SPECIAL TOPIC「このままではインターネットの経済性は維持できない」、シスコが示す解決法とは

現在のアーキテクチャのままでは、インターネットの経済性は維持できない――。そんな警鐘とともに、ネットワークのシンプル化を目指す「Internet for the Future」構想を推進しているシスコ。この春には、さらにアップデートした新・開発戦略を打ち出した。同社が描く「将来のインターネット」とはいかなるものなのか。

オプティクス革新へAcacia買収
Routed Optical Networkingの実現に向けて最も注目されるのが、第2の領域「オプティクス」における技術革新だ。これまで光ネットワークを構成していたWDM装置に匹敵する伝送能力を備えたコヒーレント光通信トランシーバー(プラガブル・オプティクス)を開発。これをルーターと合わせて使うことで、WDM装置を削減し、IP・光レイヤを融合させたシンプルなネットワークを実現する。

これを可能にしたのが、手のひらサイズのプラガブル・オプティクスで400Gbpsの長距離伝送を可能にする「400G ZR/Open ZR+」規格の登場だ。「一般的なWDM装置と同等か、場合によってはそれ以上の速度を小さなモジュールで実現できる」(大塚氏)

400G ZR/Open ZR+そのものは標準規格であるが、これを製品として具現化するうえで重要だったのが、2つの企業買収だ。シリコンフォトニクス技術に長けたLuxtera(ルックステラ、2019年2月に買収)と、コヒーレント光通信トランシーバーの開発力に長けたAcacia(アケーシア、2021年3月買収)である。

オプティクスへの投資と開発
オプティクスへの投資と開発

Luxteraの技術は製品のコンパクト化、製造効率の改善に寄与し、よりコスト対効果に優れたオプティクスの展開が可能になった。一方、Acaciaは「デジタルコヒーレント通信をシリコンベースで実現する技術のパイオニア」(同氏)であり、その技術が、データセンター相互接続(DCI)やメトロ、ロングホールまでカバーするプラガブル・オプティクスの開発・展開を可能にした。

「これにより、お客様はWDM装置を別に用意することなく、ルーターに抜き差し可能なプラガブル・オプティクスを使って光の領域もカバーできる」と大塚氏。従来はルーターとは別にトランスポンダーやアンプといった装置を必要としていた長距離伝送も、「QSFP-DDやCFP2規格のプラガブル・オプティクスで代替できる」ようになる。400G ZR/Open ZR+の商用展開は2022年からの見込みだが、その導入が本格化すればネットワーク構築・運用コストは劇的に変わるはずだ。

もう1つの複雑性はソフトウェアで解消
第3の領域「ソフトウェア」の技術革新は、ネットワーク運用の自動化につながる。上記のようにIPと光が統合できたとしても、依然としてネットワーク内には膨大な数の装置が存在し、その上で多種多様なネットワークサービスが展開されることに変わりはない。「この複雑性を解消するには、ソフトウェアの力が不可欠だ」(大塚氏)

この観点でシスコが開発を進めているのが「Crosswork Network Controller」だ。多数のルーター機器で構成されるRouted Optical Networkingの運用を簡素化し、IP・光の統合オペレーションを可能にするソフトウェア製品である(下画像)。これにより、マルチドメイン/マルチサービスの統合管理を実現して運用の省力化、ひいては自動化を目指す。

RONの運用を簡素化する「Crosswork Network Controller」
RONの運用を簡素化する「Crosswork Network Controller」

最後の領域が「システム」だ。これまで説明してきたSilicon One、Routed Optical Networkingアーキテクチャや、ネットワークのシンプル化に貢献するSegment Routing等の技術をSPが導入・活用しやすくするため、広範な製品ポートフォリオを揃えている。

シスコはここでもソフトウェアの観点で特徴を出している。主にアクセス向けの小型ルーター「NCS500シリーズ」、大規模なアグリゲーション/コア向けの「NCS5500/5700シリーズ」「ASR9000シリーズ」、コア向けの「Cisco8000シリーズ」と、SPに対して幅広い選択肢を提供しながら、「全製品がIOS-XRを使用しているので、ソフトウェアの観点ではすべて同じもの」(大塚氏)だ。ここにも、アクセスからコアまで多様な要件に応えるハードウェアデザインを揃えながら複雑性を増さないための工夫がある。

アクセスからコアまでカバーする広範な製品ポートフォリオ
アクセスからコアまでカバーする広範な製品ポートフォリオ

なお、上記のどのシリーズもボックス型からシャーシ型まで様々なモデルを揃えており、目的・用途に応じて最適なハードウェアが選択可能だ。もちろん、小型ルーターまで、超大容量の400G ZR/ZR+をサポートし、将来の帯域需要増大への備えも怠りない。

このように、シスコは今も様々なイノベーションに挑み続けているが、Internet for the Future 2.0の取り組みはまだ始まったばかりだ。「非生産的な冗長性と複雑性、運用コストの高騰」という三重苦からSPを解放するための挑戦はこれからも続く。

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