あらゆるモノがインターネットに接続されるIoT(Internet of Things)──。その普及により、ネットワークアーキテクチャも変革が迫られている。
ネットワークに接続されるデバイスと、そこで生成されるデータを処理するクラウドで構成される「クラウドコンピューティング」から、「フォグコンピューティング」へのシフトが求められているのだ。
シスコシステムズ
コーポレート ストラテジック
イノベーション グループ
シニア ディレクター
ヘルダー・アンチューンズ氏
フォグコンピューティングとは、クラウドを活用しながら、エッジに近い部分でインテリジェントな処理も行う新しいコンピューティングモデルだ。エッジとクラウドの間に「フォグノード」を置き、エッジデバイスから送られてきたデータをフォグで処理してデータ送信量を減らしたり、クラウドの負荷を軽減したりする。
IoTが本格化すると、フォグコンピューティングが重要な役割を果たすと考えられている。複数の理由があるが、その大きなものはネットワーク遅延(レイテンシ)問題の解決にある。
例えばファイル転送やビデオ再生など、10~100秒オーダーのレイテンシが許容されるアプリケーションは、クラウドでも容易に処理できる。また、Web検索やインタラクティブなWebサイトのように、100ミリ秒~1秒オーダーのレスポンスが求められる場合は、WebSocketやHTTP/2といったプロトコルを利用するなど、レイテンシ短縮の工夫をすればクラウドでも処理可能だ。
ところが、バーチャルリアリティやロボティクスのように高いリアルタイム性が求められるアプリケーションでは、もはやクラウドでは対応しきれない。1~10ミリ秒オーダーのレスポンスが必要だが、その程度の時間はクラウドに到達する前に消費されてしまう。IoT時代にはこのようなアプリケーションが、急激な勢いで増えていくと見込まれている。
とはいえ、IoTデバイスにはハードウェアスペックなどの制約があり、デバイス側でデータ処理を行うのは難しい。
そこでこれからは、フォグコンピューティングが重要になる。クラウドよりもデバイスに近いフォグでデータ処理すればレイテンシは小さくなり、ネットワーク帯域の制約も回避しやすい。またフォグノードは末端のデバイスに比べれば物理的制約が少なく、十分な処理能力を確保できる。さらに信頼性やセキュリティの担保も容易になる。
シスコはIoTトラフィックの40%が、フォグノードを介してやり取りされるようになると予測している。
こうしたフォグコンピューティングでは、様々な要素がシームレスに連携することが求められる。そのため、1ベンダーだけの取り組みで実現できるものではない。「多様なプレイヤーの協調が不可欠です」と語るのは、シスコシステムズ コーポレート ストラテジック イノベーション グループのシニアディレクター、ヘルダー・アンチューンズ氏だ。
そこで誕生したのが「オープンフォグコンソーシアム(OpenFog Consortium*)」であり、アンチューンズ氏はそのチェアマンを務める。
*:http://www.openfogconsortium.org/
フォグコンピューティングの普及を目指す同コンソーシアムは、2015年11月に設立された(図表1)。「ミッションは、フォグコンピューティングにおいて、産学が連携しながらリーダーシップを確立することです」とアンチューンズ氏は述べ、「そのためにテストベッドの開発を行うと共に、クラウドとエッジのアーキテクチャをシームレスに活用するための相互運用性やシステム構成に関する多様な情報を提供し、エンドツーエンドのIoTシナリオを実現可能にしていこうとしています」と説明する。
図表1 オープンフォグコンソーシアムが発足(2015年11月19日発表)
具体的には、3つのゴールを掲げている(図表2)。第1のゴールは、オープンアーキテクチャを開発し、その実現可能性や相互運用性を示すこと。第2は産学協同の強固なフォグエコシステムを確立し、これを介した協調を可能にすること。そして第3が、フォグコンピューティング市場の育成だ。
図表2 オープンフォグコンソーシアムのゴール
オープンフォグコンソーシアムは設立して半年も経たないが、すでに様々な活動を展開している。
1つめは、「Overview of OpenFog Architecture(オープンフォグアーキテクチャ概要)」というホワイトペーパーの出版だ。これは、同コンソーシアムのフォグコンピューティングに対するアプローチを概説するもの。オープンフォグアーキテクチャを構成する8つの柱であるセキュリティ、スケーラビリティ、オープン、オートノミー、プログラマビリティ、RAS(Reliability, Availability, and Serviceability)、アジリティ、ヒエラルキーについて詳細に解説している。このホワイトペーパーは、同コンソーシアムのサイトからダウンロード可能だ。
2つめは、他の業界標準団体との連携である。IEEE(電気電子学会)との連携に加え、産業オートメーションにおける相互基準を策定するOPC Foundationとの連携も発表された。
3つめは参加メンバーの拡大だ。2016年4月にはメンバーは24組織となり、設立当初の4倍にまで増えた。北米、欧州、アジアなどから参加しており、コンソーシアムはグローバルな組織になりつつある。4つめは役員会を拡大したこと。これにより、さらに多様な企業が参加できるようになった。また、5つめとして、オープンアーキテクチャに関する7つのワークグループを立ち上げた。
6つめは、日本国内でのコンソーシアム運営を担う「Japan Regional Committee」を発足させたことだ。富士通、さくらインターネット、東芝に加え、ARM、シスコ、デル、インテル、マイクロソフトも参画。日本ならではのテーマ、例えば産業オートメーションやロボティクス、マシンラーニングなどに、いかにフォグコンピューティングを適用するかといった議論が進められている。
アンチューンズ氏は、「すでにさくらインターネットが参加しているが、今後は他のサービスプロバイダーにも参加していただきたいと考えています」と語った上で、サービスプロバイダーの積極的な取り組みは、次の2つの理由から重要になると説明する。
第1の理由は、サービスプロバイダーがフォグコンピューティングを提供することで、個別にシステムを構成する垂直統合型ではなく、共通プラットフォームをベースとした水平統合型のアプローチが容易になることだ。
第2の理由は、サービスプロバイダーがすでに、アクセスネットワークや基地局、PoP(Point of Presence)を保有していることにある。フォグコンピューティングでは、エッジとクラウドの間に多数のフォグノードを用意する必要があるが、サービスプロバイダーが保有するPoPにフォグノードを組み込むことができれば、これを短期間で実現できる。
フォグコンピューティングに関するシスコの最近の取り組みの一例としては、スペインのバルセロナにおいて、パートナー数社と共同で実施した実証実験がある。2015年12月には電灯管理、交通量監視、スマート電力制御などの異なるサービスを一元的に集中管理するライブデモを実施した。
シスコはこれからも、オープンフォグコンソーシアムへの貢献や、世界各地のプロジェクトへの積極的な取り組みを通して、フォグコンピューティングを推進し、IoTの発展をリードしていく。
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