KCCS IoT Conference 2019 レポート 加速し続けるSigfoxの「今」 人口カバー率は94%を突破

開業3年目に入ったSigfox。京セラコミュニケーションシステム(KCCS)が2月20日に都内で開催した「KCCS IoT Conference 2019」では、Sigfoxの「今」が語られた。人口カバー率はすでに94%を突破し、この夏には97%に到達する予定。グローバルでも年末には70カ国・1300万回線に拡大する見込みと、Sigfoxは今ますます加速している。

 IoTが今、社会を大きく変えようとしている──。

 振り返れば、組込みOS「TRON」の開発者として世界的に著名な坂村健・東洋大学 情報連携学部(INIAD)学部長が、世界で初めてIoTのコンセプトを世に問うたのは1987年のこと。それから約30年、いよいよIoTの機が熟した今、坂村氏は「KCCS IoT Conference 2019」の基調講演で、「SigfoxのようなLPWAには大きな可能性がある」と語った。

 同氏が現在提唱する「オープンIoT」は、あらゆるモノや人、組織、そしてサービスがクラウドを介してオープンにつながる世界。こうした世界を実現するには、きわめて安価にデバイスとクラウドをつなぐ通信技術が不可欠である。そこでSigfoxが重要な役割を担うと期待しているのだ。

 では、2017年2月に国内でサービスが始まってから2年、Sigfoxは今、どこまで前進しているのか。日本でSigfoxネットワークを提供する京セラコミュニケーションシステム(KCCS)の黒瀬善仁社長は次のように説明した。

 「人口カバー率は現在94%まで広がり、この夏には97%になる予定。また、パートナー企業の数は425社を超え、その多くが1年以内にビジネスを立ち上げる予定だ」

 Sigfoxのエリアとエコシステムが急拡大した今、Sigfoxを活用した商用サービスが次々とスタートしており、例えば最近では、ダイキン工業が空調機器の管理支援サービス、ネクストスケープがスポーツ自転車の盗難防止サービスを開始している。

坂村健氏

東洋大学
情報連携学部
(INIAD)
学部長 坂村健氏

黒瀬善仁氏

京セラコミュニケーションシステム
株式会社
代表取締役社長
黒瀬善仁氏

松木憲一氏

京セラコミュニケーションシステム
株式会社
取締役
LPWAソリューション事業部 事業部長
松木憲一氏

Bertrand Rame氏

仏Sigfox 社
Senior Vice President,
Operator Business
Management
Bertrand Ramé氏

Yong Soon KIM氏

韓国AMO-SNET 社
CEO
Yong Soon KIM氏

年末までに1300万回線へ 測位機能も高精度に進化


 低コスト・低消費電力・長距離伝送を特長とするLPWAの代表格であるSigfoxには、他のLPWA規格にはない魅力がある。その1つが「グローバル」だ。各国のSigfoxネットワークは共通化されており、世界中でシームレスに接続できる。そのため、Sigfoxを活用したサービスは、容易にグローバル展開可能だ。

 Sigfoxが利用可能な国は現在60カ国。仏Sigfox社 Senior Vice President, Operator Business Management Bertrand Ramé氏は、さらに「年末までに70カ国のカバーを目指している」と述べた。

 なかでも注目なのは、大規模な実証実験が計画されている中国と、今年第2四半期にサービスが始まる韓国だ。韓国のSigfoxオペレーターであるAMO-SNET社のCEO Yong Soon KIM氏は、「2020年の第1四半期までに人口カバー率85%のエリアを構築する」と語った。

 このようにSigfoxが世界中に広がっていく一方、新たな機能も加わっている。KCCS 取締役の松木憲一氏がまず紹介したのは、1月から提供しているレンタル基地局「Access Station Micro」である。

 サイズが186×159×108mm、質量が450gと超小型・超軽量でありながら、見通し1~2kmのカバーが可能。初期費用9800円、年額3万4800円で設置でき、まだエリアになっていない場所でも安価にSigfoxを利用できる。

