ソフトバンクがウィルコムから継承する次世代PHS(XGP)事業の運用システムとして、携帯電話世界最大手の中国移動通信集団(チャイナモバイル)が推進するTD-LTEを検討していると、日本経済新聞などが4月27日に報じた。
TD-LTEは、NTTドコモが年末に商用化を計画しているLTEの「兄弟規格」。LTEは携帯電話と同様、上り(端末から基地局方向)と下り(基地局から端末方向)の通信に別の周波数を使うFDD(Frequency Division Duplex)が使われている。一方、TD-LTEはFDDではなく、時分割により単一の周波数での同時送受信を実現するTDD(Time Division Duplex)を採用する。TDDはXGPやモバイルWiMAXにも使われている技術だ。
「日本発」の通信規格であるXGPを捨て、5億を超える加入者を擁する中国移動が導入する「世界標準規格」を選択、その「数の力」でXGP事業を立ち上げようというのが、ソフトバンクの狙いである。
実は同様の動きは、世界的に広がりつつある。WiMAXの代替システムとして、TD-LTEは注目を集め始めているのだ。日本での商用化が急浮上してきたこの新システムの実力と、実用化に向けた動きを探ってみた。
LTEと同じハードで展開可能
TD-LTEは、3GPPではLTEの「TDDモード」として、「FDDモード」(一般的なLTE)と同時に3GPPリリース8で2009年春に策定されている。モードという表現が使われていることからも分かる通り、TD-LTEとLTEは基本的には同一規格であり、仕様もかなりの部分まで共通化されている。
例えば、両者の無線アクセス方式は、ともに下りがOFDMA、上りが省電力性に優れるSC-FDMAだ。また、運用帯域幅も1.4、3、5、10、15、20MHzをサポートと共通。通信プロトコルについても、TDDとFDDの違いがあるため物理レイヤとMACレイヤは異なるものの、上位レイヤは非常に似通っている。ベンダーにとって、こうした相似はLTEとTD-LTEの開発リソースを共通化できることを意味する。これが欧米の主力ベンダーの多くがTD-LTEに注力する大きな理由となっているのだ。
図表1 TD-LTEの主なスペック |
図表2 TD-LTEにおけるTDD伝送のイメージ |
携帯電話インフラ市場トップのエリクソンの日本法人で北東アジアCTOを務める藤岡雅宣氏は「端末チップや基地局装置はソフトウェアの変更でTDDにもFDDにも対応できる」と話す。実際、同社はLTEの規格がまだ検討中だった08年、FDDとTDDの双方を同一の基地局装置でサポートするデモを行っている。