分野別にみるSDN/NFVの使い方[最終回]通信事業者編

SDN/NFVの導入により通信事業者は、汎用的なハードウェアと仮想化されたソフトウェアでネットワークインフラを構成し、従来に比べて短期間かつ低コストに新たなサービスを提供したり、運用負荷を削減することができる。最終回は、通信事業者向けSDN/NFVの最新動向に迫る。

海外で先行するvCPEユースケースとしては、LTEネットワークを仮想化するvEPCが先行し、そして現在は、顧客の宅内通信機器を仮想化するvCPEの商用化に向けた開発が進んでいる。vCPEは、従来はユーザー宅内に置かれていたホームゲートウェイ等の各種機能を通信事業者の設備側で運用するものだ(図表1)。

図表1 vCPEのイメージ
図表1 vCPEのイメージ

端末側には通信に必要な最低限の機能だけを残し、セキュリティや帯域制御等の機能をネットワーク側から提供することで、運用や機能追加などのメンテナンスの負荷を削減できる。

このvCPEは海外で先行しており、目立った例としては、ドイツテレコムがすでに商用サービスとして「Cloud VPN」を提供している。ユーザーが専用のポータルサイトからサービスを注文するとCPEが配送されてきて、それをネットワークにつなぐだけでCPEとクラウド側の設定が自動的に行われ、必要とする機能(ファイアウォールやIPsec VPN等)が利用できる仕組みだ。

同社はシスコの製品によってこのサービスを実現している。シスコ SP Routing Architecture, Consulting Systems Engineerの菅野洋之氏は「データセンター内だけでなく、CPEや広域ネットワークまで含めて商用化しているケースはこの事例だけ」と話す。

データセンター一式を仮想化テレフォニカもヒューレット・パッカードと「Telco DC Virtualization」の実現に向けた開発、トライアルを行っている。

これは、物理的なデータセンターをまたぐことができ、必要なリソースを柔軟かつ即座に構築できる仮想データセンターだ。サービスやユーザーごとに機能を提供する小さな仮想データセンターを作り、これを仮想基盤上で運用するという新しいコンセプトである。

テレフォニカは南米など新興国地域の広大なエリアで事業を展開しており、各国ごとにデータセンターとネットワーク設備、運用にかかる人的リソースを充実させるのは難しい。そこで、個々のサービスとユーザー環境に対する受け側となるデータセンターの機能(サーバー/ストレージ、ネットワークの機能)ごと仮想化し、ユーザー向けに機能を提供することで大幅な省力化を狙うのだ。

このTelco DC Virtualizationは、ユーザー自身がセルフプロビジョニングを行い、柔軟かつ迅速にリソース割当ができるサービスモデルを実現しようとしている。日本ヒューレット・パッカードの通信・メディアソリューションズ統括本部 OSS担当営業部長の迫田健氏は、「従来なら申込から導入まで平均で1カ月かかっていたものが数時間に短縮できる。エンタープライズ向けのサービスを想定しており、国をまたがって移動しても同じサービスレベルの環境が、いつでも必要な期間だけ使えるようになる利点もある」と話す。

また、このコンセプトは通信事業者自身が構築し提供するサービスだけでなく、仮想MVNOにも使えるという。MVNOに必要な機能一式を備えた仮想データセンターを数時間で立ち上げて提供するといったサービスも可能になりそうだ。

通信事業者によるSDN/NFV導入はまず、既存のインフラとは別に、このような新サービスを立ち上げるための基盤の構築を目的に進められていく。既存インフラへの導入には長い期間がかかり、また、仮想基盤の信頼性・安定性の確保も進化の過程にあるためだ。

迫田氏は今後国内でも「ネットワークの個々の機能だけではなく、インフラとサービスを包括した基盤の構築・支援に注力していく」とし、SDN/NFVのメリットを活かした新サービスの実現をサポートする考えだ。それとともに「キャリアグレードに近い信頼性を備えた仮想ネットワーク基盤とそれを使いこなすオペレーションの実現に取り組むことが今後の重点になる」とも話している。

月刊テレコミュニケーション2015年10月号から一部再編集のうえ転載(記事の内容は雑誌掲載当時のもので、現在では異なる場合があります)

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