き情報検索サービス」を提供。各駅構内では、無線LANによる屋内測位で得た位置情報を使って、利用客がスマートフォンの「JR東日本アプリ」で現在位置も確認できる。

このほか、近々の導入を目指した実証実験も活発だ。例えば、駅構内において列車の運行情報をデジタルサイネージへ配信することも検討中である。

JR東日本
鉄道事業本部 電気ネットワーク部 課長 鉄道ICTソリューションプロジェクトグループリーダーの黒田岳氏(中央)と、電気ネットワーク部 鉄道ICTソリューションプロジェクトの高橋慧氏(左)、東京支社 電気部信号通信課 ネットワーク無線プロジェクト 副課長の山口正臣氏

深夜でなくてもネットワークが変えられるこうした取り組みの基盤となっているのが、JR東日本がSDNで構築した「駅構内共通ネットワーク(JRSTnet)」である。

2013年度に東京駅の京葉線エリアで最初の運用を開始した後、約2年半で山手線エリア全域へ拡大。15年10月には山手線と、中央線の山手線エリア内の全36駅にSTnetを導入した。このSTnetは、NECの「UNIVERGE PFシリーズ」で構築している。駅間も新設の光ファイバー網とPFシリーズで接続されており、各駅に共通のサービスを提供したり、各駅の状況をセンターで一括管理することも可能だ。

STnet構築の狙いについて、鉄道事業本部電気ネットワーク部・課長(鉄道ICTソリューションプロジェクトグループリーダー)の黒田岳氏は「新しいサービスをやろうとする時に共通して使えて、かつ迅速に構築・提供できるネットワークを作ろうとした」と話す。

図表1 「駅構内共通ネットワーク(STnet)」の運用・利用イメージ
「駅構内共通ネットワーク(STnet)」の運用・利用イメージ

従来は、新サービスを開発・提供する度に「インフラから整えなければならなかった」。SDN導入以前、サービス/システムごとに数十種類のネットワークがあり、「新たに構築・工事、試験するにも、列車が走っていない深夜の3時間程度しか作業ができず、工期がかかってしまう」状況だった。

そこで、高速・大容量の新ネットワーク基盤を構築し、その上で、サービスごとに仮想ネットワークを生成・運用できるようにすることで課題解決を狙ったのだ。GUI操作で簡便に「VTN(Virtual Tenant Network)」を生成して運用管理できる点が、PFシリーズ採用の決め手という。

STnetの基幹網は最大20Gbpsの容量があり、その上で各種の利用者向けサービスや社内システム、開発部門用のVTNを生成・運用している。「構成変更の度に外注する必要がなくなり、自前で設定も簡単に行えるようになった」。

新設したSTnetの運用管理も、従来のシステム/ネットワークを運用する部署で行っているが、その監視システムについては「重要なアラートとして通知する障害内容を仕分けし、アラート表示の見せ方などについて、かなりNECと議論して作り込みをした」と、東京支社・電気部信号通信課・ネットワーク無線プロジェクト副課長の山口正臣氏は話す。

月刊テレコミュニケーション2016年7月号から一部再編集のうえ転載
(記事の内容は雑誌掲載当時のもので、現在では異なる場合があります)

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