「無線は5Gの氷山の一角に過ぎない。これを支えるネットワークが変わっていかないと、ユーザーは5Gサービスの恩恵を受けることはできない」
インテルでジャパン コミュニケーション・サービス・プロバイダー・セグメント ディレクターを務める友眞衛氏は、同社が推進するネットワーク変革の狙いをこう説明する。
この変革に向けてインテルが力を入れてきた技術の1つがNFV(Network Functions Virtualization)だ。
ネットワーク機器の機能を汎用サーバー上でソフトウェアとして仮想的に実装するNFVの検討がETSI(欧州電気通信標準化機構)で始まったのは2011年のこと。
インテルは当初から、「クラウド、データセンターのスケールエコノミーを、どうやって通信ネットワークに持ち込むか」というテーマを持って取り組んできた。
2013年頃からPoC(概念実証)が始まったNFVは、すでに米国の大手通信会社のネットワーク再構築に活用さ れ、日本でも5Gに向けてNFVの導入を全面的に進める動きが加速してきている。
「2023年ごろには、高速大容量だけでなく、超低遅延や多数接続という特徴を活かした5Gサービスが提供されるようになる。この5Gのフェーズ2に向けて、NFVを活用した新時代のネットワークへの移行が本格化してくるのではないか」と友眞氏は見る。
友眞氏によれば、この新たなネットワークには「ワークロード毎に最適化されたパフォーマンスを発揮できるようにすること」や「サービスに応じたQoSの提供」などの新たな要件が求められるという。インテルでは、こうした5Gのニーズに応えるためには、ネットワークインフラを3つの方向で進化させる必要があると考えている。
1つが「スケールアップ」──NFVを支えるサーバーの処理能力・機能の強化である。
具体的には、新たなインストラクション(CPUへの動作・処理命令)の導入や、FPGA(プログラム可能なLSI)の活用などによって、大量パケットのさらなる高速処理を実現する取り組みなどが進められている。
2つめが「スケールアウト」──ネットワーク上にクラウドとして点在しているCPUやストレージ、FPGAを活用したアクセラレーターなどのリソースを最適に組み合わせ、効率的にサービスを提供できる環境を構築していくことだ。
もう1つ、5G時代の新たなネットワークの実現に向けたネットワークの進化の方向性として、インテルが注力しているのが、「オーケストレーション/オートメーション」の実現だ。
「NFV環境でサービスを提供するには、自動でリソースを確保すると同時に、ネットワークのコンフィグレーションも自動変更できる仕組みが必要。AIを用いてネットワークを監視し、故障が発生する前に対処する予防保全も効率的に運用する上で重要となる。しかし、この分野はまだまだこれからだ」と友眞氏は語る。
こうした仕組みを実現するためのカギの1つとなるのが、ネットワークの様々な状況をリアルタイムに取得できる「Telemetry」だ。Telemetryで得た情報を機械学習し、リアルタイムにAIで処理することにより、故障を事前に予知することなどが可能になるという。インテルは、NFV環境へのTelemetryの実装にも力を入れている。
また、NFV環境全体のオーケストレーションに関する開発も強化しており、「ONAPを通じて、成果を世の中に還元していく」(友眞氏)という。ONAP(Open Network Automation Platform)とは、Linuxファウンデーションが運営するオープンソースのNFV構築・運用プラットフォームのプロジェクトだ。
こうしたインテルが目指す5G時代のネットワークを表すキーワードとして挙げられるのが、「クラウドネイティブ」だ。
一般的にクラウドネイティブとは、クラウドの利用を前提としたシステムやアプリケーションを意味し、具体的にはコンテナやマイクロサービス、APIなどの活用が特徴となる。
「コンピュートとコミュニケーションが融合することによって、5Gの多様なサービスは実現されていく」(友眞氏)というのがインテルのビジョンであり、そのためには5Gネットワークもクラウドネイティブになっていく必要があるのだ。
そこでインテルが現在推進している方策の1つが、パケットを高速処理できるアプリケーションを開発するためのオープンソースライブラリ「DPDK」の拡張である。DPDKはLinuxカーネルをバイパスし、ハードウェアと直接やりとりすることで、パケットの高速処理を実現する機能だ。このDPDKのメリットを様々なアプリケーションでより簡単に享受可能にする抽象化レイヤの準備を進めているという。
「我々はクラウドネイティブなVNFを開発しやすい環境を作っていく」と友眞氏は力を込める。
5Gの超低遅延を活かしたサービスを開発するうえではエッジクラウド、すなわち「MEC(Multi-access Edge Computing)」の活用が重要になるが、このMECもインテルの重点分野だ。
インテルは「MWC2019 Barcelona」において、「OpenNESS」というオープンソースのエッジ用アプリケーション開発ツールキットを発表した。OpenNESSでは、モバイルネットワークの複雑さを抽象化し、MECを活用したアプリケーションを簡単に開発可能にする「Easy“Network”Button」を提供する。これにより、「幅広い開発者が簡単にエッジ用アプリケーションを開発できる環境」(友眞氏)を整えようとしているのだ。
さらにインテルは4月2日にサンフランシスコで開催した「Data-Centric Innovation Day」で、負荷がかかったコアの処理能力を上げると同時に他のコアの処理能力を落として消費電力を一定にする仕組みや、AI用のインストラクションセットなどを盛り込んだ「第2世代インテル®Xeon®スケーラブル・プロセッサー(開発コード名:Cascade Lake)」、SSDよりも高速でDRAMより安価な新世代メモリー「インテル®OptaneTMDCパーシステント・メモリー」、来年リリースされる新FPGAなどのハードウェア製品群も発表している。
インテルは、ソフトウェアとハードウェアの両面から、5G時代の新ネットワークを実現しようとしているのである。
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