デジタル破壊時代のイノベーションは「現場」が起こす

すべての企業は今、デジタル技術による既存ビジネスの創造的破壊である「デジタル・ディスラプション」に直面している。この重大な局面をチャンスに変えるために不可欠なのが「ワークスタイル変革」。一橋大学の一條教授と日本マイクロソフトの越川氏が、デジタル破壊時代のワークスタイルについて語り合った。

――デジタル技術が私たちの生活を大きく変えていくなか、企業も「デジタル・トランスフォーメーション(デジタル変革)」を迫られています。ワークスタイルも当然、変革すべきものの1つです。

一條 デジタル技術を活用し、いかにビジネスモデルを変え、ビジネスプロセスを変え、組織・文化を変え、リーダーシップを変えていくか――。今、企業にとって最重要の経営課題といえるでしょう。

ただし、これは簡単なことではありません。むしろ相当難しい。であるからこそ、欧米では、デジタル・トランスフォーメーションよりも、次の言葉のほうがよく使われます。「デジタル・ディスラプション(デジタル破壊)」です。

私はスイスのビジネススクールであるIMDの教壇にも立っていますが、IMDは昨年、世界のビジネスリーダー約900人を対象に、デジタル・ディスラプションのインパクトに関する調査を実施しました。

これによると、世界のビジネスリーダーは平均して「各業界のトップ10企業の40%は、今後5年間のうちに“デジタル破壊”されてランク外に消える」と考えていました。UberやAirbnbなどが既存のビジネスモデルを破壊するなか、世界の経営者たちは相当な危機感を抱いていることが分かります。

一條 和生(いちじょう・かずお)氏
一條 和生(いちじょう・かずお)氏
一橋大学大学院 国際企業戦略研究科 研究科長 教授

一橋大学社会学部卒。同大学院社会学研究科修士課程修了(社会学修士)。フルブライト奨学生としてミシガン大学経営大学院に留学し、Ph.D.(経営学博士)を取得。一橋大学講師、社会学部専任講師、同助教授、同大学院教授を経て、現職。2003年には、世界屈指のビジネススクールである、スイスのIMD Business School教授としても勤務。2014年4月より、一橋大学大学院国際企業戦略研究科 研究科長に就任

越川 日本では「欧米ほど変化が急激ではない」と思われがちです。しかし実はそうではありません。私は最近、東証一部上場企業の時価総額ランキングを調べてみたのですが、国内のトップ20企業の半数以上が10年前から入れ替わっていました。大企業の影響が大きい日本ですら、こうなのです。

しかも、日本の場合、デジタル化に加えて、労働人口が今後10年間で1000万人も減少します。これから日本は、非常に大きな変化に直面するでしょう。

越川 慎司(こしかわ・しんじ)氏
越川 慎司(こしかわ・しんじ)氏
日本マイクロソフト 業務執行役員 本部長 Officeマーケティング本部

国内通信会社、米系通信会社、ITベンチャーを経て、2005年に米マイクロソフトに入社。2015年7月より現職。年間に地球を5、6周回るほどの海外渡航をこなしながら、国内では講演会にも飛び回り、時間と場所に制約されない働き方を実践する。

一條 AIの進化も、デジタル破壊の1つと捉えられます。米国では昨年の段階で、すでに10億本の記事がAIによって書かれたそうです。AIが文章も書ける、絵も描ける、料理のレシピも作れる時代に、人間のクリエイティビティ(創造性)はどうあるべきなのか。これは、本当に緊急の問題だと思います。

24時間365日すべてがコネクトされた世界において、AIも前提に、どんなワークスタイルを作り上げていくのか――。企業は、根本的に新しいワークスタイルへと変革していく必要があります。先ほど述べた通り、これは簡単なことではありませんが、実現できれば大変なチャンスになるでしょう。

なぜ、ワークスタイル変革が必要なのか?越川 なぜ、ワークスタイルを変革しなければならないのか。それはずばり「儲けるため」です。

デジタル・ディスラプションの時代を乗り越えるために必要なのはイノベーションです。しかし、顧客のニーズがこれだけ多様化し、さらに迅速に変化するなかで、イノベーションが生まれるのは研究所や工場の中だけではなく、お客様と接する現場です。

ですから、現場で働く社員に「自由と責任」を与え、いつでもどこでもイノベーションを起こせる柔軟なワークスタイルを実現すること――。それが儲けるための重要な経営戦略になると考えています。

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