「毎月の通信費用を少しでも減らしたい」──。スマートフォンユーザーの切実なニーズを反映し、格安スマホ/SIMを提供するMVNOが活況を呈している。
人気の高まりとともに、異業種からMVNOに参入する企業が相次いでいるが、ビジネスとして成り立たせるのは容易ではない。海外で調達した端末の輸入通関、検品、入出庫管理、Webでの加入受付後の本人確認や設定・キッティング、SIM登録、配送など手間のかかる作業も多い。
そこで注目を集めているのが、ヤマトグループのヤマトシステム開発(YSD)が提供する「MVNO事業者支援プラットフォーム」だ。MVNOにまつわる膨大な作業を裏方として支援するサービスで、「かゆいところに手が届く」きめ細やかさから、すでに十数社のMVNOが利用している。
それでは、一体どのようにMVNOをサポートしているのか。ヤマトグループが運営する総合物流ターミナル「羽田クロノゲート」を訪問し、実際に見学してきた。
羽田空港に隣接する約2000坪の広大な敷地に、豊かな自然に囲まれ円形や階段状の建物が立ち並んでいる。なかでもひときわ目を引く7階建ての巨大なビルが、羽田クロノゲートだ。24時間365日稼働するこの施設にはヤマトグループのグループ企業15社が入居し、常時約2000人の従業員が働いている。
下層階は宅急便や航空便を含む大量の荷物が素早く仕分けされる「仕分けエリア」、上層階は宅急便の「付加価値機能」に関するさまざまな事業を手掛ける「付加価値機能エリア」だ。
付加価値機能エリアでは、生活家電の修理・パーツ保管・ロジスティクス機能を集約することでリードタイムを短縮したり、病院で使用する医療用器械の洗浄・メンテナンス設備と在庫の保管場所を設置して流通在庫を圧縮するなど、単に「配送」にとどまらない、グループ各社の持つ付加価値を提供するための機能が集約されている。
MVNOには直接関係ないが、今年2月には3Dプリンターも導入した。医療用模型や義肢装具、メーカーのサンプル品などへの活用を想定している。従来は中国で製造したものを輸入・配送していたが、物流メーカーが3Dプリンター事業も手掛けることで大幅な時間短縮を実現する。
上層階と下層階はスパイラルベルトコンベアでつながっており、付加価値機能エリアで流通加工した荷物が仕分けエリアへと文字通り“流れるように”運ばれている。
このように充実した環境で提供されているのが、MVNO事業者支援プラットフォームだ。
MVNO事業者支援プラットフォームは、主に(1)通関業務・検品、(2)キッティング支援、(3)配送後のアフターサービス・保証業務で構成される。
まず、MVNOが海外から端末を輸入する際の通関業務や検品については、国際物流の機能を持つヤマトグローバルロジスティクスジャパンが代行する。これらの作業は通常、空港で行われているが、海外から空港に到着する商品を外国貨物のまま運び入れることで、スピーディに輸入通関を行える。
次に、「セットアップ・ロジ」と呼ぶキッティング支援サービスは専用のフロアで30人ほどの従業員が分担している。作業ごとに列が分かれており、各自が割り当てられた作業に集中している姿が印象的だ。SIMの焼き付け作業や端末のID/パスワード設定作業を行い、開封後すぐに使える状態にしてユーザーの手元に届ける。フィルム貼りのように精密さが要求される作業は機械化されているので、大きなミスも避けることができる。
昨今のMVNOブームの影響で受注件数は増加しており、1日あたりの作業台数は約1000台にのぼる。「設定作業と配送作業を同じ施設内で行うことで作業終了後すぐに発送できるので、リードタイムとコストの削減が可能です」と地域統括営業本部 東京支店 羽田オンデマンドセンター長の小川武志氏は自信を見せる。
YSDではより高品質かつ短納期での運用を目指し、自動キッティングツールを開発した。一度に20台の端末をまとめてキッティング可能なため、大量の設定依頼でも短納品で対応できる。
3つめのアフターサービス・保証業務は、グループ内で家電修理サポートや保守対応を担当するヤマトマルチメンテナンスソリューションズが、保証設計や故障時の窓口業務、代替機の保管・発送、故障品の回収やメーカー修理対応などをMVNOに代わって行う。
さらに、輸入したスマホを国内展開する際には、日本語のマニュアル作成といった作業も発生する。付加価値機能エリアには本格的なオンデマンドプリントの設備もあり、MVNOからマニュアルのPDFデータを受け取り、それを印刷・製本して端末と一緒にユーザーに直接配送することも可能だ。データを預けておけば、必要なときに必要な数だけ印刷できるので、MVNOは印刷コストや紙資源の無駄を抑えることができる。
MNOが全国に張りめぐらせたショップ網は、契約時の設定作業や、故障修理対応・困りごとが発生した際の対応などのサービスを提供し、MVNOにはない強みの1つだ。資金に余裕のある一部のMVNOやMNOのサブブランドも積極的に店舗を展開しているが、大半のMVNOはWebを窓口としており、十分なサービスを提供することは難しい。そうしたMVNOもYSDのMVNO事業者支援プラットフォームを活用すれば、安価な料金体系でありながらショップに負けない高付加価値をユーザーに提供することができる。セットアップ・ロジソリューションカンパニー 事業推進グループ マネージャーの宗像清三氏も「MNOやサブブランドにはできない“変化球”でパートナーのMVNOを支えたい」と意気込む。
羽田クロノゲートは、陸・海・空へのアクセスに恵まれた立地も特徴であり、それがヤマトのスピード輸送を支えている。
同社は現在、物流を「バリューを生み出す手段」に進化させる「バリュー・ネットワーキング」構想の下、「4つのネットワークの革新」を推進しているところだ。その1つに、東名阪の主要都市間の当日配達を実現する次世代ターミナル「ゲートウェイ構想」がある。
神奈川県厚木市、中部エリアに続き、今秋を目途に関西エリアにゲートウェイを建設、3拠点間の多頻度幹線輸送により、東名阪の主要都市間であれば、午前中に集荷した荷物が当日の夕方に配送される「当日配送」が可能になる。
MNOの新規契約あるいはMNPの場合、契約当日から利用できる「即日開通」が当たり前となっているのに対し、MVNOは家電量販店など一部を除き開通までに数日間を要する。「スマホを契約したその日から使いたいというニーズは多い。すぐに使える状態にして当日中に手元に届けられるようになれば、差別化にもつながります」とセットアップ・ロジソリューションカンパニー事業推進グループ アシスタントマネージャーの栗山隆行氏は話す。
YSDはスマホ以外にも、ネットワークカメラや無線LAN、セットトップボックスなどネットワーク機器の設定・配送の一括代行で多くの実績を持つ。IoT(Internet of Things)向けのMVNOサービスでもYSDの付加価値機能をフルに活用することができそうだ。
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