台頭する「モバイルヘルス」――ヘルスケア分野のパラダイムシフトが市場成長を後押し

近年ヘルスケア分野において、ICTを高度に活用したM-Health関連サービスの台頭が著しい。本稿では、海外での先進事例を概観するとともに、日本における普及の可能性について解説する。

日本ではあまり馴染みがないと思われるM-Healthだが、欧米ではモバイル関連サービスの高度適用領域として非常に着目されており、大きな成長が予想されている(図表1)。

図表1 スマートフォンユーザーとM-Healthユーザー数の予測
図表1 スマートフォンユーザーとM-Healthユーザー数の予測

M-Healthは、「Mobile-Health」の略だ。健康、医療、介護といった広義のヘルスケア分野に対して、モバイルを中心とした情報技術に立脚したサービスを展開していくことを意味する。弊社アーサー・D・リトルでは、「モバイル」「エレクトロニクス」「ヘルスケア」の重なり領域で生み出されるサービスと位置付けている。

各プレーヤーの取り組みを概観すると、IT関連だけでなく、従来からヘルスケア関連サービスを提供してきたプレーヤー、特に医療機器メーカーを中心に提供されている。

M-Health先進国となっているのは、ヘルスケアの世界の規制緩和に積極的な国や、グローバルに活躍する医療機器メーカーを有する国などが多い。

その一方、発展途上国や新興国等、今後、国を挙げて国民の健康促進を図らなければならない地域においても大変注目されており、日本ではまだ実現されていないようなM-Healthサービスを即効性の高いソリューションとして認識・導入して具体的な成果を獲得している状況にある。

今後ますますM-Healthが普及していくのは、もはやグローバルレベルでの共通見解と言える。

ヘルスケアの世界で起こる2つのパラダイムシフト

M-Healthが1つの市場として着目される背景には、“広義”に捉えたヘルスケアの世界におけるパラダイムシフトがある。

1つ目の観点は、日本にも当てはまることだが、国を挙げた「健康・予防機運の高まり」だ。長年ヘルスケアにおけるサービスの高度化は、すでに健康を損なってしまった患者とそれに対峙する医療機関に主な力点が据えられてきた。

しかし近年は、国民の医療費総額抑制を目的に、各国ともに健康政策に力を入れており、疾病予防サービスに注目が集まってきている。

厳格な医療制度の下で運営されている医療の世界では、サービスや利用可能な機器に様々な制約条件が課せられている。ところが、予防などのサービスは医療制度の適用範囲外となるため、自由度の高いサービスが展開可能だ。スマートフォン分野で健康関連アプリケーションの利用が急拡大しているのは、その象徴的な事例であろう(図表2)。

図表2 カテゴリ別M-Healthアプリへの平均支出額
図表2 カテゴリ別M-Healthアプリへの平均支出額

2つ目の観点は、「患者目線を重視したサービスの高まり」だ。これまで医療分野のプレーヤーは、医師を始めとする医療従事者の便益を最優先してきた。しかし近年は、患者の便益を最大限追求することによって、自身の価値提供の幅を大きく広げることに成功している。

この背景には、医療の世界における患者の「QOL(Quality of Life)」重視のトレンドがある。

月刊テレコミュニケーション2012年5月号から一部再編集のうえ転載(記事の内容は雑誌掲載当時のもので、現在では異なる場合があります)

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松岡良和(まつおか・よしかず)

世界で最初に設立された経営コンサルティングファームのアーサー・D・リトル・ジャパンで、TIME(Telecommunication/Information Technology/Media/Electronics)プラクティスの日本代表を務める。専門領域は、同分野に対する事業戦略立案、新規事業開発、組織・人事制度改革等。国内最大手システムインテグレーター、会計事務所系コンサルティングファーム、欧州最大手IT・戦略ファームを経て、アーサー・D・リトルに参画

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