「昨年までは動きが鈍かったが、今年に入ってマイグレーションに向けて市場が動き始めている」。こう話すのは、MI代表取締役の石橋真吾氏だ。
2012年3月に設立された同社は、IoT分野のインフラ全般を手掛ける企業。モノとモノの通信がM2Mと呼ばれていた創業当時から自動販売機やエレベーター、ビル、コインパーキングの遠隔監視システムなどを提供しており、実績を積み重ねてきた。
昨年10月、NTT東日本/西日本がISDNサービスを2024年1月に終了することを発表したのに続き、今年4月にはソフトバンクが2020年7月末に一般向けPHSサービスの終了を明らかにした。テレメタリングについては当面残るとはいえ、PHSの停波が現実として捉えられるようになったことで、対象となる企業ではマイグレーションに向けた検討がいよいよ活発化してきたという。
これまでマイグレーションがなかなか進まなかった要因は、いくつかある。
まず、ISDN/PHSからの移行には様々な方法があるが、その多くは設備やシステムを刷新しなければならず、多額のコストがかかることだ。
各拠点の設備のIP化に加えて、センター側の既存システムについてもPtoPのシリアル通信からTCP/IP通信に変換するための変更を行う必要があり、合わせて数千万円はかかると言われる。特に中小企業にとっては大きな負担だ。
ISDN/PHSをIPに変換できるIoTルーターを活用すれば、既存システムの大幅な変更はセンターシステムのみとなり、その他はIoTルーターの導入だけで済む。しかし、こうしたシステムの改造費やIoTルーターは一般的に高価だ。
光回線への移行も考えられるが、通信料がネックになっている。ISDNやPHSが今も利用されている理由の1つは、通信料が安価なためだ。
MIが提供する「AirGATE」は、ISDN/PHSから3G/LTEへのマイグレーションを実現するソリューションで、これらの課題を解決できるとあって急速に注目が高まっている。
AirGateは、現場に設置したISDNTA(ターミナルアダプター)またはPHSモデムをM2M/IoTルーター「AirREAL」に差し替えるだけで、設備をIP化することが可能。システムについても、サーバーにソフトウェアモデムをインストールし設定変更すればIP化が完了する(図表1)。
現行の設備やシステムのままでISDN/PHSから3G/LTEに移行できるため、費用は機器代しかかからず、1台あたり2~4万円程度で済む。
AirREALは余分な機能を削ぎ落したシンプルな設計で、通常のIoTルーターと比べて安価に生産することを実現している。MIは自社でMVNO事業も手掛けており、毎月の通信コストもISDNの約2000円やPHSの約1000円よりさらに低額になる。
AirGateで中心的役割を果たすのが、M2M/IoTルーターの「AirREALファミリー」だ。ファミリーと付くことからも分かるように、豊富なラインナップが揃い、累計出荷台数は14万台に上る。
スタンダードモデルの「AirREAL<Type-A/B>」は、(1)メインとサブ2つのCPUによるOS監視、(2)通信トラブル時の自己復旧、(3)定期的なルータの再起動、(4)デバイスポートの監視という4つの自己修復機能を備え、よほどのことがない限り「止まらない」ようになっている。
この他にも、停電時および復旧時に通知するための充電池式UPSを装備したモデル、標準機を小型化したエントリーモデル、自動車の計器や制御装置とのコネクタを装備した車載用、Wi-Fiのアクセスポイント機能を搭載したモデルなどがある。VoLTE/VoIP機能も備えているので、緊急呼び出し用電話が設置されているエレベーターやATMのマイグレーションにも対応可能だ(図表2)。
項目 | AirREAL-EVT | AirREAL-EVI | AirREAL-EVL |
---|---|---|---|
CPU | ARM Cortex-M | ARM9 | |
RAM | 64KB | 128MB | |
ROM | 256KB | 256MB | |
OS | Mbed OS | Linux | |
シリアル通信 | PHS互換専用コネクタ | RS232C(DSUB) | |
LAN | - | RJ45コネクタ | |
モジュラージャック | - | RJ11 | RJ11 |
LTEモジュール | Quectel EC25J | ||
LTEアンテナ | SMA×2 | ||
SIM | ロック式SIMソケット | ||
LED | 1色×1、3色×1 | 1色×1、3色×3 | |
音声通話 | VoLTE | VoIP | |
電源 | 3.3V~3.6V | 12V~24V | |
温度 | -20℃~70℃ |
すべてのモデルに共通する機能として、OSにLinuxとmbedを採用しており、様々なアプリケーションを追加できることがある。また、機種によって多少の違いはあるが、-20℃~+75℃(動作時、Type-A/Bの場合)と屋外での利用にも耐える環境性能を備える。
「我々は自社で開発部隊を持ち、お客様が必要とするモデルがない場合は作ってしまう。だから、ライナップは増える一方です」と石橋氏は胸を張る。
MIではインターネットを使用しない閉域での3G/LTEサービスも提供しているので、セキュリティ面でも安心して利用することができる。
これらの特長から、コインパーキングの精算機や太陽光発電システムの監視など、屋外で高い安全性が求められる用途に導入するケースが多く、トップクラスのシェアを誇る。
端末やセンサーからサーバー、クラウドまでIoTのあらゆるレイヤーをワンストップで提供し、サポートや保守体制が充実しているのもMIの強みだ。
社内には日本HPEのサーバー構築やネットワーク設計の経験を持つネットワーク部隊がおり、ネットワークを含むシステム全体の設計やコンサルティング、構築も任せることができる。
数年前はIoTルーターを提供するベンダーが乱立していたが、「製品単体だけの企業は淘汰されてしまった。ネットワーク設計やコンサルもできる点は大きな差別化になっています」(石橋氏)。
万が一、故障が発生した際もルーターに内蔵されたLinuxサーバーに接続ログが残っているので、原因を正確に切り分けることができる。
M2M時代からの顧客に加えて、最近はISDNやPHSからのマイグレーション需要で「対応しきれない案件も多い」(石橋氏)と嬉しい悲鳴を上げている。3キャリアが提供する3Gサービスも2020年の東京オリンピック・パラリンピック後に終了すると見られ、3GからLTEへの移行案件も増えつつある。現行の設備やシステムがそのまま使え、通信コストの削減や通信品質の改善を実現するAirGATEで、マイグレーションを促進していきたいという。
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