KCCS IoT Conference 2018 レポート Sigfoxが開始1年で100万回線 いよいよ花開くIoTビジネス

「年額100円から」という圧倒的な安さを誇るLPWAの代表格「Sigfox」。日本でのサービス開始1周年を記念し、京セラコミュニケーションシステム(KCCS)は3月16日、「KCCS IoT Conference 2018」を都内で開催した。そこで語られたのは、Sigfoxの活用によって、本格的に花が開き始めたIoTビジネスの姿──。国内回線数は早くも100万を突破した。
Ludovic Le Moan氏

Sigfox S.A.
CEO
Ludovic Le Moan氏

黒瀬善仁氏

京セラ
コミュニケーション
システム株式会社
代表取締役社長
黒瀬善仁氏

 「Sigfoxの回線数は急速に伸びており、この3月には国内100万回線を突破した。IoTは今まさにティッピングポイント(転換点)を迎えている」

 会場に集まった約800人の聴衆を前に、日本におけるSigfoxの現状をこう説明したのはKCCSの黒瀬善仁社長だ。

 Sigfoxは、低コスト・低消費電力・長距離伝送が特徴のIoT向け無線「LPWA(Low Power Wide Area)」の代表格。仏Sigfox社と契約する1国1事業者のSigfox Operator(SO)が世界各地でSigfoxネットワークを展開しており、日本ではKCCSが昨年2月下旬に回線提供を開始した。データ量を1回12バイトに限定するなどにより、「年額100円から」という破格の料金を実現している点が大きな魅力だ。

LPWAに白黒付ける


 「もし、IoTビジネスに若干の不透明感があるのであれば、それを拭い去る。また、“LPWAは乱立”という見方があるならば、それに白黒を付ける」

 イベントのナビゲーター役を務めたKCCS LPWAソリューション事業部長の松木憲一氏はイベント開催の目的をこう語ったが、そのために黒瀬氏は冒頭の「100万回線」に加え、さらに2つの“事実”を示した。

 まずは順調に進むエリア整備だ。「主要都市への展開はほぼ完了し、人口カバー率は50%を超えた(※1)。来年2019年3月には85%、2020年3月には99%を達成する」。これほど広域で使えるLPWAは、他に存在しない。

 2つめは、パートナーの手によって、Sigfoxを活用したサービスが続々と世に出始めていることだ。「KCCSは回線提供に集中し、サービスそのものはパートナーが展開するというビジネスモデルを採用しているが、現在のパートナー数は266社。その多くが1年以内のサービス開始を目指している」。イベント後半に行われたパートナーによる講演では、実際に数多くの事例が紹介された。

※1:2018年3月時点で人口カバー率65%を達成

世界に広がるビジネスチャンス


 Sigfoxの大きな特徴としては、グローバルでシステムが共通化されている点も忘れてはならない。「Sigfoxは今、45カ国でビジネスを行っており、8億人の人が同じネットワークを使うことができる(※2)」。キーノートを務めた仏Sigfox社CEOのLudovic Le Moan氏はこう紹介したうえで、「2018年中にはさらに60カ国・10億人をカバーし、年末には600万のデバイスがつながることになる」と話した。

 このグローバル性は、パートナー企業にとって、“日本発”のSigfoxサービスを容易に世界展開できることを意味する。

 「Sigfoxは世界に向けたドアを開く。非常に大きなビジネスチャンスが目の前には広がっており、私たちは皆様の世界進出をサポートしていく」とLe Moan氏は聴衆に訴えかけた。

※2:2018年3月時点で45カ国、8.2億人が同一ネットワークを使用可能

KCCS IoT Confe-rence 2018の登壇者たち

KCCS IoT Confe-rence 2018の登壇者たち。海外のSigfox Operatorや、KCCSのパートナー企業らも講演した

ソラコム
リスク最小化でイノベーション加速
株式会社ソラコム 代表取締役社長 玉川憲氏

株式会社ソラコム 代表取締役社長 玉川憲氏

 「今は、企業の中の“やる気ある個人”がイノベーションを起こす時代。失敗のリスクが最小限になれば、どんどんチャレンジできる」。IoTイノベーターのための共通基盤「SORACOM」を展開するソラコム。同社はSigfoxを1回線/1台から提供しているが、玉川憲社長はその狙いをこう説明した。

