「MVNO育成で携帯3社の“寡占”を打破」――総務省の規制改革の狙い

総務省の移動通信分野の規制改革の核心はMVMOの育成で携帯電話3社の「協調的寡占」体制を打破することにある。来年度実施が打ち出された「SIMロック解除」はその環境整備としての意味を持つ。

日本の携帯電話ビジネスの構造を一変させる可能性を持つ、総務省の規制改革議論の方向性が見えてきた。

検討中の改革プランは多岐にわたるが、その中で携帯電話の販売現場に直接影響を及ぼすことになるのが、総務省が2015年度実施を目指す通信サービスへの「クーリングオフの導入」と新規販売端末の「SIMロック解除」だ。

クーリングオフは訪問販売や通信販売などを対象に、契約を結んだ後でも一定期間なら消費者が無条件で解約できる制度である。不意打ち性の高い販売手法や高リスクの取引から消費者を保護するために設けられた。

スマートフォンや光回線などの通信サービスは、「特定商取引法」によるクーリングオフ制度の適用外となっているが、総務省は電気通信事業法にクーリングオフを盛り込んだ改正案を来年の通常国会に提出、2015年度からの導入を目指している。

携帯電話事業者、そして販売代理店にとって衝撃的だったのが、総務省がキャリアショップや量販店などの店舗で販売されるスマートフォンやデータ端末もクーリングオフの対象とする方針を打ち出したことだ。

クーリングオフは本来、訪販や通販を想定した制度で、店舗での契約は契約金額が高額で契約期間が長期に及ぶために消費者トラブルが多発した英会話教室やエステサロンなど一部の業種を除いて対象になっていない。ところが、来年度からは携帯電話事業者が厳格に管理するキャリアショップを含むすべての携帯電話販売店が、クーリングオフの対象となる。携帯電話は1億台近くが使われる生活必需品だけに影響は大きい。

なぜこうした事態になってしまったのか――。

通信サービスへのクーリングオフ制度の導入を議論してきたのが、総務省が2月に発足させた有識者会議「消費者保護ルールの見直し・充実に関するWG」(以下、消費者保護WG)だ。6月30日に公表された「中間取りまとめ(案)」で導入が提起された。

クーリングオフ導入議論の発端となったのは、光回線などの固定ブロードバンド販売における消費者トラブルの増加である。高額の販売手数料を背景に、同一世帯への繰り返し営業、PCを持たない高齢者に光回線を販売するなどの不適切な行為が横行。各地の消費生活センターには苦情・相談が多数寄せられた。「2012年の電気通信サービスのトラブル相談件数は4万8668件、その後も増加傾向にある」(国民生活センター)という。

問題なのは、こうした事例が数年前から多発し、2012年には内閣府の消費者委員会が総務大臣に改善を要望する事態となっていたにもかかわらず、通信事業者が実効性のある対策を講じなかったことだ。自浄能力がないのなら、規制でたがをはめる以外にないというのが、議論の出発点になってしまったのである。2月に開かれたWGの第1回会合のヒアリングでは消費者委員会、国民生活センター、日弁連から通信事業者の不作為が厳しく指弾された。

この議論は携帯電話販売にも波及、エリアの不十分な情報開示に起因する解約トラブルや端末を安価に販売する条件としてさまざまなコンテンツや付加サービスへの加入を求めるセット販売(強制オプション)など、分かり難い販売手法に対する苦情が増えていることが問題視された。

PIO-NET(全国消費生活情報ネットワーク・システム)に登録された携帯電話販売に関する相談件数は2013年だけで1万件超に上る。携帯電話の8割は店舗で売られているのだから、ここにクーリングオフを導入しようということになるのは当然の流れだ。販売競争に勝つために複雑な料金制度、販売手法を導入する一方、不十分な説明などに起因するユーザーの解約の申し出を拒絶してきた携帯電話事業者の姿勢が、最悪の結果を招いたとも言えよう。

また、MNPを促すための度を超した現金還元セール(キャッシュバック)も携帯電話事業者に対する不信感を決定的にしてしまった。

クーリングオフで返品された端末は、そのままでは売れない。クーリングオフを行使するユーザーが増えれば、代理店や携帯電話事業者は収益面で大きな打撃を受けることになる。

月刊テレコミュニケーション2014年8月号から一部再編集のうえ転載(記事の内容は雑誌掲載当時のもので、現在では異なる場合があります)

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