「キャリアの収益拡大の鍵はクラウドとビッグデータ」――米HP バイスプレジデント スライター氏

HPが通信キャリア向けのクラウドとビッグデータの展開に本腰を入れている。キャリア向け事業を所管するデイビット・スライター氏は、この2つが通信キャリアの収益創造の鍵を握るという。


――これからの通信市場の動きをどうご覧になっていますか。

スライター この市場は、非常に大きなポテンシャルを持っていると考えています。現在のトレンドから考えると、2015年時点で携帯電話の契約数は77億、移動通信網に接続されるデバイスの数は150億にまで伸びるはずです。固定のインターネットも10億加入に達すると我々は見ています。SNSの利用の広がりやM2Mの普及などが市場の伸びを牽引しているのです。

他方、通信キャリアのビジネスを考えると、急増するトラフィックに備えるための投資に見合う収益が得られにくくなっていることや、インターネット上でビジネスを展開するOTT(Over the Top)との競争の激化などの課題も抱えており、こうした市場環境の変化への対応が急務になっていると考えています。

――どのような方策があるとお考えでしょうか。

スライター 3つのポイントがあると思います。1番目は、この市場の変化は覆せないということを受け入れて、自らのビジネスを積極的に変えていく必要があるということです。

2番目は、インターネットの世界で成立してきた新しいエコシステムに積極的に参加し、その中で確固たる地位を築くことです。特に通信キャリアは、自ら通信ネットワークを持ち、多くの顧客を擁しているという大きな強みがあります。これを生かしていくことが重要です。

そして3番目は、新しい領域に踏み込むにあたって、信頼できるIT分野のパートナーを得ることです。

――HPは、そのパートナーになり得ると。

スライター そう信じています。HPにはOSS/BSSを中心とした通信分野でのビジネス経験が豊富にあります。これを生かして、新時代の通信キャリアのビジネスに貢献していきたいと考えているのです。

サービスをクラウド上に

――通信キャリア向けソリューションでは、どのような分野に力を入れているのでしょうか。

スライター 当社はキャリア向けソリューションの投資を、クラウド、ビッグデータ、M2M、OSS-T(Operations Support Systems Transformation)の4分野に集中させています。特にクラウドは大きな伸びが見込める分野だと考えています。

――通信キャリア向けクラウドというと、具体的にはどのようなものになるのですか。

スライター 通信キャリアが我々のクラウドを利用して、多彩なサービスを、容易に、タイムリーに展開できる仕組みを提供することに力を入れています。このソリューションを我々は「HP Cloudsystem Service Provider」と総称しています。

我々のクラウドは、すでに1万5000社以上の企業にプライベートクラウドとしてご利用いただいており、アクセス数世界トップ10のWebサイトのうちの8つ、検索エンジントップ5のうちの4つ、ソーシャルメディアのトップ3に採用されるなど、非常に高い実績を持っています。

HP Cloudsystem Service Providerでは、この上に「統合レイヤ」という階層を設けて、OSS/BSSなどの機能をクラウドに統合した形で提供します。これにより、通信キャリアがクラウドを使って高度なサービスを容易に実現することができるようになります。

さらにその上に、多彩なアプリケーション、例えば、中小企業向けにPCの機能をネットワーク経由で提供するサービスを実現するものなどを、事前に作り込んだ形で提供します。クラウドや統合レイヤの機能を利用して、通信キャリアに独自のシステムを構築していただくことも可能です。

――通信キャリアがサービスプラットフォームを「アウトソーシング」するわけですね。

スライター その通りです。提供形態は、通信キャリアの要望によって違ってきますが、海外では初期投資を抑えて導入いただける「レベニューシェア」が中心になっています。

クラウドを活用することで、通信キャリアはコストを抑え、サービスを提供するまでのリードタイムを大幅に短縮することができます。

このソリューションは、半年前に提供を開始したばかりなのですが、すでに8つのシステムが稼動しており、5つが準備段階にあります。年内には15件程度のご利用がいただけるのではないかと期待しています。

――通信キャリアの強みを生かすべきだとおっしゃいました。これを実現できるソリューションはあるのですか。

スライター はい。我々が特に力を入れている領域です。典型的なものとして、キャリア向けクラウドの統合レイヤで提供している「SLAマネージャー」があります。

これはアプリケーションに応じて通信回線の品質を動的に変えることができるソリューションで、これにより通信キャリアは高品質のサービスを効率的に提供することができます。ネットワークを持たないOTTには真似ができません。

もう1つ、通信キャリアの「強み」を生かせるソリューションとして、当社が力を入れている分野に「ビッグデータ」があります。これは企業が持っている膨大な情報の中からビジネスに役立つ規則性を見いだし、活用していこうとするものですが、特に通信キャリアは、膨大な顧客情報を持っていますし、ネットワーク上には多種多様なデータがやり取りされています。

これらを活用することで非常に大きなビジネスチャンスが生まれる可能性があります。

月刊テレコミュニケーション2012年7月号から再編集のうえ転載(記事の内容は雑誌掲載当時のもので、現在では異なる場合があります)

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