 ソラコムのWebサイトでは、6種類の機能とバッテリーを内蔵したSigfox端末「Sens'it」や、Sigfox通信モジュール付きのArduino向けShieldが1台から購入できる。料金は1年分のSigfox通信とSORACOMのアプリケーションサービス利用料込みで、前者が8478円、後者が6480円。まさに玉川氏の言葉通り、非常に小さなリスクでIoTをスタートできる。

 玉川氏によれば、SORACOMはユーザーコミュニティの声を迅速に取り入れながら、次々と新機能を追加してきたという。例えば、「Sigfoxをサーバーレスで利用したい」というニーズに応えたのが「SORACOM Harvest」だ。サーバーやストレージを別途準備する必要なく、IoTデバイスからのデータを収集・蓄積できるサービスだ。

 「様々なクラウドを利用したい」というニーズには「SORACOM Funnel」が応える。これは認証情報と送信先を指定するだけで、IoTデバイスからのデータをAWSやAzureなどのクラウドに直接転送できるサービスである。

 「Sigfoxの電波が届かないところでも利用したい」というニーズにも対応している。Sigfoxレンタル基地局を用意しており、エリア化が今からの地域でもSigfoxをすぐに利用できる。

 最後に玉川氏はSigfoxについて「他のIoT無線と比べて、モジュールコストを下げられるし、消費電力も低い」と評価し、「消費材など向けで、どんどん普及していくだろう」と予想した。

NEC
広域・上り・少量ならSigfox一択
日本電気株式会社 サービス・テクノロジー本部 シニアエキスパート 羽部康博氏

日本電気株式会社 サービス・テクノロジー本部 シニアエキスパート 羽部康博氏

 「一番言いたいのは、Sigfoxなら今すでに商用サービスで使えるということ」。NECの羽部康博氏は聴衆に向けて、こう力強く語りかけた。

 代表的なLPWAとしては、Sigfoxの他に、LoRaWANとNB-IoT/LTE-Mなどのセルラー系がある。羽部氏はこれら三大勢力をユーザー目線で比較し、「大半のIoTサービスはSigfoxでカバーできる」と解説。さらに「広域・上りのみ・少量データのIoT通信の場合は、Sigfoxの“一択”になる」とした。

 NEC自身もSigfoxを活用したソリューションを提供している。IoTとAIを連携させて新たな価値を生み出す「IoTコネクティビティソリューション」で、羽部氏は「商用レベルで使えるものとして事業化した」と強調し、いくつかの事例を紹介した。

 まずは、LPガスの自動検針・配送業務の効率化。Sigfoxを活用してガス残量をリアルタイムに把握し、AI活用によって配送を効率化する。「大半のLPガス事業者は、物流コストの削減を求めている。そのためには通信コストも極力安いほうがよく、Sigfoxの“一択”となる」

 Sigfoxを用いて、業務用シャッターをリモート監視する事例もある。顧客の要請から「わずか1カ月でPoC(コンセプト実証)を実現した」という。

 また、SigfoxとLTEを組み合わせた事例もある。電力量のデマンド監視サービスの事例で、監視データの送信用にはSigfoxの上り通信を活用。その補完として、制御用にLTEの下り通信を使っている。

 さらに、グローバルで使えるSigfoxの特徴を活かし、海外展開するチェーン店舗における設備予兆監視のプロジェクトなども動いているとのこと。「4月から6月にかけて、業界内外に激震が走る商用の導入事例を複数発表しようと思っている」と羽部氏は予告した。

