課題はエンドデバイスと認知
課題もある。
まず、ゲートウェイ製品の充実に対し、カメラやセンサーなどのエンドデバイスが不足している点だ。台湾メーカーが積極的なものの、「国内のエンドユーザーからすると、知っているメーカーから製品が販売されていない」(モースマイクロの大石氏)状況で、導入の壁となるケースもあるという。
エンドデバイスの少なさは導入コストの高さにもつながる。IIJの三宅氏によれば、Wi-Fi HaLowという名称から一般的なWi-Fiと同等の価格帯で導入できると誤解されることがあるが、実際にはまだ差がある。ただし「台湾メーカーの協力もあり、安くなったのも事実」(東郷氏)であり、一層の低廉化が期待される。
より本質的な課題は認知度だ。モースマイクロの大石氏も「通常のWi-Fiと混同されやすく、正しい理解が浸透していない」と指摘する。これを打破するため、各ベンダーは周知活動に力を入れている。
ビート・クラフトはWi-Fi HaLowモジュールを搭載したRaspberry Piキットを販売し、草の根レベルからの認知拡大を図っている。「ユーザー同士でユースケースを共有できるコミュニティ作りにも取り組みたい」と、同社代表取締役の竹本正志氏は語る。
理解を深めてもらうには、大手通信事業者やSIerなど上流からの取り組みも欠かせない。AHPCがNTT東日本総合研修センタ内に開設した「νLab(ニューラボ)」はその一例で、Wi-Fi HaLowシステムが動態展示されており、多数の見学者を受け入れている。モースマイクロは「Wi-Fi HaLowをより信頼してもらうために、国内キャリアやSIerとの協業を進める」(大石氏)方針だ。
見えてきた周波数帯拡張
Wi-Fi HaLowの可能性をさらに広げる施策として期待されるのが、対応周波数の拡張である。
総務省の情報通信審議会 情報通信技術分科会 陸上無線通信委員会に設置された「900MHz帯自営用無線システム高度化作業班」では、2024年4月からWi-Fi HaLowに850MHz帯を割り当てる議論が行われ、2025年7月に報告案が取りまとめられた。
報告案では、850MHz帯をWi-Fi HaLowに追加割り当てするとともに、出力上限を現行の20mWから200mWへ引き上げる。また、920MHz帯では干渉を防ぐために課されている送信時間制限(Duty制限)を850MHz帯では設けない。実現すればスループットは約2倍、通信エリアは約3倍に拡大し、連続的なデータ送受信や高画質映像伝送が可能になる(図表3)。
図表3 800MHz帯システムと920MHz帯システムの比較イメージ(1対1通信の場合)

この850MHz帯拡張は、早ければ2026年春ごろにも制度化される見込みだ。当面はデジタルMCAと周波数帯を共用するが、デジタルMCAは2029年に運用を終了する予定。その後の本運用では、現在は使用できない8MHzのバンド幅での利用も解禁され、さらなる大容量通信が実現する。
Wi-Fi HaLowが本来の性能を発揮するための環境が整いつつある。今が導入検討のチャンスだ。












