<連載>10年後のネットワークを創る研究者たち(第1回)東北大学 長谷川剛教授輻輳制御を研究して25年 インターネットの基礎の見直し提案

本連載では、未来の通信・ネットワークを描いている研究者を訪ね、その研究内容や人となりを伺う。第1回は、2021年の電子情報通信学会 情報ネットワーク研究会研究賞を、「エンド間・ネットワーク内制御に基づく輻輳制御アーキテクチャの提案」で受賞された、東北大学 電気通信研究所 システム・ソフトウェア研究部門 コミュニケーションネットワーク研究室の長谷川剛教授を訪ねる。

東北大学 教授 長谷川剛氏

東北大学 教授 長谷川剛氏

受賞した研究は、簡単にいうとインターネット「輻輳制御」の新しいアーキテクチャを提案するものです。輻輳とはネットワークに対して、その容量を超える通信の要求があり、そのために遅延などが増大して性能が極端に落ちてしまうことをいいます。イメージ的には高速道路の「渋滞」のようなものです。これを回避する技術を輻輳制御といい、昔から研究されてきたテーマの1つです。

現在のインターネットでは、この輻輳制御を送信側と受信側の両端、“End to End”(E2E)で行っています。このようにすることで経路を構成する個々のネットワークの構築が簡単になり、これがインターネット普及の1つの理由でもありました。

しかし、インターネットが広がっていくに従い輻輳制御の改良が必要になってきました。これは携帯電話の通信網など、新しい技術を使った従来とは異なる特性を持ったネットワークが登場し、ネットワークの規模が拡大していくにつれて輻輳のメカニズムも変わり、新たなアルゴリズムが求められてきたからです。

このとき、E2Eの制御では、インターネットの経路を構成する個々のネットワークが最適には動作できない、通信間の公平性が確保しにくいという問題が出てきました。

TCP/IP、特にTCPの改良の歴史は、輻輳制御の歴史でもあります。VEGAS、RENO、CUBICなどと呼ばれるさまざまなTCPの改良版(バリアント)は、輻輳制御アルゴリズムが改良されたものです。しかし、ネットワークの両端で輻輳制御するという考えは変わっていません。もちろん、これらの輻輳制御は現在でも有効で、間にどのような特性のネットワークがあっても、破綻することなく輻輳制御できるという点では素晴らしいものですが、必ずしも、個々のネットワークに最適化されるわけではありません。

提案したアーキテクチャ(図表)は、ネットワークごとに輻輳制御を行う「in-Network Congestion Control(NCC)ノード」を置くことで分割し、複数のフィードバックループを形成するというものです。

この場合のネットワークは、例えば社内LAN、各サービスプロパイダーが持つAS(自律システム)間など自由に設定できます。

図表 現状のネットワークアーキテクチャと、輻輳制御アーキテクチャのイメージ

図表 現状のネットワークアーキテクチャと、輻輳制御アーキテクチャのイメージ

一般的に「大きな」ループでフィードバックを行いますと、応答が戻るまでに時間がかかり、振る舞いが「ゆっくり」になるという問題があります。これをネットワーク単位に分割することで、フィードバックのループを小さくし、より短い時間で輻輳制御を、ネットワークの特性に合わせて行うことが可能になります。

このアーキテクチャでは、ネットワークごとにさまざまな輻輳制御アルゴリズムを利用できるようになります。これには従来、研究されてきた輻輳制御アルゴリズムが利用できます。特に深層学習を使いネットワーク状況から自動的に輻輳制御アルゴリズムを生成するような場合、通信の両端で行うよりも対象となるネットワークを限定するほうが実現の可能性が高くなるでしょう。

ネットワーク単位で輻輳制御を行うこと自体は、すでに専用機器やCDN(Content Delivery Network)内部で使われているなど、新規の発想ではありませんが、特定のメーカー機器間、特定の事業者のネットワーク内だけ有効なものです。提案のアーキテクチャは、すべてのネットワークで利用可能な汎用的なものです。

そのため、ネットワークごとに、段階的に導入が可能です。例えばファイアウォールなどでネットワークを区切っている大学やデータセンターネットワーク、あるいはキャリアやプロパイダーごとのネットワークに導入可能です。

輻輳制御のアルゴリズムは複数存在しています。従来は共通の輻輳制御アルゴリズムしか使えなかった各ネットワークが、それぞれの環境に応じたアルゴリズムを導入することで輻輳の効率的な制御やコスト削減が期待できます。

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長谷川 剛(はせがわ・ごう)氏

東北大学 電気通信研究所 システム・ソフトウェア研究部門 コミュニケーションネットワーク研究室 教授。1992年大阪大学基礎工学部情報工学科入学後、博士(工学)を取得。2002年には大阪大学 サイバーメディアセンターにて助教授/准教授を務める。2019年から現職

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