ウィルポート
IoT宅配ボックスの価格を10分の1に
ウィルポート株式会社 秋山亮介氏

ウィルポート株式会社 秋山亮介氏

 宅配ボックスを活用した新しい物流サービス事業に取り組むウィルポート。「宅配ボックスをたくさん設置するためには、安価であることが必須」と考えた秋山亮介氏が辿り着いたのがSigfoxだった。

 宅配便の取り扱い個数は年間で約40億個にも及ぶが、そのうち2割が不在のため再配達されており、「ドライバー不足や地球温暖化の要因となっている」と秋山氏。この再配達問題を解決するためのベストソリューションが宅配ボックスだという。

 「1万世帯に100台の宅配ボックスがあれば、理論的には不在再配達を解消できる。そのためには、全国約250万台ある自販機くらいの数の宅配ボックスが欲しい」

 そこでウィルポートは、低コストの宅配ボックス「まいどうもポスト」の開発に乗り出した。

 宅配ボックスには「電子式」と「機械式」の大きく2種類があるが、通信モジュールを内蔵し、高機能な電子式の価格は機械式の10倍にもなる。「まいどうもポストは、通信機能もサポートしながら、機械式と同等の価格を狙っている」という。

 この目標を達成するために選んだのがSigfoxだ。Sigfoxは通信コストが安い。また、電池で長時間稼働するため、電源工事も不要にできる。

 まいどうもポストは、電池稼働のSigfoxゲートウェイを内蔵しており、扉の開閉をトリガーに、扉の開閉状態をクラウドに送信。これにより、荷物の到着や鍵番号を受取人にメールで通知するなどの機能を実現している。

 ウィルポートは2018年4月から東京・勝どきエリアで、まいどうもポストの実証実験をスタートしており、さらに今後「まずは東京23区で事業化し、全国展開を目指す考えだ」と秋山氏は意気込んだ。

アイ・サイナップ/双日
単4電池2本で数カ月稼働
アイ・サイナップ株式会社 代表取締役社長 江藤潔氏(左)、双日株式会社 海外業務部 プロジェクト推進課 (IoT推進)特命専門課長 佐藤渉氏

アイ・サイナップ株式会社 代表取締役社長 江藤潔氏(左)、双日株式会社 海外業務部 プロジェクト推進課 (IoT推進)特命専門課長 佐藤渉氏

 「3G/LTEを採用したGPSトラッカーは、約1週間で充電が必要になる。しかし、Sigfoxでは、単4電池2本で数カ月の稼働が可能になった。このため、自転車の盗難防止などにも活用できる」

 Sigfoxの省電力性能の高さについて、アイ・サイナップの江藤潔社長はこのように語った。

 宅配ピザ「ナポリの窯」の冷凍冷蔵庫の温度をSigfoxで遠隔監視するソリューションを昨年2月に実現するなど、早くからSigfoxの有用性に着目していた同社が今、注力するのがSigfox GPSトラッカーだ。双日との物流IoT分野における協業も昨年8月に発表している。

「防犯ブザータイプ」のSigfox GPSトラッカー

「防犯ブザータイプ」のSigfox GPSトラッカー

 Sigfox GPSトラッカーは、GPSで取得した位置情報をSigfoxで送信するもの。子供や高齢者の見守りを想定した「防犯ブザータイプ」と、財布やカバンに入れて持ち歩ける大人用の「名刺サイズタイプ」の2つの新製品を5~6月にかけてリリースするという。

 実証実験も始まる。福岡県飯塚市では、防犯ブザータイプのGPSトラッカーを活用した児童見守りの実証実験が6月からスタート。このほか、高齢者の見守りや貴重品管理など、Sigfox GPSトラッカーを活用した実証実験の計画が進んでおり、「早ければ6月にも『実証実験ではなく、実サービスとして展開したい』というお話も頂いている」と双日の佐藤渉氏は明かした。

 また、車載タイプのSigfox GPSトラッカーの実証実験も進行中だ。ナポリの窯も「配達バイクへの導入を予定している」と江藤氏は紹介した。

ゼロスペック/北海道石狩振興局
“灯油難民”をSigfoxが救う
ゼロスペック株式会社 代表取締役社長 多田満朗氏(左)、北海道石狩振興局 産業振興部長 渡辺稔之氏

