MVNO市場の現状と展望――「格安SIM」はキャリアの壁を崩せるか?

データ通信料が月額1000円以下という格安SIMを武器に急伸長するMVNOは、今後どこまで伸びるのか――。接続料・網開放、端末、流通の3つの側面からその可能性を見ていく。

移動体通信事業者のネットワークを借りて自社ブランドで通信サービスを行うMVNO(仮想移動体通信事業者)の契約者の増加に弾みがついてきた。

2014年3月時点でのMVNOの契約者数(携帯電話事業者やBWA事業者間で回線を貸し借りしているものを除く)は、2013年9月からの半年間で128万増えて739万となった。年率換算では5割に近い伸びだ。

これをM2M分野の「モジュール型」とともに牽引しているのが、データ通信を月額1000円以下で提供する「格安SIM」のヒットで知られるようになったSIMカード型(以下SIM型)と呼ばれるサービスである。

現行の3G/LTE携帯電話には、電話番号を特定するためのID番号を記憶させたSIMカードと呼ばれるICモジュールが格納されており、これを差し替えれば、基本的には同じ回線を別の端末でも使うことができる。

SIM型サービスは、この仕組みを利用してデータ/音声通信サービスを端末と切り離して提供するものだ。そのほとんどが携帯電話事業者のネットワークとの間をレイヤ2(パケット交換網レベル)で接続することで通信速度制御などを可能にし、「格安SIM」などの独自サービスを展開している。

MVNOの業界団体であるテレコムサービス協会MVNO 委員会が7月に公表したMVNO市場調査によると、2014年3月時点のSIM型サービスの契約者数は前年度比43%増の179万に、売上高も41.4%増の251億円に達した(図表1)。この数値は会員事業者の中でSIM型サービスを手掛ける企業とオブザーバーとして参加したシェアトップのNTTコミュニケーションズの計7社のデータを集計したものだが、MVNO委員会では「SIM型サービスの大手を網羅しており、市場の100%近くがカバーできている」とする。

図表1 SIM型MVNOサービスの加入者推移
SIM型MVNOサービスの加入者推移

ビッグローブ 常務取締役でMVNO委員会委員長を務める内藤俊裕氏は、「格安SIMがメディアなどに多く取り上げられ、家電量販などでも扱われるようになったことで認知度が向上、2013年度第4四半期は非常に高い伸びを示した。この勢いは4月以降も続いており、今後も伸びが期待できるではないか」と見る。

MVNO委員会 委員長 内藤俊裕氏
MVNO委員会 委員長 内藤俊裕氏

市場の2割をMVNOが占める

SIM型サービスが伸びている最大の理由は「安さ」。携帯電話事業者のデータ通信料金が6000円程度で横並びになる中、MVNOが安価で、しかも多様なサービスを投入しユーザーの選択肢を広げたことにある。

もう1つ見逃せないのが、総務省が移動体通信市場の活性化を狙って2007年にMVNO事業化ガイドラインを改正して以降、MVNOの事業環境整備が進められてきたことだ。総務省の施策はSIM型サービスの事業モデルの確立に大きく寄与している。

総務省は「2020-ICT基盤政策特別部会(以下特別部会)」を中心とした複数の有識者会議で2020年代に向けた規制改革議論を進めているが、移動通信分野での最重要課題として掲げられているのがMVNOの事業環境の整備である。携帯電話の市場が大手3グループに集約され競争が機能しにくくなる中、MVNOには新たな競争の担い手としての役割が期待されているのだ。

内藤委員長は「欧米諸国ではMVNOが携帯電話市場の15~20%のシェアを占めているのに対し、日本はわずか4.3%。事業環境が整えば、これが4~5倍に伸びる余地があると認識している」と語る。

実際、SIM型サービスを手掛けている大手MVNOの多くが、2014~2015年度に100万を超える加入者を獲得するという意欲的な目標に掲げている。ある携帯電話事業者の幹部は、「携帯電話市場の2割ほどをMVNOが占める可能性があるのではないか」と警戒感を示す。

図表2 SIMカード型サービスのシェア
SIMカード型サービスのシェア

月刊テレコミュニケーション2014年11月号から一部再編集のうえ転載(記事の内容は雑誌掲載当時のもので、現在では異なる場合があります)

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