オープンソースのビジネスモデル?


 さて、ここまで説明してきたとおり、オープンソースとしてリリースすることにはそれなりのメリットがたくさんあります。しかしここで、デメリットについても触れておかなければなりません。

 デメリットとして一番に挙げられるのが、「無料では儲からないのではないか?」という点では無いでしょうか。いくらメリットが多いと言っても、ビジネスとしても成り立たなければ、開発者やその所属する組織を経済的に支え続けることはできません。では、オープンソースのビジネスモデル(収益構造)とは、どういうものなのでしょうか?

●(自身にメリットのある)事実上の業界標準を作りあげる
 昨今、モバイルの分野でもっとも注目を集めているオープンソースは、スマートフォンのOSとして搭載され始めたGoogleの「Android」でしょう。各種報道を見る限りでは、Androidをオープンソースとする理由は、多くのスマートフォンに採用してもらうことで、Googleのサービスを利用しやすいものにするためと伝えられています。Googleのビジネスモデルの基本は広告モデルですので、Googleのサービスが使い易いモバイル端末が市場に多く普及することで、結果としてGoogleの広告収入が増えることは想像できます。

 しかし、このようなビジネスモデルは、極端に言えば、事実上の標準を作りあげ、市場を席巻したうえで収入を得るという壮大なものです。これまで、いくつも同じような試みがありましたが、成功したのはほんの一握りだけという厳しい世界であり、開発コストを回収できずに撤退をしたという話も良く聞きます。そのため、これを目的にするというのは、特別な事例と言えるでしょう。

●オープンソース製品を組み込んだシステムを販売する
 一方、現実的な路線としては、オープンソースにすることで急速に普及させたソフトウェアを基幹のパーツとして組み込んだアプリケーションシステム全体を販売するビジネスがあります。

 Hibariのビジネスモデルがこれにあたります。Hibariをその一部として使用するキャリア向けのメッセージングシステム全体を販売するというものです。メッセージングという分野にフォーカスし、そこでのBig Dataに対するひとつの明確なソリューションとしてHibariの活用があり、トータルでお客様に喜ばれるシステムを提供することができています。また、メッセージング分野だけではなく、Hibariを利用する新たなアプリケーションのためのインタフェース、ツール、システムなどをニーズに応じて開発し、販売すると言う展開も期待しています。

 しかし、このような例もまた少ないのが現状です。Hadoop/HBaseのCloudera、CassandraのDataStax(旧Riptano)、MongoDBの10gen(テンジェン)など、NOSQLのオープンソースそのものをビジネスにする多くの企業は、いわゆる一般的なオープンソースのビジネスモデルを展開しています。具体的には、以下のようなビジネスモデルとなります。

●「フリーミアム」型のビジネスモデル
 約2年前、話題になったクリス・アンダーセン著書の「Free」では、特にインターネットで提供される無料Webサービスが成り立つ理由について、数多くの事例を基に解説しています。そして、(業界やサービスによって異なりますが)「利用者の95%が無料で利用しても、5%が有料のプレミアムサービスを利用すればビジネスとして成り立つ」というビジネスモデルを「フリー(無料)」と「プレミアム」を組み合わせた「フリーミアム」と名付けました。この「フリーミアム」は、利用者の増加に伴う追加コストが限りなくゼロに近いという商品やサービスにおいて成り立ちます。たとえばWebサービスやソフトウェアのような分野です。

 多くがオープンソースとして提供されているBig Dataのためのソフトウェアは、基本的にこのフリーミアムの考え方に基づいているのではないかと思います。先に述べたような、NOSQLのオープンソースを手掛ける企業は、オープンソースのソフトウェアを使い易いパッケージにし、また独自の管理ツールなどを加えてプレミアムを付けています。そして、このパッケージの利用者に対して、質問に答えたり、設定やトラブルの際の手助けをしたり、プロダクトによっては緊急でバグを修正するなどの支援サービスを年単位などの期間で提供する「サブスクリプション」という契約を取り交わし、たとえば1サーバーあたり数十万円/年といったような対価を得ています。

 つまり、95%の利用者は無料でオープンソース版を利用するものの、たとえば5%の利用者は万が一のトラブルに備えて支援サービスなどのプレミアム版を購入するという前提で構築されたビジネスモデルだと考えることができます。このようなプレミアム型は、OSのオープンソースであるLinuxではRedHat、SQLのデータベースではMySQLなど、多くの先行事例があり、オープンソースの一般的なビジネスモデルです。

