クラウドビジネスの深層[最終回]大手キャリア3社のクラウド戦略の違いを見る

通信キャリアは、クラウドサービスの基盤となるネットワークとデータセンターを自前で所有する。最終回は、この強みを武器にクラウド事業を推進する通信キャリア3社、NTTコミュニケーションズ、KDDI、ソフトバンクテレコムの戦略をレポートする。

クラウドサービスは、(1)IaaS/HaaS、(2)PaaS、(3)SaaSという3つのレイヤで構成される。IaaS/HaaSはクラウドコンピューティングの基盤そのものであり、PaaSはミドルウェアを用意して企業がITを開発・運用する環境を提供する。この2つの領域は通信キャリアのクラウドサービスの核と言えるし、通信キャリア共通の強みでもある。とはいえ、ターゲットやウリとするサービス、営業体制などは各社で異なる部分がある。

そこで最終回の今回は、一般企業を対象としたIaaS/HaaSとPaaSを中心に通信キャリア各社のクラウドビジネスの「今」を取り上げるとともに、SaaS展開を含めた今後の事業戦略を見ていくことにする。

図表 通信キャリア各社のクラウドサービスの特徴的な市場とサービス範囲通信キャリア各社のクラウドサービスの特徴的な市場とサービス範囲

NTTコミュニケーションズのクラウド戦略

BizCITYというコンセプトを掲げ、クラウド事業を展開しているNTTコミュニケーションズ(NTTコム)。同社のクラウドサービスでIaaS/HaaS領域をカバーするのが「Bizホスティング」だ。顧客企業の規模別に3つのタイプを用意しており、そのなかでグローバルの文字を冠したBizホスティンググローバルは同社のクラウド事業の特徴を示している。

Bizホスティンググローバルは米国、欧州、アジア(香港とシンガポール)に設置したデータセンターを結び、1台のサーバー上に複数のサーバー機能を実現する仮想マシンの利用をサービスとして提供するもの。2010年1月に提供が開始されたばかりだが、NTTコム経営企画部サービス戦略担当の小原英治担当部長は、「マルチナショナルカンパニー向けにBizホスティンググローバルが売れている」と語る。

NTTコミュニケーションズ経営企画部サービス戦略担当担当部長の小原英治氏
NTTコミュニケーションズ経営企画部サービス戦略担当担当部長の小原英治氏

もちろん、NTTコムの眼はグローバル企業のみに向いているのではない。小規模かつ事業の変化が激しいスタートアップ企業に向くパブリッククラウドとしてBizホスティングベーシックを2010年4月から提供する。2007年12月に提供が開始されたBizホスティングエンタープライズを含め、NTTコムのクラウドサービスは大手企業から小規模企業までをカバーする。その顧客べースは稼働している仮想マシンの数にして数千台にのぼるという。

■モバイルとの融合に注目

NTTコムがBizホスティングの特徴として強調するのは安全性だ。一例がクラウド上で顧客が活用するデータのバックアップや消去などデータのセキュリティに関する状況を顧客がわかるようにするデータトレーサビリティの仕組みを提供することだ。また、VPNを介して顧客企業がITリソースを利用するバーチャルプライベートクラウドを提供していることも通信キャリアならではの特徴と言える。

注:バーチャルプライベートクラウド
プライベートクラウド(社内クラウド)は、ユーザー企業が自社所有のデータセンターのITリソースをクラウド化することで、大手企業を中心に導入意欲が高い。一方、バーチャルプライベートクラウドは、規模の経済が働くパブリッククラウド上でユーザー企業に対してITリソースの占有的な利用環境を提供する。

バーチャルプライベートクラウドでは、企業はスケールメリットを享受しつつセキュリティレベルの高いクラウド環境を手に入れることができる。今後、企業は社内ITリソースと社外のクラウドサービスの両者を利用するハイブリッドクラウドへと向かっていくだろう。そのとき、バーチャルプライベートクラウドはユーザー企業に安心感をもたらすと同社は見る。

NTTコムはクラウドサービス拡充策を進める一方で、営業体制の強化策についても検討を行っている。直販と間接販売の両者で臨むが中堅クラスの企業に対しては、「IP-VPNの顧客がバーチャルプライベートクラウドの顧客になる。IP-VPNを販売しているパートナーに回線だけでなくサーバーまで含む新たな商材としてクラウドを販売してもらう」(小原担当部長)と語る。SIerやパートナーと協業することによって、クラウドサービスにおけるエコシステムの確立を推進する考えだ。

また、NTTコムは、クラウドの端末として携帯電話の可能性に注目する。「モバイルとクラウドコンピューティングが融合すれば面白い世界が開ける」。2010年内に高速データ通信を可能にするLTEサービスを開始する計画のNTTドコモを中心としつつ、海外の携帯電話キャリアとの連携も視野に入れている。

今後のテーマはSaaSのラインナップを増やすことだ。SaaSに対してNTTコムは、「自社でも開発するがSIerやソフトベンダーと組んで提供していく」(小原担当部長)ことが基本スタンス。メールサーバーやWebサーバーを提供してきたNTTコムのISPとしての経験とSIer/ソフトベンダーのソフト開発力との組み合わせで相乗効果が出ると考える。すでに、PCの管理や脆弱性を診断するSaaSのリリースを発表するなど、強化の動きは始まっている。

月刊テレコミュニケーション2010年4月号から転載(記事の内容は雑誌掲載当時のもので、現在では異なる場合があります)

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