ゼロスペック株式会社 代表取締役社長 多田満朗氏(左)、北海道石狩振興局 産業振興部長 渡辺稔之氏

 寒さの厳しい北海道において、暖房や給油などに用いる灯油は、まさにライフラインだ。多くの家庭や事業所に灯油タンクがあり、ガソリンスタンドなどからの定期配送に頼っている。しかし今、「“灯油難民”の問題が発生している」とゼロスペックの多田満朗社長は説明した。

 背景にあるのは、人手不足や配送員の高齢化、そして過疎化によるガソリンスタンドの減少だ。「今後、灯油の配送が困難になるという危機感を持っていたが、そうしたなか、もらったのがゼロスペックの非常に面白い提案だった」と北海道石狩振興局の渡辺稔之氏は振り返った。

 ゼロスペックが提案したのは、Sigfoxを活用した「灯油配送改革へのチャレンジ」(多田氏)である。

 家庭や事業者に設置されている灯油タンクの残量は、配送業者が基本的に管理している。配送業者は、実際の残量が分からないなか、灯油を切らさないように定期配送するため、どうしても配送回数が必要以上に増えてしまう。

 そこでタンクの蓋にSigfoxの通信モジュールとセンサーを取り付け。残量をリアルタイムに可視化するとともに、タンク毎の消費傾向も分析し、「配送回数を最適化し、業務生産性の最大化を図る」という。多田氏がサービス開発にあたって、こだわったのは徹底的な経済合理性。本当に必要な機能だけに絞り込んでいくなか、通信手段にはSigfoxを選択した。

 新篠津村を皮切りに実証実験も始まっている。「無駄な配送がなくなり、ガソリンスタンドの負担は減る。消費者の『灯油がなくなる』という不安も払しょくできる。さらに高齢者の見守りや灯油の盗難防止にも役立つだろう」と渡辺氏は期待を語った。

オプテックス
IoTは“実ビジネス”の段階に
オプテックス株式会社 代表取締役社長 上村透氏

オプテックス株式会社 代表取締役社長 上村透氏

 「いよいよPoCから実ビジネスの段階に入ったと思っている」。オプテックスの上村透社長は、IoTの“今”をこう表現した。

 屋外用侵入検知センサーで40%、自動ドア用センサーで30%もの世界シェアを誇るオプテックス。「『広い海のクジラになるのではなく、小さな池の大きな鯉になる』をキャッチフレーズに、グローバルニッチトップでセンサーをやっている会社」だという。IoTビジネスを始めたのは約5年前で、Sigfoxに取り組んだのも早く、「日本に入ってくる前から注目し、密かに開発を進めてきた」。同社は、Sigfoxを活用したコインパーキング向け車両検知システムを、Sigfoxの国内サービス開始と同時に発表している。

 この4月に“実ビジネス”としてスタートしたのは、オプテックスが開発したSigfox対応IoTセンサーを用いた看板の点検・保守・見守りサービスだ。老朽化した看板の落下事故が相次いでいるが、定期的に点検するとなると、高所作業のため相当なコストがかかる。そこで看板に設置したセンサーで取得した看板の傾きや揺れのデータをSigfoxで送信。早期メンテナンスの計画立案、点検作業、補修工事を提案、さらに異常値が検知された場合には駆け付ける、というサービスである。「IoT看板センサーは防水で、電池で5年間、データをしっかり送り続けられる。Sigfoxのローパワーは非常に素晴らしい」

 海外でも“実ビジネス”が動き出している。「日本ではこれからだが、Sigfox対応のセキュリティ用センサーの供給を始めている。今までなかったような簡単で安価なセキュリティサービスを実現できるということで、欧州では多くの引き合いをもらっている」という。

 そして最後に上村氏は「Sigfoxを“実ビジネス”として展開するにはパートナーとの共創が重要。ぜひ気軽に声をかけてほしい」と述べて演壇を降りた。

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