2018年6月にわずか4社で設立準備会を立ち上げたZETAアライアンス。そこから半年余りで会員企業・団体は40に増えた(2019年2月時点)。理事を務めるテクサーの朱強氏は「2019年の目標は100社。関西と九州支部も立ち上げて活動を全国に広げる」と話す。
続々と仲間を呼び込む魅力は何か。同氏は「他のLPWAにないZETAの優位性とビジネスの可能性」を挙げる。
【ZETA Alliance 理事】(左から)QTnet 執行役員 サービス開発部長の松崎真典氏、アイティアクセス 取締役の澤村宗仁氏、テクサー 代表取締役の朱強氏、凸版印刷 エレクトロニクス事業本部 事業戦略本部 第二企画部 マーケティングチーム 課長の諸井眞太郎氏、マクセル エナジー事業本部 新事業推進本部企画部 担当部長の宮本真氏
ZETAは、超狭帯域(UNB)による多チャンネル通信を行うLPWA規格だ(図表1)。最大の特徴はマルチホップ通信が可能なこと。基地局(AP)の約10分の1と安価で、かつ電池駆動の中継器(Mote)を用いてメッシュネットワークを作り、広範なエリアをカバーできる。
図表1 ZETAの特長
基地局の設置にはその都度、電源工事等が必要になるため、障害物が多い市街地や屋内・地下に電波を届かせようとすると、一般的なLPWA規格ではどうしてもネットワーク構築に時間とコストがかかる。対して、ZETAなら中継器を置いていくだけで通信エリアが作れる。冗長経路の確保も容易だ。
さらに、デバイス/ユーザー管理やデータ可視化等の機能を備えたZETA Serverも用意されている。アイティアクセスが提供するクラウドサービスを利用するほか、ユーザーがソフトを購入して自ら運用することも可能だ。
つまり、短期間かつ低コストに信頼性の高いIoT無線ネットワークが構築できるのだ。凸版印刷の諸井眞太郎氏は「ネットワーク構築のコストで、ZETAは圧倒的に優位」と話す。
この強みを活かして中国では、同国3大キャリアの基地局インフラを管理する中国鉄塔(China Tower)が上海市全域をカバーするZETA通信網を構築して同市内の通信インフラ遠隔監視に用いているほか、スマートシティ向けアプリケーションの展開も進めている。
マルチホップ通信の利点は、山間部などの光/携帯電話網の圏外や、電波の届きにくい屋内へIoTを展開したいケースでも存分に発揮される。電源の確保が困難な場所でも、中継器を使って容易に無線通信網を“延伸”できるからだ。いくつか事例を紹介しよう。
宮崎県ではQTnetが主導して山奥でのチョウザメ養殖の遠隔監視に用いられている。中国地方でも、レモン農家が山間部にある果樹園の遠隔監視にZETAを採用。アイティアクセスの澤村宗仁氏は、「いずれも少子高齢化で現場の監視が困難だったケース。既存の通信技術ではコストが高くてネットワークが作れなかったが、ZETAでそれを助けることができた」と話す。
凸版印刷では医療施設において、人感センサーを用いてトイレでの転倒や利用状況等を可視化する見守りサービスの実証実験を行った。屋内施設でもZETAの実効性が確認できた。
アシックスが行った実証実験も面白い。スポーツシーンでのLPWA活用を推進する同社は、山間部で行われるトレイルランニングにおけるランナーの安全管理などに役立てようとしている。ランナーの体調不良や遭難事故等への迅速な対応を行うため、ランナーにセンサーを身につけてもらい、位置情報やコンディションを遠隔からモニタリングするというものだ。
こうした競技が行われるコースは大部分が携帯電話の圏外であり、LTEをベースとするLPWA規格(LTE-M、NB-IoT)も使えない。そこで、中継器が使えるZETAに注目した。
神戸の六甲山で行った実証実験では、クルマ2台に電池駆動のZETA中継器を取り付け、コースの近くに配備(図表2)。ランナーの状況をモニタリングすることに成功した。加えて、移動中継器を現地に配備するだけで迅速に通信網を構築し、終わればすぐに撤収できるという短期開催イベントに適した運用が可能なことも証明できた。
図表2 アシックス、凸版印刷、テクサーによる共同実験
アシックスでは、こうしたイベントだけに留まらず、幅広いシーンでの活用も検討しているようだ。ZETAアライアンス理事でIoT事業・サービス開発を担当するQTnetの松崎真典氏によれば、「一般の人がハイキング等を楽しんだり、観光する際にも位置情報を活用した様々なアプリケーションが展開できる」可能性があるという。
ZETAアライアンスは、こうしたユースケース開拓をさらに加速させるための様々な取り組みを行っている。
目玉の1つが、日本製デバイスの拡充だ。4月から凸版印刷がZETA通信モジュールの量産を始める。海外製の従来製品に比べて42%も小型化されており、国内メーカーとも、凸版印刷製モジュールを使ったZETA対応センサー等の開発を進める計画だ。ZETAアライアンスに参加するマクセルの電池技術をはじめ、日本の技術を駆使したデバイスが続々と登場するはずだ。
こうした日本製のZETAデバイスには、「中国のユーザーも期待している」と朱氏は話す。現在、中国ではインフラ監視などにZETAを用いようとする複数のプロジェクトが進行中で、「数百万から数千万台のセンサーを用いる計画もある」という。また、マクセルの宮本真氏は、「日本と同じ920MHz帯を使っている東南アジアにも日本の技術と製品を持っていける」とも話す。こうした海外展開が成功すればデバイス価格の低廉化も進み、「日本でもさらに展開しやすくなる」と同氏は展望する。
このほか、会員のビジネスマッチングやユースケース開拓の促進に向けて、ワーキンググループ(WG)活動も盛り上がっている。すでに交通・社会インフラ分野、スマートビルディング、環境ビジネス分野のWGが発足。活動を後押しするため、PoC用キットを3カ月無償で貸し出すレンタル制度も始めた。
「新しいビジネスの芽がでてくる実感がある」(諸井氏)と手応えは十分だ。2019年、ZETAの飛躍が期待される。
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