モノがインターネットにつながるIoTは、製造業や医療、農業などあらゆる産業に革新を引き起こすと期待されている。
なかでも大きなインパクトをもたらすと見られるのがクルマ、すなわちコネクテッドカーだ。調査会社の富士経済は、インターネットに常時接続するコネクテッドカーの世界市場規模について、2014年の1億1197万台から30年には6億8249万台(いずれも累積台数ベース)と6.1倍に拡大すると予測している。
コネクテッドカーでは、クルマ本体に搭載したセンサで取得したデータをインターネット経由で収集、クラウド上で分析を行う。その分析結果は危険予知や走行支援、車両診断、渋滞緩和、さらには車両保険料算出など幅広い用途で活用されると見込まれている。
それだけに、自動車メーカーだけでなく異業種も含めた多くの企業がコネクテッドカー市場への参入に関心を示している。そして、こうした企業の注目を集めているのが、IoTプラットフォームだ。デバイス管理やネットワーク管理、データ管理・分析などをワンストップで提供するIoTプラットフォームを活用することで、短期間にIoTサービスを立ち上げられる。
ただ、問題はその多くが業種を問わない汎用性を持った基盤であり、クルマ特有の課題やニーズに応えるものとはなっていないことだ。そうした中で、クルマに特化したIoTプラットフォームを展開する(株)スマートバリューは、ひときわ強い存在感を放っている。
1928年に大阪で創業した同社は戦後、モータリゼーションの波に乗り、自動車関連事業を展開してきた。その後はクラウドや携帯電話販売など情報通信分野に事業を拡大する一方、08年に祖業を発展させたテレマティクスサービスを開始して以降は、モビリティ向けIoTサービスの開発・運用にも注力している。
モビリティ向けIoTサービスは(1)SaaS、(2)PaaS、(3)IaaS、(4)ネットワーク、(5)ハードウェア、(6)フィールディングの6つのレイヤで構成される(図表)。(株)スマートバリューは約10年間にわたり培ってきたノウハウにより、これらを一気通貫で提供できるのを強みとする。
他方、今年8月にはPaaSとIaaSの部分を切り出し、「クルマツナグプラットフォーム」として提供を開始した。プロジェクト開発Divisionマネージャーの上野真氏は「自社に必要なレイヤだけ個別に展開してほしいという要望が多くの企業から寄せられたため」と説明する。
クルマツナグプラットフォームは、センシングデータのフィルタリング機能や多様なデバイスに対応するためのデータ変換機能を有する従来のIoTサービスをプラットフォームとして再構築したもので、「ノイズや異常値のフィルタリング処理」や「データ配列などの整理」をクラウド側で行える。車載機器側で個別にファームウェアを作り込みする手間を軽減できるため、開発コストが大幅に削減される。
(株)スマートバリューではクルマツナグプラットフォームの新たな展開として、11月下旬にWebサイトをリニューアルした。
従来のプラットフォームの説明に加えて、実際にプラットフォームで収集しているデータの一部をリアルタイムで公開している。
第一弾として、「エリアごとの平均速度」「エリアごとの平均燃費」「時間帯ごとの平均速度」の3種類をヒートマップ表示等により一目で把握できるようにする。さらに12月からは、「急ブレーキ多発地点マップ」の公開も予定している。
クルマツナグプラットフォームは多くの企業に採用されており、月間12億件以上ものデータが集まってくる。
従来のモビリティ向けIoTサービスの多くは、通信回線やクラウド上のストレージの負荷を鑑み、車載機器側でデータをサマリーしてクラウドに送信していたが、同社のサービスにおいては、1秒単位で取得したRawデータをそのままクラウド側に送信している。
これらは最新のクラウド技術や通信回線として利用しているMVNO事業者との密な連携により可能となった。
さらに、クルマツナグプラットフォームは「Elasticsearch」と呼ばれる検索エンジンを使い、瞬時に分析して見える化する。「生のデータが大量にクラウドに集まるので、加工や活用の幅が広がる」と開発・デザインDivisionマネージャーの森田憲作氏は優位点を説明する。
(株)スマートバリューでは、プラットフォームで収集したデータを分析・加工したものを活用することで、社会的課題の解決に役立てていきたい考えだ。
そのためには、自社だけではなく幅広いパートナーとの連携が必須であると考えており、サマリーデータの一部を公開することで、連携のイメージを広げていくことを想定している。
具体的には、自治体がこれらのデータを使って道路ごとの交通事故の発生リスクを算出し、事故が多発する可能性のある道路には注意を呼びかける看板を設置するといった用途を想定しているという。
また、安全・安心以外のさまざまな切り口での車両データの活用も目指している。
一例がレンタカーサービスとの連携で、北陸エリア・レンタカーと組み、9月から実証実験を行っている。
石川・冨山・福井の3県で稼働している約100台のレンタカーに専用の車載機器を搭載し、位置情報や走行経路、走行距離などのデータを携帯電話回線経由でクラウド上のプラットフォームに収集。12月までの3カ月間にわたり取得したデータを元に、個人を特定しないかたちで、訪問ルートや訪問順序、属性に応じた傾向などを分析する。観光客により有益な観光案内や観光地の提案を行うための情報を観光協会などに提供し、観光地のさらなる活性化に役立ててもらう狙いがある。
一般的に、IoTプラットフォームはPoC(Proof of Concept:コンセプト実証)に最適化しており、いざ商用化する段階になると一から構築し直さなければならないものが多いとされる。その点、クルマツナグプラットフォームはすでに実サービスとして利用され、車両に関するさまざまなデータがプラットフォームに集約されていることが、大きなアピールポイントとなっている。
このように、(株)スマートバリューでは車載機器メーカーやアプリケーション事業者、自治体など新たなパートナーを積極的に開拓し、クルマツナグプラットフォームにつながる車両台数を海外での展開も含めて17年6月末までに累計1万台以上に拡大することを目指している。
「北海道から沖縄まで全国各地のクルマの走行データを持っていることは、大きな価値を持つ」と上野氏。多様な走行データは将来的に、自動運転技術の実現にも重要な役割を果たすことになる。そこで、自動運転に取り組む自動車メーカー各社やIT企業などとのパートナーシップにも意欲を見せる。
モビリティIoTに関心がある企業には、ぜひ一度クルマツナグプラットフォームを検討することをお勧めしたい。
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