 もう1つは、Sigfoxを活用した新しい測位技術だ。Sigfox基地局の位置と電波強度によって測位する「Atlas」が以前から提供されているが、さらにWi-Fiアクセスポイントによる測位も組み合わせ、誤差100m以下に精度を高めた「Atlas WiFi」も利用可能になっている。「GPSほどの精度はいらない。その代わりに数年間運用できる低消費電力と低コストなデバイスが欲しいという要望に応えられる」(松木氏)

 Sigfoxのグローバル性も活かし、国際物流でのアセットトラッキングなどでも大いに活躍しそうだ。加えて今、Sigfoxをビーコンとして使う「Atlas Bubble」も準備中だという。

 Sigfoxの契約回線数は、2018年末に600万に達した。「1年前と比較すると、2倍強に増えた。日本、ブラジル、南アフリカ、メキシコがここに来て大きな伸びを見せている」。Bertrand Ramé氏はこう明かしたうえで、「2019年末には1300万を超えると確信している」と話した。

 日本、そして世界で加速するSigfox。「社会を支えるインフラになる」と黒瀬氏は力を込めた。

 パートナー5社からは、Sigfoxを使ったサービス事例を紹介。860名を超える来場者は、IoT実現のためのヒントが得られたのではないだろうか。

KCCS IoT Conference 2019の登壇者たち

KCCS IoT Conference 2019の登壇者たち。Sigfoxの国内パートナーの数は425社に達した

日本電気
LPガス業界向けIoTを全国展開
羽部康博氏

日本電気株式会社 ものづくりソリューション本部 シニアエキスパート 羽部康博氏

 「パートナーとじっくり磨き上げてきたサービス。競合とは一味違う」

 今やSigfoxは、全国ほとんどのエリアで利用可能になった。そうしたなか、全国のLPガス販売事業者に向けたサービスが始まる。

 NECとミツウロコクリエイティブソリューションズ(ミツウロコCS)が4月から提供するLPガスメーター情報の遠隔取得・提供サービスだ。両社は2018年9月から名古屋地区で、SigfoxによるLPガスの配送効率化の大規模実証実験を行っているが、この結果を待たずに商用フェーズへ入るのだ。

 LPガス事業のリーディングカンパニーであるミツウロコグループは、LPガス業務に対する問題意識と高いノウハウを持つ。「ミツウロコCSとの協業によって、LPガス事業者が本当に必要とするサービスをひとつ作ることができた」と、NECの羽部康博氏は自信を見せる。

 KCCSとの協業も「一味違う」サービスの実現には欠かせなかったという。NECは、この新事業に採用する通信サービスを選定するうえで、次の2点を重視した。1つは「使いたい場所で使えるか」。KCCSはサービス開始当時、2019年3月までに人口カバー率85%、2020年3月までに99%のエリア計画を発表。実際には、この計画を上回るスピードでエリア整備を進めている。

 2つめは「運営事業者に業務遂行能力があるのか」だ。京セラグループの一員であり、携帯電話の基地局建設でも豊富なノウハウを持つKCCSになら、「新事業を預けられる」と判断した。

 名古屋での実験では、「5割以上の効率改善が図れたケースもあった」と羽部氏。LPガス業界の人手不足解消に貢献できることを実証した。Sigfoxとともに今、LPガス業界の変革の幕が上がる。

ネクストスケープ
コンシューマー向けIoTの成功の鍵
照山聖岳氏

株式会社ネクストスケープ プロダクトマネージャ・アーキテクト 照山聖岳氏

 低コストが特長のSigfoxはIoTのコモディティ化(日用品化)を加速させるが、その好例の1つがネクストスケープの自転車盗難防止サービス「AlterLock」だ。Amazonや自転車ショップなどで昨年12月から販売されており、売上を順調に伸ばしている。