●「ノウハウ」を提供して対価を得る
 オープンソースに限らずですが、新しい技術の導入に際しては、自分で調べ、経験して学ぶための時間を節約するために、活用のノウハウを有する専門家からのトレーニングや、コンサルティングが必要になることも多くあります。オープンソースをリリースしている企業には、すでにこれらが潤沢にあり、それを有償で提供することでビジネスが成り立つこともあるようです。

 Geminiでも、先日、NOSQL のHands-on(体験)トレーニングを有償で実施しました(図2)。その経験からすると、トレーニングやコンサルティングは、認定制度などにより高額な料金を取るケースを除き、コストを回収できれば成功であり、多くの方に深く理解してもらい、技術を広めることが最大の目的であると考えています。

図2 NOSQL Hands-on トレーニングの様子(上)と受講証明書

図2 NOSQL Hands-on トレーニングの様子(上)と受講証明書


●カスタマイズ開発で収入を得る
 利用者のニーズは多様であり、オープンソースをそのまま利用するのではなく、カスタマイズを施してから使用するケースが充分に想定されます。その際に、カスタマイズ開発をプロフェッショナルサービスとして有償で提供するというケースも良く見られるビジネスモデルです。

 また、Proof of Concept (POC)という、アイデアのプロトタイプやデモアプリケーションの開発を有償で行うこともカスタマイズの一部といえます。オープンソースを使って独自のアイデアで本格的に商用開発をするとなると、以後はそれなりのリソースとコストを割り当てることとなりますから、その前にアイデアが本当に実現できるのかどうかを実証するためにPOCを利用するわけです。

 ここまで説明してきたように、オープンソースそのものは無料で利用できますが、プレミアムサービスとしての有償サポート、トレーニング、コンサルティング、カスタマイズ開発など、オープンソースの周辺にはさまざまなビジネスが存在しているのです。NOSQLのオープンソースに対する支援サービスをビジネスとしている企業が現在、提供しているサービスを()にまとめてみました。

表 主なNOSQLの支援サービス内容

表 主なNOSQLの支援サービス内容

※上記内容は2010年12月1日現在の各社ホームページより抽出したものです


とはいえ、オープンソースは心配? だからビジネスになる。


 ここまで、オープンソースによりビジネスを展開する側の視点から説明してきました。しかし、利用する側からみてみると、オープンソースに対して抱くのは「トラブルの際に迅速な対応がとれない」、「バグをすぐに修正してもらえない」、「誰に相談すれば良いのかわからない」、「ベンチャーや個人が開発しており大手のような信頼性に欠ける」などの不安ではないでしょうか。

 たとえば、オープンソースでトラブルがあった場合、自分で調べるか、多くはメーリングリストを使ってコミュニティに問い合わせ、その「誰か」が答えてくれるのを待つことになります。このような場合に多くの参加者がいる活発なコミュニティであれば、「誰か」がすぐに対応してくれますが、新しい技術分野などでは、コミュニティも小さく、その「誰か」が少ないという不安は残ります。そのため、コミュニティの充実度がオープンソースを選ぶ際の重要な基準となることは良く指摘されています。

 ここで、オープンソースの支援をプロとして提供する企業があれば、上記のような利用者の不安は大きく解消できます。支援を提供する側としては、知識、経験、解決策が有償サービスに値するプレミアムとなるわけですから、まさにWin-Winのビジネス関係が構築されます。Hibariの場合は、Geminiはソースコードの提供者であると同時に支援企業ともなりますので、このような不安が無いのが利点とも言えます。

Big Data技術、成功のカギは?


 最後に、Big Dataに関する技術の多くがオープンソースであるのは、この技術分野がまだまだ新しい分野であり、今後も急速に成長するという開発者や関連する企業の“確信”が根底にあるからだと思います。

 特にソフトウェアの技術は、新しい技術に新たなアイデアを加えることで、進化し続けていきます。HibariがコンシステントハッシングというDynamoと同じデータの負荷分散の方法を用いているように、Hibariのチェインレプリケーションが他の新たな開発に取り入れられ、さらに良い技術に進化することも大いに期待できます。オープンソースとしてソースコードが公開されることにより、そこに世界中の英知を集めることができるのがオープンソースなのです。

 オープンソースとして鍛えられることで、Big Dataに向けた多くの技術は成熟度を高め、急速に普及し始めるはずです。そして、その技術が、モバイル業界に押し寄せるBig Data問題を解決し始めることは疑いようがありません。この連載では、Big Dataという、避けることのできない課題に立ち向かう技術のトレンドについて解説してきましたが、最終回となる次回は「Big Dataがモバイルビジネスに与える影響」というテーマで締めくくりたいと思います。どうぞ、ご期待ください。

(2010年12月17日掲載)

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