LTE本格開始までは低空飛行のフェムトセル

注目度が再び高まってきたフェムトセル。ただし、離陸するのは各キャリアのLTEが出揃うタイミングとなり、2015年度の加入者数は最大で200万超となる見通しだ。

3GPPのRelease8における最初の標準化に引き続き、Release9、そしてRelease10――と、着実にフェムトセルの標準化が進められるなか、このところ国内でも携帯電話キャリアの取り組みが活発化してきた。

2009年11月、商用ベースでは初のサービス「マイエリア」を開始したNTTドコモに続き、今まで沈黙を保っていたKDDIが3月よりサービストライアルに踏み切った。さらに3月28日、ソフトバンクモバイルも電波不感ユーザーに対するフェムトセルの無料配布を宣言するなど、フェムトセル本格時代に向けた前哨戦の火ぶたが切って落とされた感がある。他方では、FTTHの浸透とNGNの拡販を背景に、ホームICT構想の実現に向けた取り組みもいよいよ動き出した。フェムトセルは、その重要な役割を担う存在として、改めて注目されるようになっている。

SONがフォローの風に

このように業界の期待感は高まる一方であるが、現状を見る限り、国内のフェムトセル市場は順調なスタートを切ったといえる状態ではない。技術的課題を大きな背景として、キャリアが慎重さを崩さず、大々的なマーケティングに打って出ていないのが、一番の大きな理由として挙げられるだろう。

またフェムトセルに関しては、従来型基地局と比較して関連する法制度などが緩和されたものの、高度なサービスを実現するためには、制度的により煮詰めるべき点があるとの指摘もされている。

だが、市場拡大の阻害要因となっているこうした課題は、早晩解消の方向にあると見ていい。

屋外のマクロセル基地局などへの電波干渉問題に代表される技術的な課題は、さまざまな解決策が考案・標準化の途上にある。制度的な観点から見ても、ICT政策に密接不可分の関係にあるフェムトセルが、現状のままでよしというわけにはいかないはずだ。

これらの課題がクリアされるにつれ、キャリアは本格的なフェムトセル戦略の推進に舵を切ると予想されるが、我々、情報流通ビジネス研究所が行った調査では、13~14年度にその転機が到来するという結果が出た。本調査は、各種通信事業者やベンダー、アナリストなどの業界関係者にフェムトセルに関する緊急アンケート調査を今年1月から3月にかけて実施、マーケットスケールや今後の推移等を予想したもの。調査は当社のプロジェクト「フェムトセル関連市場と事業戦略の展望」の一環であり、その結果は「第2回報告書・機器/サービス市場予測編」にまとめている。

2013~2014年度というタイミングは、各社のLTEが出揃い、3Gからの本格的な移行が始まる時期と重なる。LTEにおいては、基地局が自律的なカバーエリアの最適化を行う「SON」(Self Organized Network)の標準採用が見込まれている。フェムトセルを用いるサービスにとって、SONの技術確立は力強いフォローの風なのである。

拭えない失速リスク

こうしたことからフェムトセルは、各キャリアのLTEサービスが出揃うタイミングで離陸すると予想される。加入規模は、累計ベースで2015年度に最大200万超が見込まれる。反面ミニマムでは、同年度で約10分の1規模にとどまるという結果が出た。

図表 フェムトセル市場の立ち上がりと各社のLTE開始時期
フェムトセル市場の立ち上がりと各社のLTE開始時期

その要因の1つは、フェムトセルの加入規模を大きく左右するLTEサービスの動向だ。音声トラフィック伝送方式の問題(既存3G併用からVoIP/フラットIP化、およびそれに起因するエリアカバー問題等)、SIMロックを巡る議論をはじめ、LTEサービスの展開ロードマップ上の波乱要因が払拭し切れているわけではない。

今回の調査においては、このような理由を背景に、最大予測値と最小値間の格差が大きく出たものと考えられる。いってみれば、ある時期から大きく立ち上がるという期待感がある一方、それでも失速のリスクは拭えないということだ。

2015年度における最小予想値は、フェムトセルが電波不感エリア向けユーザーに細々と提供されるだけの、傍流サービスにとどまることに他ならない。換言するならば、今後期待されるようなホームICTの中核として、フェムトセルが位置付けられる可能性は、極めて低いケースを表しているといえよう。

LTEサービスが各キャリアから出揃った段階において、ミニマムな予想値近辺、あるいはそれ以下の水準に収まるならば、フェムトセルを軸にした宅内向けサービスという戦略オプションは、キャリアにとって、もはや検討の枠外ということになる。

月刊テレコミュニケーション2010年5月号から転載(記事の内容は雑誌掲載当時のもので、現在では異なる場合があります)

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