 AlterLockは、SigfoxとBLEの通信モジュール、加速度センサー、ブザーなどを内蔵した重さ60gの専用デバイスを自転車に取り付け、盗難から守るサービスだ。

 ユーザーが自転車から離れ、専用アプリをインストールしたスマホとのBLE接続が切れると、加速度センサーが起動。揺れを検知するとブザー音で警告すると同時に、Sigfox経由でスマホにメッセージが届く。さらに万が一、盗難に遭った場合も、GPSで位置を取得して現在地をSigfoxで通知し続ける。Sigfoxは低消費電力のため、専用デバイスは充電なしで1カ月以上稼働する。

 「趣味のロードバイクで自分が悩んでいることをSigfoxで解決できると考えた」。ネクストスケープの照山聖岳氏は、AlterLockの開発理由をこう説明する。自転車盗難の認知件数は年間20万件。2017年の刑法犯は91万件であり、あらゆる刑法犯の中でダントツに多い。そのため高価な自転車に乗る人は、安心してトイレやコンビニにも寄れない。

 AlterLockのターゲットは、全国に約100万人いると推定される、10万円以上のスポーツ自転車に週1回以上乗る人たちである。彼らへの市場調査をベースにデバイス価格8900円、月額料金390円という価格を決定したが、この値付けは通信コストの安いSigfoxを採用することで可能になった。

 「コンシューマー向けIoTビジネスのハードルは高くない。ユーザーが本当に欲しいものを、欲しい価格で提供することがカギだ」と照山氏は語った。

ワークスモバイルジャパン
LINE WORKS×Sigfoxで広がるIoT
石黒豊氏

ワークスモバイルジャパン株式会社 代表取締役社長 石黒豊氏

 「データ収集をSigfoxに、通知機能をLINE WORKSに委ねることで、IoTシステムを手軽に構築できる」、直近1年間だけでも1万社以上の企業で導入されているビジネスチャット「LINE WORKS」を提供するワークスモバイルジャパンの石黒豊社長はこう訴えた。

 LINE WORKSは、7900万人以上の国内ユーザーを擁する「LINE」のUI/UXを踏襲しながら、企業が必要とするセキュリティや管理性を加えた「ビジネス版LINE」とも呼べるサービス。APIを介して、SAPやSalesforceなどクラウドやオンプレミス上の企業情報システムから容易に連携できる点も大きな特長だ。

 そして、この仕組みを利用することで、Sigfoxで収集したデータをクラウドなどで可視化・分析。その結果をもとに、アラートなどをリアルタイムにLINE WORKSのチャットボットから通知するIoTシステムも容易に実現することができる。「専用アプリではなく、普段から使っているLINE WORKSで通知を受け取れること」「通知用のアプリを開発するよりも簡単で、分析やサービス設計に集中できること」などが、LINE WORKSをIoTシステムに採用するメリットだ。

 すでに、これらのメリットを享受している企業も次々と出てきている。例えば、ある養豚事業者は、IoTによる養豚のスマート化を実現した。給水・餌、温湿度などの状況をモニタリングし、異常を検知するとアラートをLINE WORKSで通知する。手の空いている従業員が即座に対応できるようになった。また、ある店舗は、トイレ/シャワールームの利用回数をカウントし、一定回数に達すると、従業員に掃除を促す通知を行うことで、店舗運営を効率化している。

 全国で低価格に利用できるSigfoxと、リアルタイム通知を手軽に実現できるLINE WORKS。両者の組み合わせが、IoTの裾野を大きく広げていく。

ダイキン工業
全国のエアコン管理をSigfoxで
水野秀紀氏

ダイキン工業株式会社 サービス本部 事業戦略G 水野秀紀氏

 「規制対象の空調機器は1000万台。非常に大きなビジネスになる」。こう意気込んだのはダイキン工業の水野秀紀氏。同社は、Sigfoxを活用して業務用の空調設備の維持管理をサポートする「アシスネットサービス」の提供を昨年11月に開始した。「Sigfoxのエリアが大きく広がり、規制対象のエアコンがある施設のほとんどをカバーすることが可能になったため、事業化に踏み切った」

