[大容量コンテンツ配信の経済学]4K時代へ進化するCDN

インターネット動画はHD品質が標準となっているが、今後は2倍以上の帯域を使う4K動画の配信も本格化する。これを安定的かつ適正なコストで行うことは本当に可能なのか。鍵を握るのはCDNだ。

シスコシステムズの年次調査「Cisco VNI」最新版(2017年6月発表)によれば、世界のインターネットビデオトラフィック全体で、CDN(コンテンツデリバリーネットワーク)によって配信される割合は2016年で52%、2021年には71%まで増加する見込みだ。無料または低廉な価格で高精細動画が視聴できるようになった今、CDNは、その環境を支えるためになくてはならない存在と言える。

4K時代を迎え、その存在感はますます高まる。そしてCDNそのものも、大規模ライブ配信の広がりや、放送事業者という新たな顧客からのニーズを背景に変化を求められるようになるはずだ。

本稿では動画配信用途をメインに、CDN業界の最新動向を見ていく。

動画配信を支えるCDNCDNは、なぜ必要なのか。ひと言で言えば、(1)動画等のコンテンツを配信する事業者と(2)視聴者、そして(3)配信経路となるネットワークを運用する事業者(ISP等)のいずれにもメリットがあるからだ。

基本的な仕組みは図表1の通りだ。ユーザーに近い位置(ISPネットワーク等)に配置されたキャッシュサーバーにコンテンツを貯め、そこから配信することで大元の“オリジンサーバー”へのアクセスを減らす。

図表1 CDNによる動画配信のイメージ
図表1 CDNによる動画配信のイメージ

改めて、(1)~(3)それぞれのメリットを整理しよう。なお、CDNのコストを直接的に負担するのはコンテンツ事業者であり、配信量に応じて料金を払う従量課金が一般的だ。

(1)コンテンツ事業者は、オリジンとキャッシュ間の通信量が減らせるため、オリジンの設備・運用費やネットワーク事業者に支払うコストを下げられる。また、CDNを利用することで、大量の同時アクセスに対応するためのキャパシティも得られる。人気コンテンツにアクセスが集中しても、ユーザーが動画を視聴できなくなる危険性が低くなるのだ。このリスク回避もCDNの重要な役割である。

(2)ユーザーは、配信経路が短くなることでより快適に動画が視聴できる。これは、コンテンツ事業者にとっても、サービス品質を高められる意味で大きなメリットとなる。

一方、直接的にCDNを利用するわけではない(3)ISPへの影響も大きい。トラフィックが減ることは収益減にもつながるが、反面、帯域が節約されることでネットワーク増設コストが軽減できる。トラフィックが急増し、増設を繰り返している現状においては、ISPも少なからず恩恵を得ていると言えるだろう。

なお、CDNのキャッシュサーバーは一般的に、多数のユーザーを抱える大手ISPの網内に設置されている。ある程度、集中配置することで運用を効率化するためだ。

ただし、中小規模ISPのユーザーに効果がないわけではない。CDN業界トップのアカマイ・テクノロジーズは、中小ISPが接続する「IX(インターネットエクスチェンジ)のすぐ後ろにまとめてサーバーを置くことで、効率的にキャッシュを設置・運用する仕組みを広げている」とAsia Pacific Network Business Development Directorの高梨斉氏は話す。

アカマイ・テクノロジーズ
アカマイ・テクノロジーズ Asia Pacific Network Business Development Directorの高梨斉氏(左)と、
メディアプロダクトマネジメント プロダクトマネージャーの伊藤崇氏

月刊テレコミュニケーション2018年3月号から一部再編集のうえ転載
(記事の内容は雑誌掲載当時のもので、現在では異なる場合があります)

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