企業ネットワーク最前線

働き方改革Day 2018 講演レポート

柳川範之・東大教授「人生100年時代を生き抜くための働き方改革」

文◎藤井宏治(IT通信ジャーナリスト) 2018.10.29

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東京大学 大学院 経済学研究科 経済学部 教授
柳川範之氏

人生100年時代――。さらにデジタル変革が加速するなか、「働き方改革」は企業や行政だけの問題ではない。私たち1人ひとりが「働き方改革」に真剣に向き合う必要に迫られていると、東京大学の柳川範之教授は「働き方改革Day 2018」の基調講演で強調した。

 
「働き方改革とは、1人ひとりが世の中の変化に合わせて、生き残るため、より良い生活をするため、どう働いていくかを考えることではないか」

柳川氏は講演の冒頭、社会や技術の変化によって今、1人ひとりが働き方を変えていく必要に迫られていると述べた。さらに「政府で働き方改革の第2弾が検討されているが、働き方を考えるのは、あくまで企業、そして個人であり、行政の役割はこの変革を妨げないよう法律や制度を整備することだ」と指摘した。

では、社会・技術面での「変化」とは何なのか――。柳川氏が、まず取り上げたのが、長寿社会の到来だ。

「医療が発達し、75歳、80歳くらいまで元気に働ける時代になっている。そうなると学校を卒業し、同じ会社に60歳、65歳まで勤めるという従来の働き方(人生設計)が、最良とは言えなくなる。80歳まで活躍し続けたいと考えるのであれば、1つの会社にこだわらず、新しい環境に目を向けるべきだ」と柳川氏は訴えた。

技術面での大きな変化として取り上げられたのが、IT/AI技術の急速な進歩だ。これによって産業構造が変わり、「雇用の二極化」――勝ち組、負け組の格差拡大が進む可能性があるというが、「この変化は“大きさ”よりも“速さ”が問題になる」と柳川氏は述べた。

「変化が緩やかであれば、対応を次の世代に委ねられる。しかし5年後、10年後に世の中が全く変わってしまうのであれば、すぐに1人ひとりが自らの働き方や能力を変えていかなければならない」からだ。

東京大学 大学院 経済学研究科 経済学部 教授 柳川範之氏


他方、「技術の進歩は、働き方の枠や幅を大きく広げる側面も持っている」と柳川氏は強調した。

インターネットやクラウド技術の発展により、クラウドソーシング/クラウドワーキング(ネットを介した業務の委託・受注)、テレワーク(遠隔就労)など、「時間や場所・空間に縛られない働き方」が可能になっているためだ。

「昭和の時代は会議室に集まって顔を見ながら、キャビネットに収納された資料のコピーを使って議論しなければならなかった。しかし、ネットやクラウドを活用することで、こうした制約はなくなっている」

柳川氏は、こうした従来の働き方について、「顔を突き合わせることで良いアイディアが生まれてくるなどの利点がある」としながらも、「テレワークにより業務が効率化でき、就労機会を広げられることに、もっと目を向けるべきだ」と主張する。

さらに、この「時間・場所に縛られない働き方」によって、「複数の地域で働く」「複数の仕事を同時に行う」ことが可能になると指摘し、「これは凄く大きな変化だ」と力を込めた。

もちろん、時間・場所に縛られない自由な働き方は、技術だけで実現できるものではない。特に日本では制度や雇用・業務慣行が実現のネックになっている。

その一例が、労働時間の管理の問題だ。柳川氏は、「副業」解禁の動きと絡めて、働き方に対する考え方を転換する必要があると訴えた。

「副業・兼業の議論が盛り上がってきた背景には、技術の発展によって、1つの会社に所属しながら、時間を細切れに使って、複数の仕事ができるようになってきたことがある。昭和の時代には職場でしか仕事はできなかったが、今や自宅で会社の仕事をこなして、さらに余った時間に医療事務の仕事をしたり、南米で仕事をすることもできるようになってきた」

こうした「兼業や副業が国を越えてできる時代」には、労働時間を管理すること自体が意味を持たなくなるというのが柳川氏の考えだ。

もう1つ、柳川氏が急速な技術革新の影響として挙げたのが、これまでストックと考えられてきたスキルや能力の“フロー化”である。

「かつては学生時代や若い頃に頑張れば、それで一生食べていけた。だが、環境の変化が速いと、獲得したスキルも早々に必要とされなくなる。すなわちスキルは、定期的なバージョンアップが必要なものとなってきている」

「大変な時代になった」と捉える人も多いだろうが、「実はこれは大きなチャンスだ」と柳川氏は話した。

「これまではストックを蓄積した企業、先にスキルを高めた人にはなかなか追いつけなかった。しかし、スキルがフロー化すると、毎年新しいゲームが始まる。前の技術では負けたかもしれないが、次の技術では勝てるといったことが起きてくる。ぜひこのチャンスを生かして欲しい」
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