 エアコンに広く用いられているフロン冷媒は、地球温暖化の原因となる「温室効果ガス」でもある。低環境負荷な冷媒の開発も進めているが、市場で主に使われているR410A冷媒が万一大気中に漏れてしまった場合、「業務用エアコン※1 1台分で、40トン分に相当する」ほど大きい。そこで2015年4月に施行されたフロン排出抑制法では、業務用エアコンを利用する企業にも、3年毎の定期点検や3カ月毎の簡易点検、記録の保管などが義務付けられた。

 しかし、現地に有資格者が出向いて実施する定期点検には、1回1~2万円の費用が通常かかる。また、簡易点検や記録の保管も企業にとっては負担だ。アシスネットサービスは、Sigfoxを用いて、こうした問題を解決する。

 ダイキン工業は、Sigfoxの高い省電力性能を活かし、室外機に後付けできる測定装置を新開発。定期点検用の各種データや空調機の稼働時間、異常発生時は異常コードなどを取得し、Sigfox経由でクラウドに送信する。

 これにより、現地でのデータ収集の必要がなくなり、定期点検時間を通常の3分の1※2に短縮できる。また、管理者自身で実施する簡易点検もWeb上でサポートする。さらに、空調機器に異常が発生した際には、メールで担当者に通知する機能も備える。アシスネットサービスは、これだけの機能が月額料金600円で利用でき、早くも好評を博しているという。

※1:R410A冷媒を20kg充填されている機械
※2:当社比

アルプスアルパイン
10年稼働の物流向けデバイスを実現
(左から)笹尾泰夫氏、Sascha Kunzmann氏

(左から)アルプスアルパイン株式会社 常務執行役員CTO 笹尾泰夫氏、ALPS ELECTRIC EUROPE GmbH Strategic Business Development Manager Sascha Kunzmann氏

 アルプス電気とその子会社であるアルパインの経営統合により、この1月に新たなスタートを切ったアルプスアルパイン。同社は、IoT分野でも新たな取り組みを始めている。「我々は従来、IoT分野ではセンサーなどのハードウェアを担当してきた。しかし最近は、エコシステム全体を担当し、お客様にお届けするようになっている」と常務執行役員CTOの笹尾泰夫氏は語った。

 この戦略の一翼を担っているのがSigfoxの新しい測位技術である「Atlas WiFi」だ。アルプスアルパインの「長時間稼働アセットトラッキングシステム」に採用されている。

 パレットやコンテナ、トロリーといった物流資材の紛失率は、年間10%に達するといわれている。その紛失防止や管理効率化に有効なのが位置情報だが、「むやみな高精度化は高コストを招く。重要なポイントは、消費電力と通信コストをどれだけ減らせるか」(ALPS ELECTRIC EUROPE GmbH Strategic Business Development Manager Sascha Kunzmann氏)。

 そこで選んだのがSigfoxだった。アルプスアルパインは、Sigfoxに対応した4×2インチの物流向け小型IoTモジュール「Lykaner」を開発した。

 Sigfoxは、基地局の位置情報と電波強度をもとに、数百m精度の測位が行える。さらに、Wi-Fiアクセスポイントの情報も組み合わせて測位するのがAtlas WiFiだ。Lykanerは、Atlas WiFiの活用により、分解能50m以下での測位が可能になっている。

 また、省電力性能については、1日3回通信を行う場合で、連続10年稼働を実現した。低消費電力のSigfoxとその測位技術を採用したことで、物流資材の耐用年数である10年間、一度も電池交換不要で運用できる見込みだ。

page top
お問い合わせ先
京セラコミュニケーションシステム株式会社(KCCS)
URL:https://www.kccs-iot.jp/